大塚商会社長が語る「全員参加型マネジメント」の真意松岡功のThink Management

大塚商会の大塚裕司社長が会見で、営業活動における人事評価の仕方について語った。他の人事評価とも比較しながら、その真意に迫ってみたい。

» 2012年08月16日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

営業マンの人事評価の仕方に新機軸

 「この1年余り、営業活動において全員参加型のマネジメントを意識し、実践している」

 大塚商会の大塚裕司社長は8月1日、同社が開いた2012年12月期の中間決算説明会で、営業活動における人事評価の仕方についてこう語った。

会見に臨む大塚商会の大塚裕司社長 会見に臨む大塚商会の大塚裕司社長

 全員参加型のマネジメントとはどういうことか。大塚氏はこう説明した。

 「当社の営業活動では、全社的な競争の中で高い成績を上げて表彰されることが営業マンや営業チームの1つのモチベーションになっているが、成績が芳しくないと当然そうしたモチベーションも上がらない。そこで1年余り前から、成績下位の営業マンや営業チームもモチベーションを上げることができるように、個別の目標を達成したり自己新記録を出したりすれば、会社としてきちんと評価するようにしている」

 「例えば、100の目標に対してこれまで20の成績しか上げられなかった営業マンが、30の成績を上げられるようになれば、生産性が5割アップしたことになる。その30の成績を40、50へと上げていけるようなツールや仕組みに、会社として継続的に投資する。そうすることによって、営業マンのモチベーションやスキルを底上げし、営業活動全体の活性化を図っていく。これが全員参加型のマネジメントだ」

 大塚氏の説明では「人事評価」との表現こそなかったが、この考え方は営業マンの人事評価の仕方として新機軸を打ち出したものともいえそうだ。内容の詳しい説明はなかったが、営業に強みを持つ大塚商会だけに、今回の営業の底上げ策については、個々の営業マンのスキルアップや営業チームとしてのマネジメント強化などに注力しているようだ。

 大塚商会はここ数年、これまで製品別に分かれていた営業展開から営業マン一人一人が全製品を対象に複合提案する「オールフロント」体制に移行したり、営業マンにiPadを持たせて顧客への提案力を強化するなど、営業の改革に取り組んできた。

 さらに同社には、営業活動の基盤として「SPR(Sales Process Re-engineering)」と呼ぶCRMとSFAの機能を併せ持った独自のシステムがある。これによって、データに基づく科学的なアプローチによる顧客満足と効率的営業を同時に実現している。今回の営業の底上げ策もこうしたバックボーンを生かした同社ならではの取り組みといえる。

全員参加型で一人あたりの生産性向上へ

 大塚氏の話を聞いていくうちに、筆者の頭には米ゼネラル・エレクトリック(GE)社の人事評価の仕方が思い浮かんだ。GE前CEOのジャック・ウェルチ氏が書いた『WINNING』(日本経済新聞出版社)の中で紹介されていたその内容は、社員をトップ20%、ミドル70%、ボトム10%にランク付けし、ボトム10%には「辞めてもらう」という厳しいものだ。

 誤解のないように付け加えておけば、『WINNING』の内容の底流にあるのは、「人がすべて」という考え方だ。GEもウェルチ氏もそれを信念とし、例えばGEのリーダーシップ研修は世界最高レベルといわれるように、人の強さが会社の強さになっているとの印象がある。

 では、「人がすべて」という会社が、社員をランク付けするのはどういうことか。ウェルチ氏は著書でこう記している。

 「透明性の高い組織で明確な業績目標とその評価制度が整っていれば、ボトムの10%の人は、自分がどういうポジションにいるかをわきまえているはずだ。たいていの人は、言われる前に自分から辞めていく。自分が必要とされていない組織にいたいと思う人はいない」

 ただ、続けて「ボトム10%の人が他の組織に出て、そこで適職を見つけ、能力を発揮して成功することが頻繁にある」とも記している。こうした見解からGEがいう「人がすべて」とは、現実を直視したうえで、社員一人一人の能力を社内かどうかにかかわらず、最大限に発揮できるようにすることだと、好意的に解釈すれば見て取れそうだ。

 ウェルチ氏は社員のランク付けについて、「自分の立場がわかれば、自分の運命を自分でコントロールすることができる。これ以上、公平なことはあるか?」とも述べている。そう考えていくと、GEのように「人がすべて」という会社は多いだろうが、肝心なのは社員が能力を発揮するために、具体的にどのような施策を打っているか、にありそうだ。

 話を戻して、大塚商会の今回の取り組みをみると、まさしく社員(営業マン)の能力を発揮するための具体的な施策である。GEと違って、ボトムの営業マンを生かそうというものだ。

 大塚商会が営業の底上げ策を図っているのは、もちろん業績アップにつなげるためだが、そこには1つのキーワードがある。大塚氏の説明でもキーとなっている「生産性」だ。

 この点については、中間決算の説明の中で興味深い話があった。同社の連結ベースでの社員数は2012年6月末時点で8272人。前期末とほとんど変わらないが、業績が好調だったことから、社員一人あたりの売上高は3220万円と過去最高を記録した。これをして大塚氏は、「社員一人当たりの生産性を過去最高にできた」と納得の表情を見せた。

 これを実現できた要因として、1年余り前から取り組んできた営業の底上げ策による効果も挙げられるのだろう。同社が営業の底上げ策に基づく「全員参加型マネジメント」を公表したのは今回が初めてだが、1年余り前から試行錯誤を重ねて、中間決算の成果に結びつけたからこそ公表したと推察できる。

 全員参加型によって一人当たりの生産性向上を図る。いかにも日本的マネジメントで、「余裕のある大塚商会だからできること」との声も聞かれるが、成果が上がり始めているのならば、それは恐らく正しい取り組みだろう。マネジメントの根幹にかかわる取り組みともいえるので、今後も引き続き注目していきたい。

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