運命から その銃をもぎ取れ 『ロシアン・ルーレット』


この部屋出るのはどちらだ! 生き残る奴は誰だ!

  引っ込みのつかなくなった人生は例えて言えば
  運命と呼ばれるやつとロシアンルーレット


          筋肉少女帯ロシアンルーレット・マイライフ』


ゲラ・バブルアニ監督による、自身の作品『13/ザメッティ』のハリウッドリメイク(俺は未見)
我々が日々、生きていく上に於いて、死は避けられない命題である。当然の事だが、人は必ず死ぬ。それは、いつどんなタイミングで降り掛かるか誰にも判らない。その可能性が極端に低いため、今ひとつ、実感が湧かないだけだ。
例えば、一年のうちに、竜巻に吹き飛ばされて死ぬ確率は約6万分の1、交通事故で死ぬ確率は約2万分の1、肺癌で死ぬ確率は約2千分の1らしい。巨大隕石に衝突して死ぬ確率は…流石によく判らんが天文学的な数字なんだろう。
言い換えれば、俺たちは無自覚のうちに、装弾数がクソ程あるリボルバーを使ったロシアン・ルーレットを興じているとも言える。
そして、大多数の人々は、その偶然の銃弾に貫かれる確率を減らす為に、無駄なトラブルを避け、自己管理に気を配り、貯蓄をし、石橋を叩いて渡るように退屈な日々をやり過ごすのだ。

だが、ごく稀にその確率を無闇に吊り上げる人間がいる。無謀な行為を繰り返し、酒・タバコ・ドラッグ漬けの不摂生で怠惰な生活、貧困に苦しみ、危ない橋を渡るのも厭わない…、己の欲望のまま、短絡的且つ無軌道に生きる、いわゆる「命の値段」が安い人々。当然、その報いで死の確率はどんどん上昇していき、最終的には6分の1、3分の1、そして、2つに1つ…。


そんな激安人間(©戸梶圭太)達の、最期の逆ギレを描いた痛快作が『ロシアン・ルーレット』である!!!





…と、予告観た限りは思ってたんだけどなぁ(違うんかい)。
いや、登場人物の設定は確かに程よく「安い」んだけど、それ以上に人物描写と脚本が「薄い」から、どうにも感情移入ができないんだよね。激安人間の活躍は大歓迎だけど、激薄で嬉しいのはゴ(自主規制)
真面目な話、ゲームの主催者側には「薄い」というか感情が見えない描写の方が得体の知れない恐怖感が増幅されて効果的だと思うんだが、ゲームの参加者側に対しては、多少、過剰でもいいくらい感情が見えるようにしてくれないと、折角、生死を賭けたギリギリのタマの獲り合いが眼前で行われているのに「あー、死んだよねー、そーよねー」と、観る側の「命の終わりに対峙している」という感覚が希薄になってしまう。
参加者側である程度キャラ付けがされているのは3組程度で、病気の父を抱えた、貧しい青年ヴィンス(サム・ライリー、元ジョイ・ディヴィジョン。もとい、映画『コントロール』でのイアン・カーティス役)と、重罪人らしいパトリック(ミッキー・ローク、元ランディ)と、胡散臭い男ジャスパー(ジェイソン・ステイサム、元運び屋、現ハゲ)と、死を間際にした兄・ロナルド(レイ・ウィンストン)くらい。折角、17人での殺し合いなのに、これは勿体ない。もう、ベタでも「おれ…、この殺し合いに勝利して大金を掴んだら、病に苦しむ妹を救うんだ…」とか、死にフラグ立ちまくりの奴とか用意してくれるだけでも大分変わるのに!別にキャラを拡げろとは言わんから、それぞれ何らかの動機付けはしてくれよ!
後、これは間違ったホラー映画とかと同じ失敗で、ミッキー・ロークジェイソン・ステイサムみたく有名どころが主要人物に配されると、「この人は、まだ死なない」と安易に想像できて、シーン毎の緊張感が削がれてしまう。思い切って「サミュエル・L・ジャクソン、説教中にサメに喰われる」級のビックリ演出してくれたら話は別なのだが。リメイク元の『13/ザメッティ』は、無名俳優を使う事で、この辺りを上手く回避しているようなので(勿論、低予算だと言う事もあるが)機会があれば鑑賞したい。

良い点をいえば、狂気のゲームの舞台となった、森奥深くにある謎の館と、周辺の寒々しい風景は何処か『ホステル』を想起させて、禍々しさを増幅させる装置として機能されている。雪深い鉄道での警句的なラストシークエンスも、若干、月並みだが皮肉が利いている。




・そういや謎の館のボディガード役でドン・フライが出演していた。『ゴジラ FINAL WARS』以来ですか?(調べてみたらマイケル・マン監督の『パブリック・エネミーズ』にも出演していたらしい)
・で、ドン・フライといえば元「PRIDE男塾塾長」なので、賭けゲーム開始の際に「むう、あれは伝説の競技『露西亜瑠雨烈闘』!」「知っているのか、雷電?」みたいなくだりを期待したのだが、勿論なかった。
・予告等に使用されている惹句に「勝率1%。運がなければ、即、死亡」とあるが、「勝率1%」ってのはどういう計算に基づいてるんだい?正しいのかい?数学は得意じゃねえんだ!