アンサンブル力を鍛える

第07回 リタ・スローン先生(アンサンブルピアニスト)

2009/02/12
第7回
第7回 「積極的にパートナーと共に新しいアイディアに挑戦していくことが大事です」

Q. まず、なぜご自身アンサンブルピアニストという道を選ばれたのですか?

なろうと決めたわけではなくて、本当に必然的なものでした。気が付いたら室内楽、歌曲、デュオを弾く機会が増えていき、アンサンブルの魅力にどんどん引き込まれていったのです。ある時点でソロの音楽よりも圧倒的にアンサンブルを弾くことが多いのに気づいたのですが、全然苦ではなく、むしろ幸せに感じました。

Q. 良いアンサンブルピアニストになるためには何が重要なのでしょうか? また、他の楽器や歌手とアンサンブルをする時に、一番気をつけることはなんですか?

まず最初の質問ですが、アンサンブルピアニストにとって大事なことは4つ。まず非常に優れたリスニング能力を持っていること。次に、他の人の考え方、解釈や希望に適応できる柔軟な性格であること。他の人と演奏するという喜びを心に持っていること。そして、初見や速い譜読み能力を持っていることですね。
いつも気に留めておいた方がいいことは、とにかく「聴く」こと!音楽だけでなく、相手が何を伝えたがっているのか、どんなボディ・ランゲージを行っているかも含めて大事ですね。
そして相手をむやみに追わないこと。相手の言いなりになるのではなく、一つの立派な作品として向き合い、パートナーがどのようなリズムでどの方向に向かうか予測できるようにする─つまり受身ではなく、大事な(活発な)メンバーの一人として音楽に参加することです。そして当たり前のことですが、よく準備するということ。最後に、これが一番大事なことかもしれませんが、提案すること、発言することを恐れないことです。音楽メンバーの一人として、積極的にパートナーと共に新しいアイディアに挑戦していくことが大事ですね。

第7回
公式伴奏者たち

Q. アスペン音楽祭のコラボレーティブ・アーティスト・プログラム(アンサンブルピアニスト育成のためのプログラム)を立ち上げたきっかけはなんだったのですか?

なぜ始まったのかといえば、まず今までそういうプログラムが存在しなかったから、そして明らかに必要だったからです。伴奏者の手配をしていた当時の責任者の人に、声楽や器楽奏者に割り当てられる伴奏者の仕組みがあまり上手く機能していないと忠告したところ、ではちゃんと機能する仕組みを作ってくれませんかと言われたので、快諾しました。ずいぶん昔のことなので、何年から始まったかはちょっと失念してしまいましたが・・・。始めの頃は、単に伴奏者を選んで割り当てるような作業が主でしたが、その後、伴奏者向けのセミナーを作ったので、コラボレーティブ(共演)プログラムと改名されました。少しずつ様子を見ながら改良し、いらない物は排除したりし、今の形になりました。セミナーの内容は、今後アンサンブルピアニストとしてやるべき事を補強するという目的で始まり、なるべく普段の経験だけではカバーしきれない専門的・実用的な部分を重点的に取り上げるようにしました。例えばオペラピアニストになるにはどうすればいいか、オーケストラパートをどうやってピアノで弾くか、などですね。
また、毎年アスペン音楽祭にいらっしゃる招聘アーティストの先生方をセミナーにお招きし、それぞれの先生の得意分野をお話頂く、例えばリサイタルでの伴奏方法や、コンチェルト伴奏のコツ、ピアノから見た歌曲の研究など多岐に渡りますが、このように特別ゲストを招く形で行う事もあります。

オーケストラ演奏会
オーケストラ演奏会

Q. 日本ではまだ「アンサンブルピアニスト」という職業が一般的に確立されておらず、生計を立てられる状態ではないのが現状です。アメリカのアンサンブル事情はいかがでしょうか?十分な教育や経験を積むことができて、また職業として成り立っているのでしょうか?

アメリカでは、確実に状況が良くなってきています。生徒や先生の伴奏、コーチングのために伴奏者を雇う大学が年々増えています。でも学校によってかなり差があるので、状況が大変良い場合もあれば、そうではない場合もあるようです。料金はピンからキリまで、何しろ広い国なので相場というのはあまり決まっていません。私のようなアンサンブル専門の教授職の間では、この問題をお互い話し合って、なるべく多くの仕事が供給されるように努力している人も多いです。まだまだ状況は完璧とはいえませんが、伴奏法の教育の充実さ、伴奏の仕事の多さ、料金に関して言えば、日本や他のアジア諸国より進んでいると思います。

Q. PTNAのピアノ伴奏者紹介について、一言!

まさに今必要とされているプロジェクトだと思いますし、素晴らしいと思います。是非、他の国々にも情報を発信されると良いでしょう。私も何かできることがあれば何でも協力したいと思っています。

ありがとうございました!

(インタビュー・訳:石川悠子)

リタ・スローン先生
リタ・スローン Rita Sloan (ピアノ)
ポーランド系の両親のもとロシアで生まれる。ジュリアード音楽院卒業。今までマーティン・キャニン、ロジーナ・レヴァイン、レオン・フレイシャー、ヴラディミール・アシュケナージに師事。ソロピアニスト、伴奏者、室内楽奏者として活動する傍ら、アンサンブルの後進の指導にも力を注ぐ。
今までアンサンブル・ピアニストとして多くの優れた演奏家たちと国内外で共演。シカゴ交響楽団室内楽シリーズ、シアトル室内楽フェスティバル、ロングアイランド・モーツァルトフェスティバル、プロンクス・アートアンサンブルシリーズ、ニューヨークのバージ室内楽シリーズ、オクラホマの「OKモーツァルト」等の室内楽フェスティバルにゲスト出演している。2003年第25回国際ウィリアム・カペル・ピアノコンクールでは特別ゲストを務める。今までにアスペン・アンサンブル及びトランペット奏者クリス・ゲッカー氏とのデュオで計2枚のCDをリリース。
今までにイギリス王立音楽院、ヴィルヌス音楽アカデミー(リトアニア)、ニューイングランド音楽院、ジュリアード音楽院等、アメリカ国内主要の音楽大学でマスタークラスを行う。また台湾や韓国、日本でも度々マスタークラスや演奏活動を行う。
1999年より米国メリーランド大学ピアノ科及び伴奏科教授。コロラド州のアスペン音楽祭では後進の指導を行う傍ら、伴奏者・室内楽奏者を育成するコラボレーティブ・アーティスト・プログラムを設立、ディレクター及びコーディネータを務めている。


アスペン音楽祭 Aspen Music Festival and School

アスペン市街
世界有数の大規模な音楽祭。毎年夏、米国ロッキー山脈麓の高級リゾート地・アスペ ンで約9週間に渡って開催される。音楽監督は指揮者のデヴィッド・ジンマン。学生数 は総勢1000人に上り、オーケストラも5つ存在する。毎日コンサートやマスタークラ ス、レッスンが行われ、世界中から著名な音楽家が集う。ピアノプログラムの教授陣 はレオン・フライシャー、ジョン・オコーナー、ヨへヴェト・カプリンスキーなど。
☆アスペン音楽祭公式サイト http://www.aspenmusicfestival.com/index.cfm

ピティナ編集部
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