ネットニュース媒体の危うさ | ロングテールの先っぽで

ネットニュース媒体の危うさ

ガジェット通信というネットニュースサイトがこんな記事を配信しております。

Yahoo!ニュースを読みたくなる13文字の奇跡 ポータルサイトのPVを左右する? - ガジェット通信

ガジェット通信の記者(@sol_getnews)曰く
トピックスには神がかったリライト術が施されている。先ほども書いたように長いニュース記事見出しを13文字や15文字にまとめ、ユーザーにクリックさせるのが大事な役割。更に付け加えるなら「誤解を与えてはいけない、釣り過ぎてはいけない、分かりやすく簡潔」をモットーにリライト作業を行う。



赤字部分に重大な事実の誤認識がある。
ニュースで一番重要なことは「クリックさせる」ことではない。
事実を正しく伝えること」である。
そして間違っても「釣る」ことではあり得ない。
「釣り過ぎてはいけない」というセリフは、恥以外の何ものでもない。

そしてヤフートピックスがそんなつもりで13.5文字を作っているわけではないのは
ヤフートピックスの作り方」という本を読めばすぐに分かる。

ヤフートピックスの作り方から引用する。
トピックスにおいて見出しを付ける作業というのは、読者の気をひくコピーライティングのような技術ではありません。読者の気をひく言葉を盛り込むのではなく、事実を伝える言葉を盛り込むことが重要なのです。

via:ヤフートピックスの作り方 p.76より


また続けてこうも述べています。
クリックしたくなる見出しがあるとするなら、それは見出しに対応する記事やコンテンツそれ自身が力を持っているからだと言えます。

同書 p.78より


重要なのは記事のコンテンツ力であって、見出しの力ではないということが同書では繰り返し語られており、これは当たり前といえば当たり前、それでも多くのニュース媒体がそれを忘れてしまっています。

ガジェットの記事では、その後、見出しを作る作業を実践してみせています。
<元の見出し>
『SKE48』のメンバーがイジメにあっている? 「その人がやっている事全てが恥ずかしい事」
 ↓
<リライト>
アイドルがメンバーから虐め?

(中略)

何故『SKE48』をアイドルに置き換えたのだろうか。それはクリック狙いだ。『SKE48』と明示してしまうとリライト文を読んだだけで、ニュース記事まで読まない可能性がある。これが13文字の奇跡だ。


ご丁寧に自分の作業に解説までつけて、記者の「したり顔」まで見えてきそうだが、実際は彼の正義のゆるさを露呈しただけである。まるでこの記事が現れてくることを予測していたかのように、ヤフートピックスの作り方では、こんな風に書かれている
主題を伏せてクリックさせるこうした手法を見かけたときは、リンク先で得られる満足度が低いことを情報の伝え手自信が確信しているということです。

同書 p.79より


同書では「福田首相が辞任を表明」という見出しを例にとって解説している。この見出しには一切の修飾がないが、読者には驚きがある、と。つまりニュースの価値が高いものは、自ずから必要とされる存在と成るのである。

ではなぜこういうことが起きるのか?この記者がアホなのか?そうではない。この記者の他の記事を見ると、ネット媒体らしい、ネット媒体でしか伝えられないニュースも書いている。実はこういう浅はかな行為は、ヤフー以外のほぼ全てのネットニュース媒体で行われていると言ってもいい。

ネットニュースが広告媒体である限り、必然的にPVに思想を侵されていく。ビジネスだから仕方がない。人は食べていかなくてはいけないのだ。



でも本当にそれでネットは豊かになるのだろうか。
僕らの生活は豊かになるのだろうか。




たまたま今日、Tumblrから面白い記事が僕の目に飛び込んできた。
2ちゃんねる実況中継 デマの広まり方」という記事より
Times誌「SONYが大改革を行う。工場閉鎖といくつかの主要部門」
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/technology/article5446963.ece

GIZMODOの元の英文 「ソニーはどんな”主要な事業部”を閉鎖するの?」
http://i.gizmodo.com/5123388/what-major-divisions-is-sony-shuttering-next-month

GIZMODO日本語版 「もしやプレステ撤退?」 翻訳者:湯木進悟
http://www.gizmodo.jp/2009/01/ces_3.html

mixiニュース 「プレステ撤退? SONY重大発表へ」
http://news.mixi.jp/list_news.pl



僕は、人間は急におかしくなったりはしない、と思っている。
少しずつ、少しずつ、ゆっくりと、でも着実におかしくなっていくのだと思う。
先ほどから述べているガジェット通信の記者も既に「釣り」を許容している。
そりゃそうだ。この程度のことは、ネットニュースをよく読む人なら「釣り」だとも思わない。
でも着実に、少しずつ、それはまるでカンナが木材を削っていくように
僕らの正義が削られていく。

そしてある日気がつく。
とんでもない場所に行き着いていることを。

その一例が、さきの「デマの広がり方」ではなかろうか。
最初の記事と最後の記事の違いはなんだろうか。
これが産業革命以来の革命と言われたITの終着点なのか?


僕がネットニュースの危うさを感じた最も大きな出来事が
今年の8月6日午前8時付近の各ポータルサイトのニュース見出しである。
前に記事も書いた


Yahoo!
ロングテールの先っぽで-YAHOO

livedoor
ロングテールの先っぽで-LIVEDOOR

楽天Infoseek
ロングテールの先っぽで-INFOSEEK

MSN
ロングテールの先っぽで-MSN

excite
ロングテールの先っぽで-EXCITE


ひょっとしたら、この後か前に原爆の記事が見出しを飾っていたのかもしれない。
少なくとも黙祷の鐘がなった時間付近では、各社はこの状態だった。

Yahoo!はすごいよね、って言いたいんじゃない。
今のネットニュースには多分に危うさを含んでいると思のだ。