(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

どうしてブラック企業はなくならないのか

ブラック企業の中にいた経験と、外からあれこれをした経験があるので、周辺では「ブラック企業評論家」よろしく駆け込み寺扱いされているタケルンバです、こんばんは。
今回はとてもとても根源的な質問をされたので、それについて。

「どうしてブラック企業はなくならないんでしょうか」

非常にいい質問ですね。(C)池上彰
ブラック企業は問題が多い。それは広く知られている。それなのに何故なくならないのかと。なかなか良いところに気づきましたね。大事なポイントです。
ですが答えはとてもシンプルです。

ブラック企業は役立っているから」

有益なんですよ、ブラック企業って。いや、「有益だと思っている人がいる」が正しいかな。ほとんどの人は「有害」とみなしているから「ブラック」と言うわけですよね。「黒」という色にマイナスイメージをかけて。
ところが、有害どころか無害でもないと。逆に有益と思っている人がいるわけなんです。「ブラック」ではなくて「ホワイト」であるとすら思っている。そういう人がいるわけなんですね。
ではどういう人がそう思っているか。

消費者? 取引先? 国?

どれも不正解です。ブラック企業を延命させる要因にはなりますが、必要十分条件にはなりません。
何故かというと、ブラック企業だとは思わない人、むしろホワイト企業だと思う人がいくら外部にいたって、企業活動の維持には関係ないからなんですね。ブラック企業がまがりなりにも企業活動を続けるには、内部に人がいないとどうにもならない。

良い会社だと感じる従業員がいる

結局は人的要因なんです。人がいないとどうにもならない。
ブラック企業というのは基本的に利益至上主義で、その過程で従業員に無理を強いることがほとんどです。軍隊式の研修を好むのも、上につきしたがうマシンのような従業員が都合がいいからで、人間味のある行動をとられるのは企業利益に反するわけです。
9時5時で働いて、休憩はお昼に1時間。週休2日で、残業代はキッチリ請求。有給休暇もバッチリ消化するようなタイプは困るわけですよ。24時間365日働いて、休憩はわずかなトイレタイムのみ。週休なんて文化はなく、残業は当然にサービス残業。有給休暇は遠くの幻。働け働け、とにかく働け。稼げ稼げ、とにかく稼げ。こういう人間が良いのです。
もちろんこういう人の使い方は極悪非道でありますし、もちろんブラック以上のナニモノでもない。だからこそいろいろなあれこれが問題になり、場合によっちゃ過労死とかに発展するし、そこまでいかなくても肉体的・精神的な疾患になったりする。しかしながら、たまに持っちゃう人がいるわけですよ。たまーに。
個人差と言ってしまえばそれまでなんだけど、たまに特別丈夫な人間がいる。普通は潰される使われ方をしながらも、何故か持っちゃう人がいる。かたや病気、かたや健康。こういう構図になってしまう。

スーパーマン誕生

この生き残った人はどうなるかと言うと、能力的に物凄く開花しちゃうのですね。最上級のスパルタ教育をくぐり抜けた猛者だから。普通は潰れちゃうわけだから、能力育成のプログラムとしてはアレなはずなんだけど、万が一潰れないとすると、ある意味でベストの負荷をかけたトレーニングということになる。トレーニングっていうのは、壊れる寸前の負荷が最適なのです。
でもってこの当人にとっても、普通の会社に勤めていたよりハッピーな結果となる。結果的に自分にとってベストのトレーニング環境を得て、能力的な成長をとげている。しかもブラック企業なだけに、他の同期なんかはほとんど脱落しているので、出世は思いのまま。同年齢の人間に比べて待遇的なものも良い。
こうなってしまうと、一般的にはブラック企業と言われる会社のすべてが良いものに見えるし、感謝の対象になってしまう。

あの時があったから、今の自分がある

ブラック企業の経験が、成功体験に置換される瞬間です。
こういう言葉を吐く人間が上に行くと、自分と同じ経験を下にも求めますし、独立・起業しても同じことをする。
つまりブラック企業の遺伝子は受け継がれるものだし、分裂するものなのです。稀な資質を持っているが故にブラックをブラックだと思わない少数の人によって。ごくわずかな人間が生き残りさえすれば、その成功体験はブラック企業ホワイト企業として置換することができるわけなんですよ。
ブラック企業の日々の活動は、ブラック企業語り部、宣教師を選び出す選定過程であり、激しい競争があればあるほど、それをくぐり抜けた宣教師の言葉は一般的には魅力的な言葉となり、その言語に吸い寄せられ、多くの有望な人間が集まる。そしてその人間から……というシステムがあるからこそ、この世からブラック企業がなくならないわけです。その下に多くの骸が転がっていようともね。
ちなみに企業だけじゃなく、あらゆるブラック的な素養を持つ集団は、「その集団にいた」ということだけを手がかりにつるみたがります。同じDNAを持つ者同士の親近感なんでしょうかね。部活、軍隊、宗教……。良く似ています。企業活動を練習、戦場、イニシエーションという言葉に置き換えればいいです。
もう一度この言葉を噛み締めてみましょう。

あの時があったから、今の自分がある

あなたは気がつかないうちに、ブラックな何かの宣教師になっていませんか?