スティーブ・ジョブズ 1955-2011:追悼フォトギャラリー

誰よりも早く時代を駆け抜けた不世出のイノヴェーター、スティーブ・ジョブズ。永逝を悼んで各界の識者13人から寄せられた追悼の言葉を、8枚の貴重な在りし日の姿とともに……。
スティーブ・ジョブズ 19552011:追悼フォトギャラリー
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クレイジーな者たちよ。
落伍者たち。反逆者たち。トラブルメイカーたち。
丸い穴におさまらぬ四角い杭たち。
世界を違った眼で見つめる者たち。
彼らはルールを好まない。
現状維持には敬意も払わない。
彼らを話題にし、異を唱え、賛美し、謗るがいい。
しかし、ひとつだけできないことがある。
彼らを無視することだ。
なぜなら彼らこそがすべてを変えるからだ。
そして人類を一歩先へと押し進める。
狂気と人は言うかもしれない。
しかしわたしたちは彼らに天才を見る。
世界を変えることができると信じる
クレイジーな者だけが、
本当に世界を変えることができるからだ。

(from “Think Different” Campaign AD)

柳下毅一郎(映画評論家・特殊翻訳家)

Apple Ⅱをつくったのは、スティーブ・ウォズニアックである。だが、ウォズひとりでApple Ⅱはつくれなかったろう。ウォズにはApple Ⅱをつくる「能力」はあったけれど、Apple Ⅱというマシン構想はなかったからだ。ジョブズが「これをつくるべきだ」と言って、はじめてウォズはマシンをつくり上げることができた。MacもiPodもiPhoneもiPadもすべてそうだ。ジョブズが本当に優れていたのは、ありものの技術から見たこともない世界を幻視する力なのだ。ジョブズの幻視によって世界のかたちは変わった。ぼくらはスティーブの夢を生きている。

林 信行(ITジャーナリスト)

スタンフォード大学のスピーチでも語っているように、ジョブズは自身の思いにとことん忠実な人物だった。その思いの中心はテクノロジーと文化の接点に立ち、技術一辺倒でも、ビジネス一辺倒でもない豊かな未来を築くこと。世界を変える製品を、彼ほど多く出し続けた人物はそういないはずだ。しかも、その1つひとつが、ただの製品には終わらず、多くの人々にインスピレーションを与え、新たな文化を生み出す源泉となってきた。これから先の人類は彼が続けてきた豊かな未来の創造を、彼無しで続けなければならない。

池田純一(Design Thinker/FERMAT Inc.代表)

GUIやDTP、スマホ、タブレット、アップストア。いずれもジョブズがいたからこそ、日常になった。「i=わたし」の解放者としてコンピューターを位置づけ、その装置の領土を果敢に拡大し続けた。若い頃インドを旅したジョブズは、差詰め、喜望峰ルートで同じくインドに到達したヴァスコ・ダ・ガマだ。海図なき大洋を進行し後続に道を残す。行った先々で現地の人々の協力を得てとにかく望んだ目的地へ辿り着く。その後西欧世界は東インド会社を経て急速に拡大した。ジョブズが開いた航路はこの先一体どんな世界に繋がるのだろうか。

小林弘人(インフォバーン代表取締役CEO)

やあ、スティーブ。……なんて呼べるほど親しくもないけれど、90年代に千葉県幕張で開催されたSunExpoで壇上から僕を見つけてくれて声をかけてくれたときは、天にも昇る気持ちだったな。いま、あなたがいなくなって寂しいし、たぶん、世の中(特にテクノロジーの分野)は、また退屈になるだろうね。でも、残された僕ら(レスト・オブ・アス)は、あなたが自身のヴィジョンにワクワクしたように、また世の中をワクワクさせられるよう進まなくちゃ。あなたがいなくなってから、僕の頭にはU2の曲『Stuck In a Moment』の中のフレーズが浮かんでいる。この曲が僕のあなたへの気持ちを代弁している。「僕はいまも君が運んできた光に魅了されている/君の耳を通して聴き、君の目を通してわかるんだ」

スプツニ子!(アーティスト)

“Stay Hungry, Stay Foolish”──ジョブズがスタンフォード大であのスピーチをした日、わたしも大学卒業を目前に控えた、「ハングリー」なコンピューターサイエンスの学生だった。彼のこの言葉、意外と結構わたしに影響を与えてしまったと思う。「自分の直感を信じ」とことん進んで行ったあげく、理系の枠を飛び越え現代アーティストになってしまったのだから。おまけに保育園時代はMac Classicで絵を描き、中学校ではiMacの虜でプログラミングに明け暮れ、最初から最後までわたしはリンゴのマークに育てられちゃっている。つまりSteve、アナタのインスピレーションがなかったら……わたしどこでどんな生活をしているのか、さっぱり想像がつかないんだ!

