「絶対安全」という危険思想

1週間前から福島第一原発の建屋内に遠隔操作ロボットが入り、写真を撮ったり放射能レベルをチェックしています。素人目で見ても、これらのロボットにより極めて貴重な情報が得られているとわかります。事故から1ヶ月、人が入ることができない建屋内の様子が初めてわかったのですから。

それにしても震災・原発事故から1ヶ月以上たってようやくのロボット投入。なぜこんなに時間がかかったのでしょう?

理由は、日本が高放射能下にある原発サイトでの使用を想定したロボットをもっていなかったからです。だからアメリカから借りました。でも、借りることさえ「想定外」だったから、日米の無線周波数の違いのためすぐには使えなかったんです。それでこんなに時間がかかったんです。


「日本はロボット技術では世界で一番だ!」とか言ってませんでしたっけ?


そうです。日本のロボットは、二足歩行したり、ダンスしたり、握手したり、という点で世界一です。自動車を組み立てたり、高速でペットボトルに水をつめたり、一分間に何十個もの寿司を握るのも得意です。

けれど、日本には原発現場で使えるロボットはありません。だって「原発は絶対安全だ」から、人が立ち入れなくなる事態に備えておく必要なんてなかったからです。

東電や経産省がロボット技術をもつ日本企業に声をかけ始めたのは事故の後で、そんなんじゃ現場で実験をするようなもんです。高い放射能レベル下にある原発建屋の中に、そんな環境で初めて使う精密なロボットを入れて万が一動かなくなったら、ロボットは取り除くこともできない「建屋内の新たな障害物」となってしまいます。


じゃあ、なんでアメリカには原発内でも使えるロボットが既にあるんだって?
だってアメリカでは、「絶対安全」などという危険思想は流布されていないからです。


★★★


今回、福島原発で冷却機能を回復するだけでも半年から年単位の期間が必要になりつつある中、重大な問題となりつつあるのが、現地で復旧作業をするエキスパート作業員の不足です。

事故以来、東京電力や協力会社の現場社員の方々は、放射線を浴びつつ不眠不休の作業を続けてくださっています。こういった作業員の被曝線量には規定値があり、「被曝が累計100ミリシーベルトに達すると、5年間は原発で作業ができない」と法令で決まっていました。けれど、既に21名もの作業員がその基準を超えて作業をしています。

そこで東京電力、協力会社、そしてなんと労働組合までが「彼らはプロ中のプロ、今後彼らが原発の仕事に就けなくなるのは損失。規則を変えるべきだ。」と主張し、厚生労働省がそれを追認。上限は100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げられました。

それでもこの先の作業期間の長さを考えると作業員の不足は明白です。政府はさらにこの基準を上方に変更することを検討し始めています。


ところで下記の朝日新聞の記事には、福島県の電力総連の幹部の発言として「作業員には、被曝量が上限を超えたら原発では働けなくなるため、失業してしまうという不安がある」とあります。

既に規定以上の被曝をしている作業員が怖れているのが、「失業すること」だと思ってる電力総連の幹部ってマジですかね?いったい何を食べたらそんなユニークな発想が身につくんでしょう。作業員の方のご家族の気持ちとか考えられないんでしょうか。

被曝基準超えた作業員の雇用継続求める 労使、国に要望
2011年4月9日17時14分


 厚生労働省の小林正夫政務官は8日、福島市内で福島第一原子力発電所の労働環境改善について東京電力や協力会社、労働組合からヒアリングをした。基準を超す放射線を浴びた作業員が今後も原発で働けるよう、国に対応を求める声が労使双方から出た。小林政務官は「一義的には上限を超えた作業員は内勤にするなど企業が責任を持つべき話」と述べ、国の支援策については言及を避けた。


 福島第一原発の事故復旧での作業員の被曝(ひばく)線量の上限は250ミリシーベルトだが、累計100ミリシーベルト以上になった人は、法令上は今回の復旧作業開始から5年間は原発で作業ができないとの解釈がされている。現時点で100ミリシーベルトを超えた作業員は21人いる。


 ヒアリング後、東芝の担当者は朝日新聞の取材に対し「今、作業しているのはプロ中のプロ。今後、彼らが原発の仕事に就けなくなるのは損失。規則を変えるべきだ」と話した。福島県電力総連幹部は「上限を超えたら失業してしまう不安が作業員にはある。1人の被曝線量が上がりすぎないよう、人手を多く確保するため国も後押ししてほしい」と求めた。

http://www.asahi.com/national/update/0409/TKY201104090116.html

★★★


先日紹介した、日本の原発立地の地図をもう一度ご覧ください。どこも複数の原子炉が造られており、ひとつの災害でそれらが同時にトラブルに陥る可能性があります。

今回の福島第一原発も、4つもの原子炉が問題を起こしているからパニックなわけです。あっちこっちで次々と別のトラブルが起こる。対応できる作業員の数は限られているのに全然追いつかない。トラブっているのが、もし原子炉ひとつだったら全く状況は違ったでしょう。




・出展:日本原子力産業協会の原発立地地図



上図で部分拡大図になっている福井県の原発密集エリア。このエリアが何らかの天災(金王朝のミサイル実験失敗で誤爆されることを含む)に襲われたら、福島の4個どころではなく、10個から15個の原子炉等が同時にトラブルに見舞われる可能性があります。

その時、それらの対処に必要な作業員数を、関西電力は確保できるんでしょうか?福井県や京都府の知事はその辺、ちゃんと確認しておいたほうがいいと思います。



それとも、失業が怖くて何時間でも高放射能下で働く作業員がいるから問題ないって?
というか、原発は「絶対安全」だから、そんなこと考える必要もないと?



既存原発の災害対策として、予備電源を用意したり、津波対策の壁を高くしたり、そういう「ハード的」な対策ももちろん大事だとは思います。でも実は一番足りてないのは、人なんじゃないの?

「絶対安全」という危険思想をすてて、消防署と同じくらい普段から訓練していたら「イザという時、何が足りないか」、もっとビビッドにわかったはず。「絶対安全」ってホントに最悪な思想です。


そんじゃーね。