The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

無垢の罪と罰 ソーシャル・ネットワーク

 僕は、ルックス*1とオタク的志向からか、よく誤解されるが理系ではない。それどころか典型的な文系である。全然科学的なことは分からないし、これだけipadやら何やらが流行していても紙に勝るメディア媒体はないと信じている。今、こうしてPCでブログなんてやっているが初めて自分のPCを手に入れたのは2006年のことだし(もちろん、学生の時から学校や職場で多少触れてはいたが)、ブログを始めたのも2008年になってから。だからアナログ人間だしプログラムとかはよく分からない。そんな僕が「ソーシャル・ネットワーク」を観た。

 さて、今回この非常に話題になっている映画を鑑賞する当たって一つの枷をつけた。それは「敢えて、事前勉強をしない」例えば「ウォッチメン」が映画化された時、この複雑な物語を原作を読まずにまっさらな状態で見て理解することは可能なのだろうか?という疑問を持った。僕は原作を何度も読んでいるのですんなり理解できたが一般の観客はどうなのだろう。特に日本の予告編ではDr.マンハッタンの存在がなかったことにされていたしねえ。「ウォッチメン」関連の記事を充実させたのにはその辺で作品理解の一端になってくれればいい、と思ったから。僕は今回「ソーシャル・ネットワーク」でそんな体験が出来ないかと思った。つまり、「事前情報なしで情報量の多い映画を楽しめるか」

参照:小覇王の徒然なるままにぶれぶれ!: ウォッチメンもくじ

 で、例えば「第9地区」とかも事前予習を敢えてしないで見た作品なのだがアレは最初から映画として作られているものだ。今回は事前に「実話」であり、「史上最年少の億万長者」の話、というぐらいしか情報を仕入れなかった。「フェイスブック」とやらがどんなものなのか知らないし、勿論、主人公がどういう人物なのかも知らない。それで理解できるか試してみたつもり。まあ、どうしてもある程度は情報は入ってしまうけど。
 2003年、主人公、マークはハーバード大に通っているがボストン大の彼女と喧嘩別れしてしまう。腹いせにマークはブログに彼女の悪口を書き、その勢いで寮の女子を比べて優劣をつけるサイトを立ち上げる。そしてこれが大量にアクセスされたことが事の出発点になる。
 この最初の数シーンでマークのキャラクターが分かる。彼女エリカとの会話シーンでは一方的に早口で喋り、単なる相槌を相槌として受け入れられなかったり、ナチュラルにボストン大を見下したり、頭はいいがコミュニケーション能力不全な部分を思わせる。日本風にいえばマークは「空気が読めない」。
 その上で、勢いでブログに悪口を書き込んだり、首都大学東京の学生の卒業制作みたいなことをしてしまったので、それは断罪されるだろう。しかし本人は罪悪感を感じていない。ある種のサイコパスみたいなものだ。世間の常識では罪でも彼自身はとても無垢である。タイトルが「社会的なつながり」で彼はネット上にそれを構築するが、現実ではコミュ下手。そしてそれを自覚していない。
 前半で多く語られるのが大学のソシアルクラブの話で、「アニマルハウス」なんかが有名だが、大学のクラブと言うのは一種の互助会として卒業後も大きく影響を与える。マークはハーバードのエリートクラブ、ポーセリアンのウィンクルボス兄弟からハーバード大内SNS「ハーバード・コネクション」のプログラムを依頼されるがそれを無視して「フェイスブック」を創る。これが第一の訴訟の原因。惜しむらくは知識のない僕には「ハーバード・コネクション」と「フェイスブック」がどう違うのか、いまいち分からないのでこの筋肉エリート(ブレインとしてインド系っぽい学生もついている)の双子のイチャモンなのか本当にマークがパクったのかいまいち分からない。まあ、実際に決着はついていないのだろう。
 親友で、「フェイスブック」の共同創立者でもあるエドゥアルドは良くも悪くもこの寮に認められ参加したようにマークと対比される常識の内側にいる人物。ルックスも服装もマークよりきちんとしている。マークとエドゥアルドは親友だが、その間にナップスター創始者ショーン・パーカーが入り、おかしくなる。マークはショーンの言うことを聞くようになり、西海岸に移り、やがてエドウァルドとの仲が疎遠になっていく・・・
 このナップスターは僕も知ってる。大好きなメタリカラーズ・ウルリッヒが喧嘩を売った事で有名なところだ。演じているのはあのジャスティン・ティンバーレイクで、ミュージシャンが演じるというのはなんとも皮肉である。このショーンはマークと似ているがより享楽的な人物で後半の悪役を引き受けている。というのもマーク自身はパーティーなど華やかな場がそれほど好きではないように思えるからだ。また作品全体が(どちらかと言えば)エドゥアルド寄りの視点で描かれているように思う。
 
