多様化していく時代へ対応するために
神奈川県横浜市いずみ野で野菜の専業農家を営む横山さんは、農家の3代目です。祖父から受け継いだ2ヘクタールの畑で、トマトやナス、キャベツなど30~40品目の野菜を栽培しています。忙しい仕事のかたわら、神奈川県の地産地消を推進する農業家や料理人の集まりである「濱の料理人」プロジェクトにも参加し、横浜市の食文化形成にも力を入れています。
「自分たちのやり方だけにこだわらず、同業者や作物を扱う小売業や飲食業など様々な人たちと話すことで、視野を広げることが大切だと思っています。『濱の料理人』に参加したのも、そういった活動の一環です」。若干27歳の横山さんですが、祖父から受け継いだ農業の経営方法を、少しずつ現代の経営方法に変えていく試みを続けています。
レストランやスーパーへの直販や、カラフルな野菜作りの活動もその一つ。
「良くも悪くも、時代は変わっていく。農業も柔軟に変わっていかなければ」。
地域で栽培された農産物のブランディングや、消費者と生産者を結び付ける地産地消など、これまでになかった考え方を積極的に吸収して実践しています。現在もっとも力を入れているのが、「グローバルGAP」の取得です。
農業生産者の国際的認証基準GAP
GAP(ギャップ)とは、「Good Agricultural Practice」の略。直訳すると「適正な農業の実践」を意味します。農業生産者の国際的な認証基準として、大きな注目を集めています。
農薬の使用状況や土壌、水質、農業に携わる人との安全などの項目を、第3者が審査した後に取得すれば、「国際的なレベルで安全、安心な農業生産者である」証明となります。GAPの審査、認証を行う機関は複数ありますが、中でも「グローバルGAP」は118以上の国で普及し、実質的な国際基準となっています。
GAPは、農業生産者の安全性を証明するもので、作物品質の担保をするものではありません。また、取得したからと言って農産物がブランド作物として扱われるわけでもありません。
しかし、食の安全性への関心の高まりを受けて「グローバルGAP」を仕入れ・調達の基準として採用する企業は確実に増え始めています。日本国内では、イオンなどがすでにグローバルGAPを採用しています。今後も、小売や飲食など多くの企業が参画することが予想されます。こういった流れを受けて、グローバルGAPは日本国内の多くの農業家にとっても、無視できないものになりつつあります。
グローバルGAP認証取得に向けて具体的な取り組み
日本国内でのグローバルGAPへの取り組みは始まったばかり。今年、横山さんは多くの農業家に先駆けてグローバルGAPの認証取得を目指すことを決めました。しかし取得の障壁は、低くはありません。
グローバルGAPの認証は品目ごとに行われて、基準に見合っているか第3者である審査員による査察でチェックします。また、一度取得しても毎年更新が必要で、更新のためには毎年査察を受ける必要があります。
査察の際にチェックされる審査内容は、200項目以上あります。野菜・果樹認証の場合には、食品安全、トレーサビリティ、作業従事者の労働安全と健康、環境などを細かくチェックされます。
当たり前のことを管理し可視化する
まずは、もっとも力を入れて栽培しているトマトでの取得を目指し、2017年7月に初めての審査を受けました。現在は、承認結果まちとなっています。審査の為の取り組みに、苦労はなかったのでしょうか。
「いつ、だれが、どの畑で何をしたか、といった作業記録を残す。そして、作業に入る際は服装規定や手洗いを徹底する、鍵のかかる保管場所で農薬を管理するなどのチェック項目があります。当たり前のことですが、一つ一つを徹底的に記録して可視化する点が、とても大変でした」。
対応すべき項目が多いため、3~5年をかけて取得を目指す農業家も多い中、横山さんは早期の取得に意欲を燃やしています。
「最初はハードルが高いと思ったけれど、実践してみると作業効率が上がりました。そして、グローバルGAP認証取得した効果を実感できたのです」。
一緒に作業している母親の協力も大切でしたが、認証取得のことを相談すると、二つ返事で賛成してくれました。
「まずはトマトで取得して、将来的には他の作物でも取得を目指したい」。地元横浜で、世界基準の安心を提供できるように、横山さんの挑戦は続きます。
既存のやり方にとらわれない、新しい農業の形
グローバルGAPや地産地消への取り組みを通じて、前にも増して既存のやり方にとらわれることなく、新しい視点で農業に携わる重要性を感じるようになりました。
「農業の経営方法や力を入れるポイントが、昔とは違ってきています。そういった情報は、様々な人と会う機会がないと入ってこないものです。僕も『濱の料理人』に参加していなかったら、グローバルGAPのことも知らないままでした」。
自らが農業を受け継いだからこそ、旧来のやり方に悩む2代目、3代目の悩みもよくわかると横山さんは言います。しかし、「未来へ農業を繋いでいくためには、柔軟に新しい経営方法にチャレンジする必要があります」。
地域の人たちと連携しながら視野を広げ、新しい時代を生き残っていける農業の形を作る。横浜の地に根を張った新しい農業家の姿に、今後も目がはなせません。
画像提供:横山農園