最高のラブレターの書き方

親戚の高校生の男の子から、好きな子ができたのだけれどうまくコミュニケーションがとれなくて悩んでいるとの相談を受けた。


正直、好きな子だけじゃなく人類全般とうまくコミュニケーションがとれない私にそんなことを相談されても困るわけだが、とりあえず協力してみることにした。


彼が好きになったのは同じ高校の隣のクラスの女子で、これまでに会話を交わしたことは一度もなく、部活動など課外活動での接点も皆無らしい。


彼と話すうちに、何より人見知りの激しい性格のため彼女とどうやってコンタクトをとればよいのか分からない、というのが彼の根本的な悩みであることに気づいた私は、少々古くさいがそれなら手紙を書いてみてはどうだろうと提案してみた。


つまりラブレターを送るのである。


初めこそ手紙を書くことに抵抗を見せていた彼であったが、気にすることはない、手紙を書くのは私なのだからということを伝えると、幾分安心した様子を見せた。


そう、私は一度でいいからラブレターというものを書いてみたかったのだ。


彼には私の書いた手紙を彼女の下駄箱にでも入れておけばいいと話し、それから私は夜を徹してラブレター制作に取りかかったのだった。


ラブレターを書くにあたって、私は以下の5つの要素に留意してみた。


1. 彼女が興味を持っている物事に触れる

2. さりげなく自分(もちろん親戚の男の子のこと)をアピールする

3. 堅苦しい文章になることを避けつつ、誠実さを伝える

4. ミステリアスな部分を残す

5. 好きだという気持ちをストレートに伝える


これらの点を押さえ、私はラブレターを書き上げた。


彼の許可も得たので、今日はこのラブレターの全文を公開してみようと思う。




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以下全文



『初めまして! 僕は隣のクラスの○○です。


いつもポリバケツを頭に被って放送室でくだまいてるアイツ、と表現したほうがわかりやすいかもしれませんね(笑)


さて、突然のお手紙でごめんなさい。おそらく驚いていることだと思います。

正直に言って、僕自身驚いています。


なにせ体育の時間にサッカーボールを追いかけながらこの手紙を書いているのですから……。
ああ、大丈夫です、試合は僕のチームが現在3-1で勝っています!


そういえば、たしかあゆみちゃんはサッカー部のマネージャーを務めているんでしたよね?


そう考えると奇遇ですよねぇ〜、僕がサッカーで2得点を決めながら書いているこの手紙を受け取るのが、サッカー部のマネージャーであるあゆみちゃんだなんて!



実はこう見えて僕はサッカーが大好きなんです!



影響を受けた選手はラモス……何でしたっけ?瑠偉? そうでした、ラモス瑠偉ガッツ石松です。

あとはゴン中山ドン小西といったところでしょうか? 



あ、すいません、自分サッカーに詳しいんでつい夢中になっちゃって(笑)



まあ、こうして夢中になっていられる時間も、残りわずかですがね……。



おっと、こんなことを話すためにお手紙しているのではなかったんでした!

……あゆみちゃん、冗談だと思わず、真剣に聞いてください。



僕はクラスでも目立つ存在ではないですし、ポリバケツを被っているせいで顔もろくすっぽ覚えてもらえないタイプの人間です。

勉強ができるわけでもないし、貯金は近所のコインパーキングにイタズラ半分に全額突っ込みました。

今までお付き合いした女性は何人かいますが、今はみな、アラバマの刑務所に入っています。

心に思い描いていた夢はあったけれど、立ち食いそば屋で昼飯を食っている間にすべて忘れてしまいました。


要するに、僕は何をやるにも中途半端な人間なのです。



でもあゆみちゃん、これだけは信じてほしい。




きみにだけは、信じてもらいたい。




僕は、

スーパーで売っている「3食焼きそば」が好きです。



特売で100円で買えることだってあります。


お得です。



だから、あゆみちゃん。



きみも、好きになってください。



3食焼きそばを……好きになってください。



それでは、体育の時間も終わったので、この手紙も終わりにします。


あゆみちゃん、ありがとう。

できることならば……お返事待っています。


ps. 試合は3-1で勝利しました(うち2点は僕が決めました)


3年B組 ○○より』



この手紙を下駄箱に入れて数日後、なんとあゆみちゃんが彼に、


「私も好きだよ。3食焼きそば」と伝えに来たそうだ。



それ以来、あゆみちゃんはスーパーの3食焼きそば特売チラシを彼に渡すようになったらしい。
彼が望んでいた、あゆみちゃんとのコミュニケーションはこうして叶ったわけだ。



束になったスーパーの特売チラシを抱きかかえて帰ってきた彼に向かって、
私は「よかったな」と声をかけた。




すると彼は大きな音を立ててチラシの束を床に置き、汗を拭ってこう言った。




「俺がしたかったのは、
 こういうことじゃない。」


〜完〜