東京電力の計画停電を考える-2 | 西陣に住んでます

東京電力の計画停電を考える-2

西陣に住んでます-電力の使用状況グラフの凡例

西陣に住んでます-電力の使用状況グラフ




計画停電によって多くの困難に直面されている皆様におかれましては、
心よりお見舞い申し上げます。


[先週記事] では、東京電力の計画停電に支配的な影響を与える

電力の需給システムに関する情報をアップしましたが、

この記事では、計画停電に関連するいくつかのトピックスについて
個々に考えて行きたいと思います。




1一度決めた計画停電は中止すべきでない???


計画停電の運用にあたって、しばしば問題となっているのが

「予定されていた計画停電が頻繁に中止される」ということです。
これは、東京電力が需要を過大に予測してしまった場合にとられる措置です。
これに対して、TVに出てくるジャーナリストやコメンテーターの中に
「一度計画停電をすると決めたのに、なぜ急に中止するんですか?」
とヒステリックに東京電力を批判する発言がよくあります。


残念ながら、この発言は、レトリカル・クエスチョン、
あるいは電力需給について理解していないということに他なりません。


東京電力の需給予測の見通しが頻繁にはずれることを批判することは
正しい批判だと思います。
ただ、大容量の電力を貯めることはできない以上、

需給予測を下回った場合に、
国民に悪影響のみを与える計画停電を中止するのは正しい判断といえます。
この場合、仮に計画停電を続けたとしても
残念ながら電力供給に与えるメリットは何もありません。




2プロ野球は自粛すべき???


この一週間、プロ野球の開催が大問題になりましたね。
この問題の論点の一つに、計画停電が行われている時期に
多くの電力を利用するナイトゲームを行うのは許せない
という議論があります。


ここでは、あくまで冷静にその消費電力

全体の電力消費量に与える効果について検討してみたいと思います。


東京ドームによると
1日あたりの電力消費量は平均5万~6万キロワット時だそうです。
ドームの使用時間を5~6時間とすると、
電力供給に対するインパクトは1万kWくらいの値となります。
計画停電の効果が500万kWくらいと言われているので
その500分の1くらいの値となります。


この値の大きさをどう見るかですが、
計画停電で苦悩されている方々にとっては
マインド的に許せないものがあるかもしれません。

ある場所で信号機が消えている時に
計画停電を免れている地域で大容量の電力消費をしているというのは、
地域住民の計画停電に対する理解や節電のモチベーションを
著しく損なう可能性があると私は思います。


ただ、一番の問題の本質は、ナイトゲームではなくTV中継にあります。
ここで、[先週記事] と同様にちょっと計算をしたいと思います。


テレビの消費電力の平均値を300W(0.3kW)
東京電力サービスエリアの1600万世帯にTVがそれぞれ2台あって、
TV中継(巨人戦)の視聴率(5~10%程度)を仮に10%と仮定すると、
消費電力は0.3kW×1600×2×0.1=100万kWとなります。


この値は原子力発電所1機分の発電量に値します。
視聴者が野球中継を観なければ他の番組を観るかもしれないので
単純に野球中継の効果が100万kWとは言えませんが、
かなりの需要を生むことには間違いないと思います。


そして、たとえゲームを60Hz地域で行ったとしても
TV中継を行えば、その効果は変わりません。
一般にナイトゲームが悪いとされていますが、
実はデーゲームを行ってそれをTV中継する方が
電力ピーク時と重なってより深刻かもしれません。




3電力の使用状況グラフについて


東京電力が電力の1時間ごとの使用量を示すグラフを
公開するようになりました[→東京電力website]


西陣に住んでます-電力の使用状況グラフの凡例

西陣に住んでます-電力の使用状況グラフ


これを見ると多くの人が簡単に電力消費量を確認することができ、
節電するにあたっての一つの大きな目安になると思います。

注目すべきは、「本日のピーク時供給力」という形で
黒いラインが入れられるようになったことです(上の例では18:00)。


ピーク時には、このラインを絶対に超えないよう留意する必要があります。
また、どの時間帯でもこのラインまでは大丈夫と考えるのは極めて危険です。

グラフの下側に次のような重要な但し書きがあります。


ピーク時供給力とは、電力需要のピーク(最大電力)にあわせた供給力であり、火力、原子力等の固定的な供給力に加え、需給が逼迫した場合、素早く対応可能な揚水式発電が含まれています。
なお、需要が供給力を上回る緊急時には、更に揚水式発電を一時的な供給力として追加できる場合もありますが、発電可能な時間に限りがあるため、ピーク時供給力には含んでいません。


