自分のこころを大切にしよう――震災時のメンタルケアこころの処方箋(1/2 ページ)

無力感に苛まれる、ネガティブな気持ちになる……。直接被災していなくても、私たちのこころは震災を通じてダメージを受けています。そんなこころの疲れにそっと効き、ちょっと元気になれる処方箋をお贈りします。

» 2011年04月07日 11時30分 公開
[竹内義晴(特定非営利活動法人しごとのみらい),ITmedia]

 震災後初めて、東京都内に行きました(私は新潟在住です)。

 新潟のテレビで見る東京の景色は、計画停電などによる影響や飲食物の入手困難など多少の不便さはあるものの、日常にそれほど大きな影響はないように見えました。

 しかし都内で電車に乗って、いつもとは違う感覚を抱きました。何か殺風景なのです。「いったい、この違和感は何だろう?」と周囲を見回して……分かりました、いつもなら所狭しとぶらさがっている中吊り広告がありません。「そうか、広告は自粛してるんだな」。しばらく電車に乗っていると今度は、足元が寒くなってきました。「今日はやけに冷えるな。あっ、暖房が入っていないんだ」――わずかなことですが、いつも当たり前のようにあるものがないことで、「日常ではない」空気を感じました。

 後に会った知人にこのことを話すと、「夜にはもっと違和感があると思いますよ。今までネオンで輝いていた駅周辺や繁華街は、ホント真っ暗です。東京全体が、暗く沈んでいる感じです。」

 未曾有の震災から、もうすぐ1カ月が過ぎようとしています。震災直後は、緊迫感や、緊張感からくるある種の高揚感で強い気持ちを抱くことができました。けれども、時がたつにつれて、倦怠感や、こころの疲れを抱き始めているという方もいらっしゃるかもしれません。

 今回の震災は、日本人のこころに多くの影響を与えました。被災されたみなさまはもとより、直接被災していなくても、知り合いに被災者がいたり、繰り返しメディアで流される惨状を目にするうちに、気持ちが落ち込んでいたりする方も多いことでしょう。

 不安定な毎日の中で、笑顔が消え、元気のないスタッフのケアに戸惑っている上司、先輩、リーダーもおいででしょうし、先行きに不安を抱いている経営者もいらっしゃることと思います。

 そこで本連載は、ビジネスパーソンが震災を通じて受けたこころのダメージをどのように癒していったらいいのか、そして、1日も早く日常を取り戻し、ビジネスを通じて被災者の役に立っていくにはどうしたいいのかについてお話したいと思います。

私たちは、一人ひとりが被災者である

 「早く元気に仕事をしたいのですが、ネガティブな気分に引っ張られてしまうんです」――これは、私が関わっている心理学のトレーニングに訪れた受講者の言葉です。この方に限らず、今回の震災でネガティブな気持ちに引きずられたり、何もできない無力さに罪悪感を抱いたり、不安感を抱いたりしているという方は少なくないでしょう。

 直接の被災者ではなくても、気持ち的に今までと何かしらの違いがあるということは、こころの上では、私たち一人ひとりが被災者であることを意味しています。もう一人の自分が訴えかけていることに、気づいてあげてください。

情報被災者――脳から見れば、現実も映像も同じ

 以前、NHK教育番組で放映された『からだのちからスペシャル「イメージすれば何でも出来る!」』という番組では、スポーツ選手が実際に体を動かす時とイメージするだけの時の脳波を測定し、イメージトレーニングの有効性について解説していました。両方の脳波を測定したところ、似たような脳波を示したのです。

 私たちは五感によってさまざまな情報に触れています。イメージは、視覚から受け取るビジュアルな情報とも言い換えることができます。ということは、もし実際に体を動かした時と、頭の中で体を動かしているイメージをした時の脳波が同じであるなら、惨状を伝える映像を見続けることは、私たちの脳に何らかの影響を与えるのではないでしょうか。

 もちろん、実際の体験と映像から得る情報では、臨場感が違います。けれども、脳が、実際の体験とイメージとで同じような働きをすると仮定すれば、私たちがテレビから流れる惨状を繰り返し目にすることは、実際に被災地で体験していることと似たような体験を脳がしていることになるのかもしれません。

 私も、地震発生直後に町や家が津波に飲み込まれていく映像を見ました。胸を締め付けられるように体は反応し、とても苦しく、切なく、何もできない自分に無力感と腹立たしさを抱きました。映像だけでも体は十分反応するのです。

 もちろん直接被災された方とは比較になりませんが、映像を繰り返し見ることによるこころや体への影響は計りしれないと言えそうです。

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