 監督はデヴィッド・フィンチャー。僕はこの人の作品は最初「エイリアン3」で知り、その後は「セブン」「ファイトクラブ」「ゾディアック」と一作置きに劇場で鑑賞している。特に「ファイトクラブ」は大好きな作品。この人は映像的に凝ったものを作り出すし、元々がミュージック・ビデオ出身というのもあって映像方面で語られることが多いと思うが、今回は映像的にはそう凝ったものはない。映画の構成として、「フェイスブック」創造の過程、そしてその過程で起きた二つの訴訟が挟まれる。二つの訴訟とも映画から観客がどちらが正しいのか判断するには至ってない。特にエドゥアルドの件はエドゥアルドのほうが正しいように心情的に加担してしまうからだ。「フェイスブック」が何故そこまで広がったのか(つまりそれ以前のサービスとどう違ったのか)を劇中では詳しく説明はしていない。多分、そこはそれほど重要ではないのだろう。
 フィンチャーの作品は現代(あるいは未来)を舞台に神話を語り直す作業を繰り返しているように思う。
 マークは人間的に完成されてないし、確かに彼の態度は「良識ある大人」にとって赦しがたいものであるだろう。ただ、彼は金に執着していない(一方で広告収入にこだわるエドゥアルドの態度もビジネス的に正しいのだろう。ただ、彼には金儲け以外のビジョン、「フェイスブック」の革新性を読み取る力が欠けていた)。日本のITバブル長者の醜い態度に比べればマークは何百倍も好感が持てる。彼はビジョンがあるし、そしてどこまでも無垢だ。 
 実在するマーク・ザッカーバーグ1984年生まれ、演じるジェシー・アイゼンバーグは1983年生まれ。演じてる役者のほうが年上じゃんか!それとマッチョ双子やエドウァルドも実名で出てるのね。凄い。それにオリンピック6位って十分凄い。でも一番凄いのはこの双子、双子の役者じゃなくて一人の役者が演じてるみたいだ、びっくり。
 アイゼンバーグは「ゾンビランド」同様、もじゃもじゃ頭のオタク。でもあっちの役者ってオタクを演じてても素は凄いイケメンだったりするんだよね。過去には「ナポレオン・ダイナマイトバス男?なにそれ)」のジョン・ヘダーが別の映画では普通に格好良かったのにびっくりした記憶が。多分「キック・アス」のアーロン・ジョンソンもイケメンだ。
 最後にマークと絡む、新米女性弁護士が一瞬ジェニファー・ラブ・ヒューイットかと思ったが、おっぱいは小さいので多分違う。
 音楽も非常に印象的で、不協和音なノイズっぽい物をバックにメロディアスなメロディラインが乗るという感じで映画に実に良くあっていた。
 
 ラストシーン。かつて自分を振ったエリカも「フェイスブック」利用者になっている。彼女に「友達申請」をするマーク。彼は満足したのだろうか。それとも・・・更新、更新・・

THE SOCIAL NETWORK

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 あ、思考実験としての「事前情報なしで情報量の多い映画を楽しめるか」は、全然問題なかった。普通に楽しめました。というか台詞量こそ多いけど最初から知らなくてもOKなつくりな気がする。
 そういえば劇中のビル・ゲイツは本人ですか?

*1:メガネ&今は違うが長らく長髪だった