日本の受験勉強というのは不毛な暗記力競争で、大学の教育なんてのは実際の仕事には何の役にも立たないただの「シグナリング」だというシニカルな見方があります。そういう面も確かにあるでしょう。
しかし受験勉強や、日本の高学歴者の資質は仕事の能力と相関がある部分もあります。以下、僕がいくつかの職種別に思っていることを書きます。

1.プログラマー

僕は密かに思っているのですが、コンピュータ・プログラミングと受験勉強の才能ってかなり似ています。どちらも、かなりたくさんのことを暗記しないといけないし、また暗記している方が有利です。膨大なライブラリーをたくさん覚えていれば、効率的にコードが書けます。しかも暗記がただの暗記ではなく「ロジカルな暗記」というのも共通点です。

また、ひとつの正しい答えがあるということも共通しています。受験勉強の数学のように、そこに行く道筋は何通りもありますが、答えはひとつです。ある入力(問題)に対して、ひとつの正しい出力(答え)があります。

ところが、プログラマーという仕事は高学歴の学生にあまり人気がないようです。おそらく高学歴であることを生かせないと思っているからでしょう。プログラマーとして優秀かどうかというのは、一週間ぐらいコードを書かせれば一目瞭然でわかってしまいます。あなたが会社の経営者だったら、変なコードを書く東大生より、きれいなコードをテキパキと書く高卒の方を雇いたいと思うのは当然といえば当然でしょう。このようにプログラマーの仕事だと苦労して「せっかく」いい大学に入ったのに、仕事をはじめるとそれが全く意味がない実力社会に放り出されます。このへんが日本の高学歴者にとってはお得感がない職種なのでしょう。

アメリカではGoogleやFacebookの創業者のように、一流大学の情報工学専攻の最優秀の若者がプログラマーになろうとするのとはずいぶんと対照的です。ホリエモン(東大文学部)、ひろゆき(中央大文学部)、グリーの田中さん(日大法学部)、ミクシーの笠原さん(東大経済学部)などを思い出しても、日本のIT企業はどちらかというとドロップ・アウト組ががんばっています。

2.科学者

自然科学などの研究者というのは、ものすごく受験勉強が得意で子供のころから神童と呼ばれていたような人たちが活躍する分野のような気がしますが、実はかなり違います。研究者というのは、今まで誰もやったことがないSomething Newをしないと全く評価されないわけで、これは受験勉強みたいな教科書を理解して暗記することとは違うことだからです。なので受験秀才がそのまま研究者の道に進んで、後から「センス」がないことがわかるとかなり悲惨なことになります。僕はそういう人をたくさん見てきました。

とはいっても受験勉強と基礎研究は、腕立て伏せとバスケットボールぐらいには似ています。腕立て伏せが得意な人の方が、バスケットボールが得意である確率は高いでしょう。教科書をはやく理解して大事なところを暗記できる力は研究をする上でもプラスです。プログラマーほどではないですが、受験勉強の資質と研究者としての資質は多少は相関があります。

3.営業

このへんになってくると受験勉強の資質と仕事の能力との間にほとんど相関がなくなってきます。車とか保険とかの歩合制セールスマンなどは、サラリーマンでも数千万円稼げる可能性がある数少ない職種ですが、数字で全て評価されてしまうので日本の高学歴者から避けられる仕事のようです。

しかし一言で営業といってもいろいろあります。大企業のホワイトカラーは広い意味ではほとんど営業で、既存の関係を維持したりすることが目的なので歩合制のセールスマンのように数字では評価されません。不思議なことにこういう数字で評価されず、また、受験勉強の資質とはぜんぜん関係のないところに、いい大学をでた人が大量にいるのです。それが日本の大企業なのです。

4.管理職

人を使う能力というのは非常に習得がむずかしく、もちろん受験勉強の能力とぜんぜん関係ありません。逆にいうと人を使うのが上手ければ、だいたいのビジネスで成功できます。受験勉強とは関係なさそうですが、不思議なことに日本の大企業の中間管理職は高学歴者の巣窟なのです。そして彼らの多くがマネジメントの能力がありません。もちろん大企業のような巨大な組織では、中間管理職の成果を定量的に評価することは大変難しいので、彼らはプログラマーや歩合制セールスマンのように簡単なモノサシでは評価されません。要するにダメな人に客観的にダメというのが大変難しく、それゆえに何となく生き長らえることができるのです。

このように日本の高学歴エリートは、受験勉強の資質と関係なく、かつ定量的な評価をくだされることなく、それでいて何となく社会的地位が高そうなところに殺到する傾向があります。また一旦試験に受かれば食いっぱぐれず、かつある程度の社会的地位のある医者や弁護士みたいな資格職も大人気ですね。

野球に例えれば、運動能力が高い人がみんな審判やスコアラーみたいな職種に殺到して、だれもピッチャーになりたがらないのが日本という社会ではないでしょうか。これでは経済的に落ちぶれていくのも無理はありませんね。