これから就職をする、あるいは転職をしようとする際、「その職業は自分に合っているか?」と誰しも気がかりになるでしょう。シリアル・アントレプレナー(連続起業家)であり就職支援サイト「Brazen Careerist」の著者であるPenelope Trunk氏が、職業選択にあたって押さえておきたいポイントを教えてくれました。

仕事の悩みのほとんどは、根本的な原因として職業の選択を間違えていることにあります。いい仕事を選んだと思ったのに、そうではなかったわけです。はっきり言って、自分に合った職業を一発で選ぶのはほとんど不可能です。自分は例外だなんて思わないことです。

経済学者のNeil Howe氏の著書『Millennials Rising(ミレニアル世代がやってきた)』によると、最初の選択で自分に合った職業に就いた人はわずか5%。Howe氏はこれらの人を「スタートが速い人」と呼んでいます。この人たちは一般に、あまりクリエイティブでなく、冒険心に乏しく、イノベーティブでもないので、旧態依然の平凡な進路にうまく乗っかれるのだとか。そこまで言われたら、最初の選択で自分に合った職業に就くことを目指していいのかどうかわからなくなってきますが、そうは言っても、誰だって自分の進路選びはうまくやりたいもの。

そこで、職業選択にあたって押さえておきたいことを以下にまとめました。初めてでも5回目の就職でも、注意点は同じですよ。宣伝を鵜呑みにしない

人の仕事のことは「隣の芝生は青い」になりがち。たとえば、外食チェーンのチポトレ・メキシカン・グリルによる、このビデオクリップ。「家畜にやさしく」なろうとする畜産業者をアニメで描いており、評判もよく、賞も受けています。

このビデオでは、「自然な農法に戻ろう」という転回点は、心情的なものとして描かれています。「豚たちを工場のラインから解放して自然な農法に戻りましょう」そんな簡単なことです。けれど正直に言って、チポトレのビデオはお花畑もいいところです。畜産業者だって、豚は自然な牧場で育ったほうがいいことは知っています。問題は、「人道的な」肉だったら高いお金を払ってもいいという消費者がいないことです(授乳中の豚を枠に閉じ込めるのをやめるだけで、豚肉の価格は4倍に跳ね上がります)。そのせいで、「自然牧場の豚」はほとんど販売されていないのです。農業は素晴らしい、自然回帰しよう、そのような宣伝は馬鹿げています。筆者の夫婦も農場を経営していますが、農業は本当に複雑で低賃金でハードな事業だそうです。

さて、もうひとつ、やたらに持ち上げられている職業は弁護士です。テレビでは格好良く描かれてますよね。大学を出てロースクールに行くのは世間体がいいし、確実に高収入につながる進路みたいに見られています。でも、内情を知っていますか。アメリカ法律家協会(ABA)が弁護士を対象に毎年行っている調査で、「自分の職業をほかの人にも勧めるか」と尋ねているのですが、かなりの弁護士がノーと答えています」。

「あこがれの職業」ではなく「ライフスタイル」が大事

ほかの人の生き方を見渡してみて、自分は誰の生き方にあこがれるのかを考えてみましょう。簡単ですよね? では、もう少し掘り下げてみましょう。その人の今の生き方を、あなたがいきなり手に入れることはできません。そこに至るまでには、下積みの経験が必要です

たとえば、テイラー・スウィフトはカントリー歌手として大成功して、今や欲しいものは何でも手に入るような暮らしぶりですね。でもそこに至るまでの彼女の努力を、あなたは真似できますか? 彼女の一家は、彼女が夢を実現できるよう、カントリーの本場ナッシュビルに引っ越しさえしました。ひとつの目的のためにそれほど多くを犠牲にする生き方を、あなたは選べますか?

