Appleが9月12日のスペシャルイベントでiPhone 5とともに発表した、同製品に搭載される最新プロセッサ「A6」だが、これは同社初のARM互換カスタムプロセッサである可能性が高まっている。また一連の裁判から部品調達先を変更したといわれるメモリについてもSamsung製である可能性が指摘されており、A6製造と合わせて基幹部品は依然としてSamsungからの供給に頼っている構図が浮かび上がっている。

A6プロセッサコアの正体

同件はAnandTechがレポートしている。まずプロセッサの仕様については「The iPhone 5's A6 SoC: Not A15 or A9, a Custom Apple Core Instead」というレポートに詳しい。AppleがA5/A5Xに次ぐ新プロセッサでフルカスタム仕様を採用する噂は以前より漏れ聞こえていたが、いくつかの証左からそれがほぼ確実とみられつつある。A6についての詳細はいまだAppleから語られておらず、ただプレゼンテーションの最中に同社のPhil Schiller氏が「2x faster CPU」「2x faster graphics」「22% smaller」と述べたのみだ。ただ、パフォーマンス増強にもかかわらず22%小型化しているということから、A5/5Xで採用されていた従来の45nm製造プロセスから、iPad 2,4で採用されたA5r2と同じ32nm製造プロセスが採用された可能性が高い。それでもプロセスルール変更の小型化に対して1割ほどトランジスタ数が面積比で多いため、このぶんをパフォーマンス増強にまわしたものとみられる。

9月12日のスペシャルイベントでPhil Schiller氏がiPhone 5のA6を紹介したときの様子

ここで問題となるのは、AppleがA6でどのプロセッサコアを用いたのかという点だ。A5ではARM Cortex-A9が用いられていたことが知られており、同社がA6でCortex-A9の強化版を用いたのか、あるいは上位版のCortex-A15を2コアで用いた可能性が考えられる。だがAnandTechはMac/iOSの最新開発ツールであるXcode 4.5にそのヒントがあるとしており、A6のコアの正体は「ARMv7命令互換でA9でもA15でもないカスタムコア」だと主張している。

Xcode 4.5では2つの大きな変更点があり、まずARMv6 ISAサポートが行われなくなった点が挙げられる。これはARM11プロセッサで用いられている命令セットで、プロセッサとしては初代iPhoneとiPhone 3Gで用いられていたものだ。つまりこれら2製品はiOSの開発ターゲットからすでに外れていることがわかる。次にARMv7サポートを継続する一方で、新たにARMv7sという新しいアーキテクチャをサポートしているという。ARMv7とARMv7sの大きな違いはVFPv4という浮動小数点命令に関する点で、ARM Cortex-A5/A7/A15といった新型プロセッサコアは同命令をサポートする一方で、旧型のCortex-A8/A9は従来のVFPv3のサポートに留まる。これにより、少なくともA6の正体はCortex-A9ではなく、主に性能面の理由からCortex-A15以外の選択肢はなくなる。だがAnandTechではもう1つの隠された可能性である「ARMv7s互換のカスタムプロセッサ」という意見をプッシュしており、これで性能とダイサイズ、省電力のバランスを取っているというのだ。実際、Appleは過去にもPA Semiを買収してプロセッサ開発チームを内部に抱えるなど、長年にわたって根回ししてきた経緯がある。ゆえに、従来のARMからIPを購入してプロセッサを作るだけでなく、自らプロセッサコア開発に向かっても不思議ではない。なおIPベースではなく、ARMv7互換プロセッサとしてはQualcommのSnapdragonシリーズが知られている。

一方でGPUコアについてはAppleのフルカスタム製品ではなく、従来と同じPowerVR SGX 543MP2の高クロック版とLPDDR2のコンビネーションだとAnandTechでは予測している。

搭載メモリはSamsung製? 搭載容量は倍増で1GBに

またAnandTechでは、このA6のプロセッサパッケージに搭載されたメモリがSamsung Electronics製の1GB LPDDR2-1066である点も指摘している。先ほどのSchiller氏のスライドに記されたA6のパッケージの刻印には「K3PE7E700F-XGC2」と記されており、これはSamsungの製品ガイドラインによれば、「32ビットのチャネルを持つLPDDR2のデュアルチャネル構成」のメモリだという。E7E7の型番はDRAMのダイ1つあたり512MBの製品を2つ組み合わせて1GBにしたことを意味している。そして最後の数字は転送サイクルを示したもので、これは1066MHzに該当する。

メモリ容量1GBは従来のiPhone 4Sから倍増しており、また転送速度も向上しており、この点は大きくパフォーマンス増加に寄与するといえるだろう。一方で先ほどの型番表記の理由から、A6を製造しているのは従来と同じSamsungで、さらに搭載メモリもSamsung製のものを採用している可能性が指摘されている。一連の特許侵害裁判の影響からAppleは部品調達先としてSamsungを意図的に外し続けてきたことが指摘されているが、一方で基幹部品であるプロセッサは調達の難しさからSamsungに頼る構図が続いており、両社の関係をつなぎとめている。