山形浩生(評論家・翻訳家)

たぶん実際に会っていたら身勝手でいやなやつだと思っただろうし、失敗作もそこそこ見ている年寄りとしてはいまの世間的な崇拝ぶりはかなり違和感があるが、それでも晩年(と言うべきか)のアップル帰還後の連続ホームランは驚愕。まだまだこの世に未練もあるだろうからご冥福を祈るというより、どっかに転生して続きをやっていただきたいところ。世界で彼の命日に生まれた子をトラックし、二代目ジョブズを選んでほしい。

広瀬隆雄(コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター)

スティーブ・ジョブズは「コンピュータはこうあるべきだ」という視点から物事を考えることが出来る稀有な才能をもった人でした。「こうあるべきだ」という意見は、見方によっては個人の価値観の押し付けに他なりません。ジョブズはその価値観の押し売りを率先してやりました。逆に「いま世間で何が売れているか?」を観察し、その時流に迎合した製品を慌てて企画するというやり方を心から軽蔑していました。これはつまり「is」ではなく「should」に基づいた経営です。

おのずとアップルの製品作りにはジョブズの審美眼が色濃く反映されます。アップルの新製品発表会がエキサイティングだった理由はこの卓越した未来の予見者からの「ご神託」が聞けたからです。そのジョブズも常に正しかったわけではありません。失敗作もいろいろありました。彼個人の主観を消費者に押し付けるわけですから、そのすべてが受け入れられるわけではないのです。また自分のイメージ通りの製品が出来るまでジョブズは社員にギリギリを要求しました。傍若無人に振る舞いました。つまりジョブズは独裁者だったのです。だから独断と偏見による製品作りが壁にぶつかると、責任はすべて自分に降りかかってきます。ジョブズが自分の創業したアップルを追い出されたのはそのような経緯によります。

わたしがスティーブ・ジョブズという人物に接した時期は、彼がアップルを追われて、失敗続きでどん底だった時です。普通の人間なら失敗が続くと自分の信念に自信がもてなくなってしまいますし、昔より冒険しなくなります。その点、ジョブズはどんなに不遇のどん底でも自信満々だったし、丸くなるどころか、一層アグレッシブに自分の理想を追求しました。何がダサくて何が美しいかというジョブズの美意識は彼の生みだした数々の製品に宿っていたにとどまらず、彼の生きざまそのものにもあてはまっていたのです。

渋谷慶一郎(音楽家/ATAK主宰)

「死までもがあたらしい」。他の訃報と同じように僕はTwitterでスティーブ・ジョブズの訃報を知った。そのときの反応はすごく印象的だった。こんなに「波のように広がる」悲しみを見たことがない。いわゆるスターの死とは異質の、すごく親密でしかし中心のない悲しみがただただ長い時間漂っていた。固有の対象の死をそれぞれが悲しむのではなく、自分の一部が欠けたような喪失感を共有すること。ジョブズとアップルは創造と体験の間にある装置の概念と存在を増幅させ続けてきたが、装置はあらかじめ共有を目的とされている。スターのように自分が好きな何かの死ではなく、自分が好きな何かを作るための何かに対する喪失を悲しむこと。そこでは死までもが装置のように共有されている。それはかつて人が体験したことがない悲しみであり、ジョブズは死までも更新してしまった。

原田泳幸(日本マクドナルドホールディングス 会長兼社長兼CEO)

いままでの知識や世の中の常識を敢えて否定し、新しい世界を創造する力。これが彼の素晴らしいところであり、わたしが彼から学んだ最も大きな点でした。Apple Ⅱからスタートし、今日に至るまで、IT業界に常に影響をもたらした歴史に残るIT業界の偉人とも言える人です。

AR三兄弟(開発ユニット)

あなたが手掛けた省略、導いた斬新は膨大です。学ぶべきは個々の現象ではなく、省略によって生まれた余白をメディアとする新しい体験の供給であったと捉えています。技術によってメディアとコミュニケーションが簡略化される一途だったら、誰も自らの感動を語らない。それを彩る音楽も映像も時間も必要ない。途端、未来がつまらなくなる。ハードさえ省略する時代が来る頃、もう一度その意味について考えます。ありがとうございました。──長男(川田十夢)

映像をいろんな意味で軽くしてくれたことに感謝してます。片手で映画を持ち運び出来るようになる時代になるとは。R.I.P.。 ──次男(髙木伸二)

性能や品質はもちろん素晴らしいものでしたが、それ以上にハードウェアであるMacにはすでに音楽的なリズムがありました。グラフィックにもサウンドにも心地よいリズムが通っていて、起動してから終了するまでがひとつの音楽になっていました。僕はその音楽の中で、新しい音楽を作っていくのでしょう。──三男(小笠原雄)

八木 保(アートディレクター/TYD代表)

わたしは幸運にもスティーブと巡り会い、一緒に仕事をする機会を得ました。わたしにとってスティーブとの友情の意味を言葉で表すことは容易ではありません。しかし、お互いクリエイターとして決して妥協を許さない姿勢を共有していたことは確かです。スティーブの計り知れない創造力、発明、そして完璧にまで仕上げる根気は、常にわたしにとってのインスピレーションの源でした。2005年のスティーブのスタンフォード大学卒業式での祝賀スピーチにこんな言葉がありました。「未来に先回りして点と点をつなげて見ることはできない。君たちにできるのは過去を振り返ってつなげることだけだ」。わたしの点がスティーブとつながり、それぞれが素晴らしいコラボレーションに結びついたことを、ただただ感謝するばかりです。「八木保の選択眼」- THE GRAPHIC EYE of Tamotsu Yagi より一部抜粋。


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[『WIRED』はいかにスティーブ・ジョブズを伝えたか 古今無双のヴィジョナリーにして天下無敵の“サノバビッチ”、スティーブ・ジョブズの波乱と矛盾に満ちた生涯を描き、全米ですでに話題の伝記映画『JOBS』。その公開を記念して、US版『WIRED』、さらには小林弘人編集長時代の旧・日本版『WIRED』のアーカイヴから、選りすぐりの「アップル」関連記事を一冊に凝縮。没後2年。「アップル/ジョブズ」を常に同時代でウォッチしてきた『WIRED』が贈る「ジョブズ本」の決定版。](http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00EZ2JQR2/condenetjp-22)



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