「文献リストの “闇” は深い」

2017年の師走に脱稿した:三中信宏系統体系学の世界:生物学の哲学がたどってきた道』(2018年4月刊行予定,勁草書房[けいそうブックス])は文献リストが未完成だった.一念発起して各章末に分散していた文献リストを束ねてみたら,重複項目を除いてちょうど1,000項目くらいでおさまりそうな気配だ.かつての『生物系統学』文献リストが1,258項目だったのではやや少ない.

それでも,分量が分量なので覚悟はしていたのだがリスト作成ははてしなく続く.リマ本翻訳でずいぶん慣れたが,ボールドやイタリックなどの書式指定はすべてマークダウンで行なうととても作業が捗る.千項目もの文献をソートして,蟲捕りして,書式をお化粧するというのはエンドレスな工程だ.

それにしても,本文そのものよりもむしろ文献リストの方がはるかに “闇” が深いように感じる.

  • 【闇】その一)長い歴史をもつジャーナルの場合,途中で誌名が変更されることがある.最近の傾向だともともとはドイツ語だったが,“ぐろーばる化” のあおりで英語の誌名に変わったりしている.困るのは,当該誌のウェブサイトでアーカイヴを検索しても元の誌名がたどれなくなってしまうこと.たとえば,『Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research』誌は1999年以前には『Zeitschrift für zoologische Systematik und Evolutionsforschung』誌だったし,『Systematic Biology』誌は1992年までは『Systematic Zoololgy』誌だったはずなのに,その出自が見えなくなっている.

  • 【闇】その二)ジャーナルの「巻数」は明記するのが常識だけど,「号数」を略してしまうと場合によっては検索できなくなることがある.たとえば『Anthropological Linguistics』のように,巻数は同じで,しかも号によってノンブルをリセットするジャーナルでは,巻・号が両方わからないと迷子になる.とくに,古い論文の場合,最近では DOI が付されていることも少なくないが,DOI はあくまでも個々の論文の同定手段であって,それがどの媒体のどこに埋め込まれているかはひとつひとつ確認する必要がある.ある巻の巻頭論文だからといって,必ず「第1号」に掲載されているとはかぎらない.場合によっては「第1-2合併号」だったりすることがたまにある.

  • 【闇】その三)ジャーナルの巻号と刊行年(公式)がズレる場合.ほとんどのジャーナルは刊行年と巻号がシンクロしているが,『The British Journal for the Philosophy of Science』誌みたいにズレることがあって,同じ巻の発行が号によって複数年にまたがることがある.これまたそれぞれ確認しなければならない

一日がかりで作成した『系統体系学の世界』文献リストの項目数を数えたら全部で「962」項目だった.ゲラの段階で追加があるはずだが,やっとゴールが見えてとてもうれしい.ワタクシが過去に書いた本でも,本文はまちがいがあったり,賞味期限が過ぎてしまったりすることは(ときどき)あるが,文献リストだけはあとで利用価値があるように心して作成している.ある資料について調べるときに,やみくもにネット検索しても効率がひどく悪いが,自分のつくったリストはその点で安心(太鼓判).エネルギーを浪費して “乱射” するよりも,ピンポイントで “狙撃” に成功すればその方がはるかにシアワセな人生が送れるだろう.