この図は、ブラーフミー文字という共通の祖先から枝分かれして今日に至ったインド系文字の「系図」です。

 紀元前3世紀に現れたブラーフミー文字は、やがて北方系と南方系の2つに分かれ、それぞれが独自の発展を遂げていきます。
北方ブラーフミー文字の流れからは、北部・中部インドの広い範囲で用いられるデーヴァナーガリー文字をはじめ、東部のベンガル文字オリヤー文字、西部のグジャラーティー文字、北部のグルムキー文字など、主としてインド・アーリア系言語を書き表す文字が生まれ出てきました。チベット文字も、北方系の流れをくむ文字です。

 一方、南方ブラーフミー文字の流れからは、南インドのタミル文字マラヤーラム文字テルグ文字カンナダ文字など主としてドラヴィダ系言語を書き表す文字が生まれました。島国スリランカのシンハラ文字もこの流れです。

さらに南方系の文字は、海を渡って東南アジアの島々や大陸部に伝わりました。現在のインドネシアを中心に広まったカウィ文字、大陸部で用いられるクメール文字モン文字が、東南アジアのインド系文字の主要な流れを形作っています。
 カウィ文字は後のジャワ文字バリ文字へとつながって行きます。またインドネシア・スラウェシ島のブギス文字や、フィリピン・ミンドロ島のマンヤン文字なども、この流れから分岐したものととらえることができます。

 大陸部の文字のうち、クメール文字からはタイ文字ラオ文字が分かれ出ました。また、モン文字はビルマ文字の直接の手本となり、さらに東北タイのラーンナー文字、雲南のタイ・ルー文字、ビルマ東部のシャン文字、東北インドのアホム文字など、内陸部のさまざまなタイ系言語を書き表す文字を産み出すもととなりました。この他、南方系の流れに数えられるものとしては、現在のカンボジア・ヴェトナムに住む少数民族チャム人の文字と、かつてビルマ南部にいくつかの都市国家を築いた、今はなきピュー人の文字があります。


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