ピーク時供給力には揚水発電からの供給力も含まれている
ということは、裏を返せば、
ピーク時以外には揚水発電からの供給力を期待してはいけない
ということです。
揚水発電[先週記事] で紹介しましたように
利用できる時間数は短時間に限られています。

つまり、ピーク時以外に「本日のピーク時供給力」まで大丈夫だと思って
電気を使用するのは大変危険なことです。
あらかじめ策定された使用計画以外に揚水発電を緊急利用するようなことは
可能な限り防がなければならないことが強調されています。



4柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の見直しの影響


[先週記事] をアップした翌日の3月20日、
新潟県知事柏崎市長刈羽村長が、連名で
柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の見直し

東京電力社長に申し入れました。

この申し入れは、新潟県、柏崎市、刈羽村と東京電力がS58年に締結した
[柏崎刈羽原子力発電所周辺地域の安全確保に関する協定書]
という安全協定に基づくもので、異常時に適切な措置を要求できることが
条項に含まれているため、運転停止の要求には法的拘束力があります。

この動きによって、

今後の計画停電の動向に大きな影響を受けることが予想されています。

すなわち、この安全対策の見直しによる状況の推移によっては、
現在定期点検中の柏崎刈羽原子力発電所2,3,4号機
供給量330万kWの利用が期待できなくなること、
さらには、発電所全体の設備が生産する820万kWの電力の供給が
ストップしてしまうことも考えられ、

今年の夏の計画停電を回避できないどころか、

来年以降も計画停電が続いていく可能性も考えられます。


ここで、原子力発電所の安全性を科学的に議論するにあたっては、
ステイクホルダー(利害関係者)の合意形成を促進する
「セーフティーケース」という一つの概念を構築して
意思決定することが必要です。


この場合のステークホルダーは、主として


 地域(新潟県・柏崎市・刈羽村、地域住民、土地所有者)
 企業(東京電力経営者、従業員)
 顧客(東京電力サービスエリア内の電力消費者)
 (日本政府・日本国民)

ということになります。


具体的には、現時点の状況を深く分析してステークホルダー毎に
原子力発電所を操業することによる利益・不利益
原子力発電所を停止することによる利益・不利益
の大きさを定量的に整理することが重要です。

一般的には、ステークホルダー毎に
危険度(リスク=損害量×その損害が発生する確率)を計算し、
それをベースにセーフティーケースを構築して行く方法がとられます。

ただし、人間の生命など損害量として定量化が困難なものもあり、
議論が早期に解決しない場合には、
この夏の柏崎刈羽原子力発電所からの電力の供給を
諦めることも覚悟しなければなりません。


いずれにしても、この意思決定には、

人間の生命が関わることも予想されますので

時の感情にとらわれずに冷静に議論していただきたいと思います。




5電力エネルギーのセキュリティー強化策の提案


三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフエコノミストが
1都8県の対象地区が3時間の停電を4月末まで続けた場合、
5.4兆円、年間GDPの1.04%が失われるという試算を出しました。


これは、かなり深刻な金額といえます。


福島第一・第二原発と柏崎刈羽原発の操業再開が不透明な中、
新規の発電所を早急に建設しない限り、
計画停電は来年以降も継続して実施される可能性があります


そこで、私が提案したいのは、
東京電力の葛野川揚水発電所神流川揚水発電所
国の予算で計7台の発電機を早急に設置することです。


葛野川発電所と神流川発電所では、発電所用地下空洞の建設後、
電力需要が停滞したために、
当初予定していた台数の発電用ポンプ水車が設置されていません。
すでに地下空洞は完成している(神流川発電所の2台分を除く)ものの、
発電用機械のみが据えられていないという状況です。


