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リー群とかリー代数とかファインマンダイアグラム(?)を絵算をヘビーに使ってやってる本。というかPDF。分量的にも読める気がしない。だれか印刷製本して僕にiPadください。
そのPDFは:
- Title: Group Theory hyperlinked pdf - version 8.9, April 7, 2008
- Author: Predrag Cvitanovic
- URL: http://www.nbi.dk/GroupTheory/version8.9/index.html (PDFへのリンクをたどる)
読んでないけど、ザッと眺めました。
第4章が絵算の解説(Chapter 4. Diagrammatic notation)、その最後に「4.9 バードトラックの簡単な歴史」(4.9 A brief history of birdtracks)という節があります。バードトラック(birdtracks;鳥の足跡)とは、絵算に使う絵図(diagram, picture)のことです。バードトラックという呼び名は著者・ツビタノビッチ(下の写真)独特の用語法ですが、彼が絵図をそう呼ぶ事情は後で触れます。
ツビタノビッチによる「簡単な歴史」と、それに関連することを少し紹介します。
内容:
絵図を使った人々
絵算の起源は、ペンローズとファインマンあたりだと思っていましたが、随分といろいろな人々が絵図を使っていたようです。
「簡単な歴史」に登場する人名で、絵図を使ったらしき人を列挙すると:
- Frege
- Abdessela
- Chipalkatti
- Olver
- Shakiban
- Schur
- Brauer
- Penrose
- Canning
- Mandula
- Belinfante
- Stedman
- Belinfante
- Wigner
- Feynman
- Levinson
- Yutsis (later Jucys),
- Vanagas
- Blinn
- Dyson
- 't Hooft
- Creutz
- Bar-Natan
ペンローズ/ファインマンはもちろん入ってますが、最初に登場する人はフレーゲです。
念のためことわっておくと、ここで言う「絵図・絵算」とは、説明の補助に使う絵ではなくて、diagrammatic notation as a language of computation, not a mere mnemonic device (単なる略記法ではなくて、計算に使用する言語体系としての図式的記法)です。
フレーゲは、この意味での絵図を使って論理を展開したようですが、不評だったらしいです。「そりゃ、日本語じゃねえの」とかバカにされたそうです(ridiculed as “incorporating ideas from Japanese.”って、日本語をバカにしてるんか)。それに、絵記号・絵図を使うと、組版(typesetteing)が大変なので論文・書籍の出版にも費用がかかります。どうも散々だったみたい、フレーゲ。
レイアウト・組版の負担は、今でも問題です。preparing these doodles for publications is even today a painful thing. (落書きみたいな絵を出版用に整備するのは現在でもとっても大変)。
フレーゲ、ペンローズ、ファインマンはともかくとして、上の人名リストを見ると知らない人が多いですね。シューア(Schur)、ブラウアー(Brauer)は群論の人だったかな、あんまり知らんけど。ウィグナー(Wigner)とダイソン(Dyson)は確か物理学者。トフーフト('t Hooft)も物理学者で『未知なる宇宙物質を求めて―素粒子世界が創る究極の美と感動』なんて翻訳書があります。バーナタン(Bar-Natan)、この人名どっかで目にしたことある。次の記事でURLを引用したことがあるんだ。
これらの記事で触れているURLは、
- http://www.math.toronto.edu/~drorbn/
- http://katlas.math.toronto.edu/wiki/The_Rolfsen_Knot_Table_Mosaic
バーナタンさんは、ともかく結び目大好きみたいです。ジョーンズ多項式のジョーンズのワケワカンナイ写真とかもあります。
右から左へ
僕は、関数や射の結合(合成)を g・f とは書かずに f;g と書きます。そうすればテキストと図の方向(左から右)が一致するからです。でも世の中には、図のほうを右から左に描いてテキストと図を一致させる人もいます。ツビタノビッチさんも「右から左」派のようです。矢印が右から左です。
僕が知っている「右から左」派は、ローランド・バックハウス(ロランかもしれない;Roland Backhouse)、それと圏論衆(The Catsters)のサイモン・ウィラートン (Simon Willerton) も「右から左」です。下のビデオにより、実際に右から左に描いている現場を見ることができます。
- ストリングダイアグラム http://www.youtube.com/user/TheCatsters#p/a/50ABC4792BD0A086/0/USYRDDZ9yEc
- The Catstersのページ http://www.youtube.com/user/TheCatsters
[追記]ウィラートンの動作を見てると、線は左から右に引いてます。自然変換の方向は下から上ですが、書き順は上から下。途中でGF(G・F)をFG(F;G)と書き間違えていますね。やっぱり、右から左の横書きって不自然なんじゃないでしょうか。[/追記]
なんで、鳥の足跡と呼ぶのか
ある日、物理学教授のバーニス・デュランド女史(下の写真)がツビタノビッチ氏のオフィスに入ってきて、黒板に描かれた絵図を見て当惑したそうです。
黒板には例えば(ホントのところはともかく)次のような絵があったのでしょう。
そして尋ねたそうです。“What is this? Footprints left by birds scurrying along a sandy beach?” (なにこれ? 砂浜で走り回った鳥が残した足跡?)
これがバードトラックの起源ですが、定義らしきものは次のとおり。
- birdtracks -- a group-theoretical version of Feynman diagrams.
http://birdtracks.eu/ なんてサイトもあります。
絵図・絵算のメリットとデメリット
絵図・絵算のいいところは、なんといっても:
for a human eye it is easier to identify topologically identical diagrams than to recognize equivalence between the corresponding tensor expressions.
人間の目では、絵図の位相的な同型性を判断することは、対応するテンソル表現の同値性を認識するよりずっと簡単だ。
絵図なしの代数的な記号だけで記述することは、It is like speaking Italian without moving hands. (身振り手振りなしでイタリア語をしゃべるようなもん)だそうです。この比喩、あんまりピンときませんが、まー不便でもどかしいってことでしょう。
しかし先に指摘したように、レイアウト・組版が大変で、特に出版物にするときの負担は大きいでしょう。また、ツビタノビッチによれば、The main drawback of such diagrammatic notations is lack of standardization (図式的記法の大きな問題点は、標準がないことだ)。確かに。描く方向さえ人それぞれですし、絵記号も各自恣意的に選んでます。しかしまー、ISO絵算とかは要らないでしょう。ある程度は自然に収束するだろうし、多様性が残ってもいいんじゃないかと思います。
いろんな時代のいろんな人々により再発明された技法なので、方言があるのは当然だし、名前さえないのですよね。僕もなんて呼ぶか分からなかったので、2004年の末に勝手に命名したことがあります。
最近は「ストリング図」(string diagram)と呼ばれることが多い気がしますが、「バードトラック」も悪くないですね。
[追記]もう冗談としか思えない。確かにこれじゃ組版が大変だろう。[/追記]