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アイデアを生み出すために、最低限必要なもの

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倉下忠憲
「アイデアを生み出す人にとって、必要なものは何か」

資金?時間?高級なノート?万年筆?新製品のガジェット?・・・

いろいろな答えが考えられそうです。でも、何か一つをあげろと言われれば、勇気を持って「自信」と答えるかもしれません。

発想法のノウハウが詰まったジャック・フォスター『アイデアのヒント』には次のようなアドバイスがあります。

「アイデアなんて考えつくはずがない」と自分に言い聞かせているうちは、アイデアは絶対に浮かぶはずがないのだ。

これは「頑張ればなんとかなる」的根性論や、スピリチュアルなアドバイスのように感じられるかもしれません。でも、あながちそうとも言い切れない側面はあります。

アイデアがどこから生まれてくるのかと言えば、それはもちろん「脳」です。そして「脳」に注目すると、上記のアドバイスは一考の価値があります。


脳のトラップ

「脳のトラップ」という表現が使われているのは、マッテオ・モッテルリーニの『世界は感情で動く』という本です。この本の中ではヒューリスティックに代表される脳の「認知的なエラー」(ときに有用ですがあえてこう書きます)がいくつも紹介されています。

たとえば、確実性効果・統計より感情・注意力の欠如・損失回避性といったものです。これらの要素は脳の働きそのものに関する効果です。当然、アイデアを考えたり、発想のタネを探す場合にも影響を与えることになります。

これらを踏まえると、『アイデアのヒント』のアドバイスの価値がより強くみえてきます。

『アイデアのヒント』には、こんな文章があります。

答えが存在するかどうか自信がないと、その答えを探し出すのは非常に難しくなりかねない。たくさん答えがあることがわかっているとき、そのうちの一つや二つ見つけるのは簡単なことだ。

これは「確実性効果」と「損失回避性」の合わせ技といったところでしょうか。

書類を探す状況を想像してみてください。複数ある書類入れのどこかにあったはず(いや、でも捨てたかもしれない・・・)という心理状況で物を探すのはかなり苦痛です。確実にここにある、と言い切れるならば多少面倒でも探しだそうとする気持ちは湧きやすいでしょう。二つの状況を比べれば、前者の方が先送りされがちなのではないでしょうか。

99%と100%の差は、5%と6%の差よりも遙かに大きいものです。すくなくともそう感じられます。同じように0%と1%にも大きな違いがあります。
※「100%儲かります」と「99%儲かります」・「手術が失敗する確率は0%です」と「手術が失敗する確率は1%です」を見比べてください。

もう一つが「たくさん答えがある」という認識。もし、答えが一つしかなければ、「正解orNot」の状況です。そうすると「間違えなくない」気持ちが強く前に出てきます。答えはいろいろあるよ、となると失敗する可能性は(気持ち的に)減少します。

この辺は、ブレストの相手の意見を否定しない、質より量、にも通じる要素です。

答えはあると信じて、しかもそれが複数あり得ると考えられる人は、アイデアを出すことに積極的になれるでしょう。

何を見ているのか

さらに『アイデアのヒント』から引いてみます。

それはあなたが本当には「見て」いなかったからだ。あなたはただ「ながめていた」だけ。意識して見ていたのではなく、単にながめていただけなのだ。

私たちが目に入るもの全てを「見て」いるわけではないことは、認知科学の実験でも明らかになっています。注意を払っていないものは、たとえ目に入っていても意識には上ってこないことが多いのです。認識は感情や意識に左右されがちです

アイデアのヒントが日常生活のどこにでも転がっていると「信じている」人は、それに対して注意を払うでしょう。しかし、そう考えていない人は同じものを見ていても、何の種も見つけ出すことはできません。

もう一点、ジョン・ダンカンの『知性誕生』に書かれている、感情が思考に与える影響についても紹介しておきます。

怒りや愛情、喜び、苦痛はすべて、その瞬間を合理化するように思考に影響を与える。憂鬱が悪循環に陥るのは、絶望感や無価値感を持つからだけではなく、その無価値感によってさらに無価値な考えだけを思いつくからでもある。

感情の状態が、思考をその方向に強めてしまうわけです。もちろん、これは逆の方向性もあります。つまり、有価値観が、さらなる有価値な考えを思いつくということです。

さいごに

「アイデアなんて考えつくはずがない」と自分で考えている人はアイデアを考えようとはしません。「アイデアなんて考えつくはずがない」は言い換えれば、自分のアイデア作成確率が0%という認識です。つまり、「確実」に「失敗」するわけです。脳はそんなものに手を出したりはしません。

また、アイデアの種なんてどこにもないと考えている人は、たとえ自分がそれを目にしていたとしても、「見過ごす」ことになります。

こうして「アイデアなんて考えつくはずがない」という自分の考えが、より強化されていくことになります。

もちろん、逆もまたしかりです。「アイデアを考えられる」と認識している人は、実際にそれを考えるでしょうし、さまざまな所からその種を見つけ出すことでしょう。そして、よりその認識を強めていきます。

こうなると次に問題になってくるのは、「どうやったらその認識を変えられるのか」です。これはたやすい問題ではありませんが、まったく不可能なことではないでしょう。

それについては次回に。

▼参考文献:

発想法のノウハウや心がけがたくさん紹介されています。この本に紹介されていることを実践したり、あるいは自分なりにアレンジをするだけで、何かしらの「自信」が湧いてくるかもしれません。そうなったらラッキーです。

行動経済学の本。脳の認知的なエラーを具体例を交えて紹介してあります。知っていてもエラーそのものは回避できませんが、エラーの結果を修正したり、あるいはそれを逆手にとって自分の行動を誘導することにも使えます。

人が「知性」と呼ぶものは、どのような働きをしているのか、あるいはこの言葉は一体何を指し示すのか、について書かれた本。

脳の機能的なお話もあり、認知メカニズムについてのお話もありです。少し読みにくいかもしれません。

▼編集後記:
倉下忠憲



スーパー追い込みモードで原稿書きの日々です。ちょっと脳神経がちりちり音を立てている錯覚すら覚えます。あんまりハイになって、一日に作業を詰め込むとだいたい次の日反動が出てきてしまうんですよね。結局は「前借り」でしかありません。もうちょっとペース良く進めばラクチンなんですが・・・。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。