具体的には、
葛野川発電所では40万kWのポンプ水車が4台設置可能なところ、
2台がまだ設置されてなく、
神流川発電所では47万kWのポンプ水車が6台設置可能なところ、
5台がまだ設置されていません。


つまり未設置のポンプ水車を設置することによって
40万kW×2+47万kW×5=315万kWの電力を創出することができます。

現在の1グループの計画停電が約500万kWということなので、
この315万kWはピーク対応としてかなり大きな値と言えるかと思います。


ここで、これらの発電機を設置するのにどのくらいの金額がかかるのか?
どのくらいの時間で設置できるのか?ということですが、
残念ながら私には、
ポンプ水車と発電電動機の価格工期について知識がありません。
ただし、重電機メーカーの東芝のプレスリリースによれば、
合衆国から受注した31.2万kWのポンプ水車と
発電電動機6セットの主要機器及び周辺装置の更新工事の受注金額が
約5億米ドル(約410億円)ということです。
また、すでに両発電所では同じタイプのポンプ水車が既に設置されているため
設計に関わる時間が大幅に節約できるものと推察されます。


そして、このオーダーの金額であれば、
一つの電力会社が利益追求のために導入することはできなくても、
日本政府が日本のエネルギーセキュリティーを高めるために

国家予算で東京電力に代わって発電機を導入するには
十分に可能な規模の金額であると思います。


そして、現在の状況のように東京電力がこの発電機を必要な事態になれば、
政府は建設コストとライフタイムを考えた相応の金額で
機器を東京電力にレンタルすればいいわけです。


日本政府は、石油LPGといった燃料エネルギーついては、
エネルギーセキュリティーの観点から
民間・国家備蓄トを行って所要の成果を得てますが、
緊急時の電力エネルギーを揚水発電施設の建設によって確保しておくことも
今回と同様の規模の地震が発生する確率が高い日本において
極めて重要なエネルギーセキュリティーの強化になると思います。
そして、このポンプ水車を設置するのは、まさに今のタイミングだと思います。




6サマータイムの議論


この夏にサマータイムを導入する意見について[先週記事] で書いたところ、
賛成の御意見とともに反対の御意見も多くいただきました。


こういった低減に対して賛否両論あるのは極めて健全な状態です。
もちろん、私は自分の案をゴリ押しすることはしませんし、
サマータイムだけですべてが解決するなどとも思ってもいません。
あくまでも、厳しい電力供給の実態に対して、
ピーク需要量の低減と全体需要量の低減を期待できる可能性のある
サマータイムを提案したまでで、
電力供給計画の一つのオプションとして
専門のアナリストに検討していただく思っていました。


幸運にも、その後の蓮舫節電啓発等担当大臣枝野官房長官の発言の中に
「サマータイム」や「フレックスタイム」というタームが出てくるようになり、
全国紙でもとりあげられるようになりました。

 →[蓮舫大臣会見]

あくまで予断を含まずに、その費用対効果を基に便益分析していただき、
採用の可否を科学的に判断していただきたいと思います。


なお、多くの方々にいただいているコメントにつきまして
そのほとんどは、きちんと節度を守っていただいていて、
ときにしっかりと突っ込んでいただいてもいます(笑)。
もちろん、コメントに対して私ぬき(笑)に御討論いただいてもいます。


ただ、御意見の一部には、
一部のインターネット掲示板サイトにありがちな
上から目線で必要以上にエモーショナルな表現を用いて
陰湿に他者の意見を否定したり、
理由を示さずに自分の意見を唐突に主張されるものがあります。
特に私が関わらない状況で互いに議論していただく際には
互いの立場を尊重し、節度を守って議論していただくことをお願いいたします。


過剰な心理的効果を狙った意見の提示は、
まったく無意味なことであると同時に、
一部の方々に論点とは異なる効果を与えたりします。

また冷静な視点に立てば、
逆にその方が主張する意見に不利益を生じさせることも考えられますので
厳に慎んでいただきたく思います。



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[東京電力の計画停電を考える]

[今こそサマータイム導入を!]

[東京電力の計画停電を考える-2]


具体的な試算はこちら

[今夏の電力需給を分析する 1]

[今夏の電力需給を分析する 2]

[今夏の電力需給を分析する 3]