ShadeクリエイターのIKEDA氏が語る、ニコ動「振り込めない詐欺」の舞台裏 先生何やってんすか(1/3 ページ)

» 2010年12月02日 16時30分 公開
[広田稔,ITmedia]
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 10月1日、ある3D CGアニメーションが動画コミュニティーサービスの「ニコニコ動画」に投稿された。Caz氏が作ったボーカロイド曲「Corruption_Garden」をBGMに、2人の美少女がロボットを操って宇宙で戦うという設定だ。

 ……と書くと、ネットではよくある話に聞こえるが、まずは実物を見てほしい。女性の表情や衣装、ロボットの動きなど、とにかくCGの作り込みが尋常ではない。しかも使っているツールは、映画などで使われる「Maya」や「Softimage」ではなく、国産の3D CG作成ソフト「Shade」だという。

 そのクオリティの高さに、スキあらば容赦なく批判的なコメントを飛ばすニコ動ユーザーも絶句。「これ無料でいいのか?」「振り込めない詐欺」「どこで買えるの?」といった絶賛のコメントが次々と飛び出す。誤字を直して再投稿したバージョンを合わせると、このPVは投稿から1カ月半で40万回近く再生されるほどの注目を集めた(転載映像はYoutubeで見ることもできる)。そしてあまりの人気に、このPVに出てくるキャラクターが12月3日に発売されるShade 12のパッケージに採用されるにまで至った。


 作品を投稿したのは、Shadeの達人として知られるIKEDA氏。Shadeの追加コンテンツとして販売されている人物モデル集を手掛けるクリエイターだ。いわゆる「プロの犯行」なわけだが、今回の動画はストーリーやデザイン、アニメーションまで全部一人で手がけたというから、その労力は並大抵のものではなかっただろう。きっかけは何だったのか。IKEDA氏に話を聞いた。

3D映像で創作に参加したかった

── そもそも今回のPVはどういう動機で投稿されたんですか?

インタビューに応じてくれたIKEDA氏。「シャイなので顔出しはなしの方向で……」

IKEDA もう完全に個人的なことなのですが、ネットにおける創作活動に興味を持ったからですね。誰かが投稿したオリジナルの音楽に、別の人が映像を付けて、さらに面白い作品に仕上げていく。曲を作ったり、歌詞を書いたり、イラストを提供したり、踊ったりと、それぞれが得意な分野で協力しながら作品を作り上げていくという流れがスタンダードになってきているという話を聞いてから、ぼくもぜひ参加してみたいと思っていました。しかも、ニコ動の映像というと、2Dイラストのアニメーションが主流で、3Dはハードルが高いのかそんなに人がいなかった。

── ニコ動で見かける3D CGツールといえば「MikuMikuDance」が主流ですが、どちらかといえばすでにあるパーツを組み合わせて動かすやり方が多いですよね。

IKEDA ええ。そうした状況を見たときに、ここで“大人げない”ことを本気でやってみたら面白いことになるんじゃないかなと。実は「Corruption_Garden」の映像を作る前にもいくつかテスト的に動画を上げていました。

 2010年の1月末、クリプトン・フューチャー・メディアさんとのコラボで巡音ルカの1周年を記念した壁紙を作らせていただいたんですよ。このときにせっかくモデルを作ったので、じゃあ動かしちゃおうと思って、いい曲だと思っていた「ダブルラリアット」の映像を作ってみたんです(→ダブルラリアットを3DでPV風に作ってみた)。

 このときはどうやったら高画質で投稿できるかとかもよく分からず、本業が忙しくなったこともあって途中でやめてしまいました。その次にダンスの動画も作ってみたのですが、ステップだけ踏ませてみて予想以上に難しかったのでこれも途中でやめてしまった(笑)。

── これまた“けしからん”衣装ですね(→「Dark to Light」でダンスステップ踏んでみた)。

IKEDA ……何でこの衣装にしたのかはちょっと覚えてません。ともあれ、「Corruption_Garden」のPVを作る前にそういうことをしていたんです。

格好いい戦闘シーンが作りたかった

── そこから「Corruption_Garden」までは相当なクオリティの飛躍があると思います。どういう風に発想されて作品に落とし込んでいったんですか?

IKEDA 最初は「格好いい戦闘シーンを作りたい」っていう漠然とした気持ちがありました。映像でいうと「ファイナルファンタジー」の戦闘とか「マクロス」のミサイルが一斉に飛んでくるシーンとか。そしてイメージに合う曲を探していたときに、Cazさんの「Corruption Garden」を聴いて、ストーリーがぱっと思い浮かんだんです。曲の入り方も何となく戦っている感じというか。

── PVに出てくる2機のロボットも自分でデザインされた?

IKEDA そうです。元は1つのロボットから派生したもので、丸くて緑色のほうが装備的にはハイテクの新タイプ、ゴツゴツした赤いやつのほうがローテクの旧タイプという設定がありまして、だから高性能タイプはちょっと近未来的でスピードが速いっていうイメージの球形を、旧タイプはごつくて重くて火力が高いという四角をモチーフにしています。

制作風景。この2機のロボットが戦いを繰り広げる

── 姉妹が戦っているという設定ですが。

IKEDA 短時間でのストーリー展開を考えたときに、まったく関わりのないキャラクターが戦うよりは、姉妹のほうが“萌える”んじゃないか……というのはやり過ぎですが、姉妹喧嘩のほうが共感が得られたり展開が分かりやすいかなと。喧嘩にしてはスケールがでかいですけどね(笑)

── そのロボットとキャラクターをそろえたうえで、アニメーション制作に入った。その段階で絵コンテを描かれたんですか?

IKEDA いえ、ストーリーは漠然としたものだけで、半分以上は作りながら考えています。曲の出だしで雨の音があるので、始まりは雨のシーンで、1番の歌では1人で戦ってる、2番は姉妹が出てくる、間奏部分で激しい戦闘で盛り上がって……そんなイメージだけです。本当にそれしかないですね。

 例えば、ロボットが戦うなら戦艦も出して全部ぶっ壊したい。そうなった時に、「マクロス」のミサイルが飛んでいくシーンが好きだからミサイルがたくさん撃てるように、ロボットにはごつい装備をつけたいな、とかそういう感じで。

── でも曲の長さに合わせなきゃいけない訳ですよね。その辺は破綻しなかったんですか?

かつて決別した姉妹の物語になっている

IKEDA 作ってる最中に、映像の長さが曲よりも短いことに気が付いて、じゃあ姉妹の過去のシーンを挟もうと。だから制服を着た姉妹が駅のベンチに座っているシーンは、曲の長さに合わせるためでもありました。

 もともと子供のころというか、若かかりしころを回想するようなシーンをワンクッション入れたかったんですが、最初はブルマをはいている姉妹が頭に浮かん――(編集部注:この後しばらくIKEDA氏のブルマに対する深い造詣が披露されたが、割愛する)――で、個人的には駅のホームがなぜか好きなので、それなら下校途中の2人が喧嘩別れする場面を入れればよりドラマチックかなと思って、あのようなシーンで落ち着きました。

── なかなか“けしからん”感じですな(笑)

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