クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

うんこになって飛行移動するカタツムリ

小さなカタツムリは、鳥に食べられた後、消化されずに生きたまま糞と一緒にばらまかれて移動する—このような説を裏付ける研究成果が、東北大学の大学院生・和田慎一郎さんらによって発表されました。


Tiny snails survive digestion by birds: BBC

Snails can survive passage through a bird’s digestive system: Journal of Biogeography


果物を食べた鳥が、その種を糞とともまき散らす事で、植物の分布を広げるのに一役買っている事は良く知られています。これを被食型の動物散布といいます。

しかし、動物が鳥に食べられて散布される現象は、広く知られていません。

今回、和田さんらは、鳥にカタツムリの一種のノミガイを食べさせたところ、糞と一緒に排泄された一部のノミガイが生存できる事を発見しました。

下の写真はメジロの糞とともに排出されたノミガイです。



写真提供:東北大学・和田慎一郎


ノミガイは小笠原諸島の母島に広く生息しています。また、母島にいるメジロは、ノミガイを食べる事も観察されています。

のろのろとしたノミガイが島全体に分布しているのは、メジロに食べられた後に糞と一緒に落とされることで移動しているからではないか?そんな仮説を検証するべく、和田さんらは、メジロに食べさせたノミガイが、糞と一緒に出てきた後に生きているかどうかを調べました。

ところで、この実験に使われたノミガイは母島ではなく、沖縄で捕獲したものです。母島から輸送するのは難しかったのだとか。また、このメジロ・イート・ノミガイ実験は、横浜のズーラシアと野毛山動物園で行われました。

実験の結果、メジロの糞として排出されたノミガイの殻にダメージは見られず、全体の14.3%の個体が生きていました。さらに、生き残ったノミガイの中には子どもを生んだ個体もいました。

ノミガイは体長が2.5mmほどと小さく、メジロが食べてもダメージを受けにくいようです。実際に、これよりも大きいカタツムリは鳥に食べられるとダメージを受けて死んでしまいます。ノミガイがメジロの消化器官内での消化作用に耐えられた理由は、今のところ分かっていません。

この実験結果と同じことが母島でも実際に起こっていれば、ノミガイが本来の場所から遠く離れた新天地までメジロによって運ばれた後に、その場所で繁栄できる事を意味します。

さらに、和田さんらは、母島にいるノミガイのDNA(ミトコンドリア16S rRNA)を、地理的に離れたグループ同士で比較したところ、地理的に隔絶された場合に見られるはずのグループ間の変異の差が見られませんでした。これは、距離が離れたグループの間でも、ノミガイが行き来して交雑していることを示唆しています。

そして、島の中でメジロの多い場所ほどノミガイのDNAの変異も高い傾向がありました。つまり、メジロによって色んな場所からノミガイが運ばれて交雑していることを示唆しています。

ざっくりと言えば、メジロは遠距離恋愛中のノミガイどうしを実際にくっつける役目を果たしているわけですね。

とはいえ、実際に母島の野外調査でメジロの糞から生きたノミガイを観察しなければ、この説は100%証明されません。ということは、次のステップはガチンコ野外調査となるのでしょうか。

「メジロだ・・!うんこしろ・・・うんこするんだ・・・」

「した!」

「どこに落ちた?!」

なんて野外での作業を想像すると、とてつもなく大変そうです(当然、だからこそ動物園で実験したのだと思われます)。

移動能力の低い他の無脊椎動物でも、鳥の糞によって散布されるものがさらに見つかってくるかもしれません。

でも、あれですね。自分がカタツムリで遠距離恋愛中の相手がいたとして、その相手にはメジロに食べられて運んでもらわなければ会えないとしましょう。でも、メジロに食べられれば15%くらいしか生き残れない。そんなリスクをとってまでメジロに食べてもらうのか、あるいは身近な別の相手を探すのか。究極の選択ですね。


【関連記事】

アリをゾンビにする寄生カビの華麗なる生態

タイムトラベラーと肉体関係を持つのは危険