スティール・ボール・シャマラン『デビル』

M・ナイト・シャマランによるニューレーベル「ザ・ナイト・クロニクルズ」劇場公開作品第1弾*1。シャマラン自身は裏方に回り、若手監督の育成に励むという企画。「ザ・ナイト・クロニクルズ」は「シャマランの編年史*2」という意味になるのかな。何にせよ、40代になったばかりなのに裏方に回るのは早いんじゃ?とか思ったけれど、本作を見て、シャマランはまだまだやってくれるハズだ!と思えました。

ボクは小市民的なスケールで描かれる映画が大好きなので、当然本作のような「エレベーターに缶詰くらった男女5人が、お互いの疑心暗鬼から密室血みどろしどろもどろ」といった具合の作品はツボ中のツボ。鑑賞後には「うわぁ、もうエレベーター乗りたくないわぁ」とか思うこと請け合いで、オカシなことを考えなくてもシンプルで楽しい素敵な作品。もうこれ以上言うことがないんだけど、いろいろとこじつけて余韻を更に楽しんじゃおうと思う。

オープニングシーン。フィラデルフィアに立ち並ぶビルが逆さまに映される。ゆっくりと動いていく視点はビルの通気孔へと入っていき、さながら『パニック・ルーム』における鍵穴からのような映像を見せてくれる。この視点は劇中で明かされる「悪魔」なるものがビルへと侵入していく様子だと受け取れるが、思うにコレはシャマランによるところの視点だ。タロットカードに「吊された男*3」というものがあるけれど、おそらくシャマランがラジー賞ばかり取ってしまうのは「信仰の違い」からくるものなんじゃないだろうか。そこまで言っておいてよくわかってはいないけども、とにかく、シャマランは人の行動には必ず理由が「ある」とするし、それは決して「神」などに定められたものではない、と言っているような気がするのだ。

あえてシャマラン作品に「神」という存在を見つけるならば、常に監督・脚本をつとめ、おまけに出演までしちゃうシャマラン自身がそうであるように思う。しかし、本作の題材は神ではなく『デビル』だ。そこで先述の「吊された男」。付け焼刃のウィキ知識になるが、吊された男はオーディン通過儀礼をモチーフにしたものだそうで、逆さの状態=正位置には慈愛・自己犠牲という意味があり、ひっくり返して片足で立ったような状態=逆位置には無駄・取り越し苦労などの意味と、もうひとつ、オーディン通過儀礼を終え更なる高みへと進む、という意味があるそうな。ラストシーン。オープニングでは逆さまだったビルが元の向き=タロットでいう逆位置になって映される。それも、「悪魔」という題材を用いてアメリカ人に「罪」を認めさせ、さらにその罪を「赦す」という如何にもな大らかさを見せて。おそろしい。本作はシャマランの「使い魔」ともいうべき作品だったのだ。

※おまけ
ジョジョ第3部インドパートの刺客Jガイルのスタンド名が「吊られた男」。能力は鏡の中に入り、中での出来事を実体化させる。映画で鏡がたっぷり壊れてた。シャマラン=インド。
・吊られた男は西洋占星術上で「海王星」または「水」を象徴している。カード番号は12。シャマランに水。ウィキ情報だけど『デビル』はシャマランが関わった12本目の映画。終る。

*1:第3弾まで予定されているそうな

*2:歴史上の事実の「発生・発展」を記した年表みたいなもの

*3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8A%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E7%94%B7