あるいは、よく読む人気作家を思い出してみましょう。ほとんどの作家は、長期的な収入の見通しがまったく立たない不安定な状況で、何年も執筆活動を続けてきたはずです。あなたはそんな進路を本気で選べますか? 『Gifted Grownups(大人になった神童たち)』の著者Marylou Kelly Streznewski氏は、けた外れにクリエイティブな人の多くは、「唯一無二のクリエイティビティ」の追究のために、ほかのほとんどすべてを犠牲にしていると指摘しています。大多数の人にとって、それは魅力的な進路とは言えません。

ベンチャー起業家も同じです。私もそのひとりですが、正直言って、ひどいものです経済的にはメチャクチャだし、生活のほかの部分を楽しむ時間は残りません。立ち上げた会社だって、たぶん失敗するでしょう。起業をしたいと考えるなら、ほかの起業家が、会社が軌道に乗るまでどうしていたかに目を向けましょう。資金がたっぷりある自分自身の会社を経営し、時間を自分でコントロールできるなら、誰だってあこがれますよね。でも、そこに至るまでに避けられない生活をがまんできる人はほとんどいません。

ひとつの進路にとらわれず、選択肢を減らさない

異なる職業をさまざまに試してみるのはいい方法です仕事を転々とするのは、自分に合うものを本気で見つけようとしている証拠です今の仕事が合わないと感じたら辞めるのは、自分に合った仕事を見つける上で当然のやり方です。履歴書に何度もの転職歴が並ぶのを気にする必要はありません。優秀な専門業者に頼めば、何かしっかりした目的があって転職を繰り返しているかのように書き直してくれます(実は私もよく他人の履歴書のリライトをやってます。要するに物語を作ってしまうのです。どんなに繰り返して転職している人でも、何かしらの形できれいな物語に収められます)。

大切なのは、進路にとらわれず、選択肢を減らさないことです。例えば大学院に進学するのは選択肢を減らすことになります。その分野が好きになれなかった場合、何年もの時間がムダになってしまうからです。奨学金の貸与を受けるのも、選択肢を狭めます。その奨学金を返せるような高収入の仕事にしか就きません、と約束するようなことだからです。

大きな家を買うのも同じことです。高収入の業界で働くという選択肢しか残らなくなります。生涯を通じて同じ仕事を続けたいという人はほとんどいません。多少の方向転換ができるくらいの余裕は残しておきましょう。自分が将来、何を好きになるかなんて、まず予測不可能ですから。

ハーバード大学で幸福感について研究するDaniel Gilbert氏は「人間は将来自分が何を好きになるかを予測するのが苦手だ」と述べています。私たちは、自分にとって手が届きそうに見えるものを、将来好きになるだろうと思いがちで、そのことが、私たちが人生の中で前進していく原動力となっているそうです。私たちはふつう楽観的に、何事も将来は良くなると思っています。でもこれは合理的な判断とは言えません。なぜなら、私たちの幸せという点からすると、状況はいつでもほとんど変わらないからです

Gilbert氏の著書『Stumbling on Happiness(邦題:幸せはいつもちょっと先にある 期待と妄想の心理学)』によると、人には幸せについての判断基準があり、それは、今日自分がどのくらい幸せで、明日は自分がどのくらい幸せになれるかということだそうです。でも私たちは進化の過程で、明日は「何かが」自分をもっと幸せにしてくれると考えるようになりました。その結果、「何が」自分を幸せにしてくれるかを予測する能力は一般的に弱くなってしまったそうです。そういう能力がなくても、人類の文明の維持には何も問題ないのですから。

Gilbert氏によると、何が自分を幸せにするのかを知るには、試してみるしかないそうです。だから、やってみましょう。やってみるのは勇気がいります。これなら幸せになれると思ったものがそうじゃなかったと思い知るのはハードな体験だからです。けれど、「現実主義」をとって、可能性を試さずに終わってしまうのも、人類の進化にとって有意義な姿勢とは言えません。

Penelope Trunk(原文/訳:江藤千夏、合原弘子/ガリレオ)