「新・ぶら下がり社員」が企業をむしばむ「新・ぶら下がり社員」症候群(1/2 ページ)

「新・ぶら下がり社員」が増えれば、企業はどうなるのか。端的に言うと、企業の成長が止まってしまう。管理職がいなくなり、現場で判断できる人もいなくなる。こうした企業にいる社員の心も、いつの間にかむしばまれてしまうだろう。

» 2011年02月03日 11時20分 公開
[吉田実,Business Media 誠]

新・ぶら下がり社員の弊害

新・ぶら下がり社員とは

会社を辞める気はない。でも、会社のために貢献するつもりもない。そんな30歳前後の社員のことを、本連載では「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。


 新・ぶら下がり社員ばかりになったら、企業はどうなるのだろうか。

 みなが70%のやる気で働いていたら、そこそこ仕事は回っていきそうだが、それで安心していたら危険である。

企業の成長が止まる 

 企業にとって現状維持は衰退を意味する。マグロと同じで、泳ぎ続けていないと死んでしまうのである。企業が存続するにはわずかでも成長し続けなければならない。目標は100%ではなく、120%なのである。

 新・ぶら下がり社員のやる気が70%なら、目指す120%との差は50%にもなる。その差を埋めるために、新入社員や40歳以上のベテラン社員の負担が増えれば、社内の雰囲気は悪くなるだろう。自分より働かない人が同じように給料をもらっていれば、フラストレーションがたまり、社内全体の活気がなくなる。企業全体の衰退が始まるのである。

 最近のコンビニの商品を見ていれば分かるだろう。めまぐるしく商品が入れ替わり、新商品でも売れないものは次の週には外されてしまう。ヒット商品も3カ月もたてば消費者に飽きられるので、絶えず次の一手を用意しなければならない。高度成長期やバブル期は限られた時間に同じものをより効率的に作って売ればよかったが、今は新しいものを次々生み出すスピードと発想力が求められているのである。

 そのような時代で現状維持はあり得ない。そして現状維持の企業は次々と市場から姿を消していくのである。

管理職がいなくなる

 責任ある立場につきたくない、今の気楽な立場がいいという社員ばかりになったら、企業はどうなるのか。

 最近、自動車部品メーカーのユーシンが次期社長公募の広告を新聞に掲載し、話題になった。年齢は30〜40代、英語が堪能、優れた経営手腕を備えているなどの条件があり、1722人もの応募があったという。

 ユーシンのケースを対岸の火事だと思わないほうがいい。30歳前後の社員がぶら下がり続けていたら、すべての管理職を募集する事態になるかもしれないのである。

 外部から管理職を招くのは、いい面もあるだろう。組織に染まっていない分、大胆な発想ができ、客観的に戦略も練ることができる。しかし、1から業務や市場などを覚えるのは簡単ではないし、社内の人間と意思疎通が図れるようになるのにも時間はかかる。社内の人間なら、社内風土を知りつくして冒険をためらうという面もあるが、今までの実績や経験は何よりの武器となる。やはり社内の人間が管理職になるのが望ましい。

 30歳前後がダメなら、その下の世代の優秀な社員に管理職を任せればいいと思うかもしれない。

 だが、年下の上司、年上の部下という構図がギクシャクするのは、バブル崩壊後に成果主義が導入されてから多くの企業が体験してきただろう。年下の上司を持った新・ぶら下がり社員はますますやる気を失くし、さらにぶら下がるのは目に見えている。

現場で判断できる人がいなくなる

 今の時代は、現場レベルで判断できる人が必要である。

 先日、課長クラスの男性が企業内育成プログラムに参加し、ファシリテーターから「問題が発生した場合、あなたならどう判断し、どう対処しますか」と問いかけられ、「上の者と相談します」と答えたというネットの記事を読んだ。さらにファシリテーターが「正しいか、間違っているのかということではなく、あなたならどうするのかという意見を聞きたいのです」と食い下がると、「どう判断すればいいのか分からないから、上に相談するのです」と答えたのだという。

 この課長は完全に新・ぶら下がり社員である。

 いちいちトップに意見を求めて行動に移すのではなく、その場で判断して行動できる社員がいないと、企業は生存競争に勝ち残れない。30歳前後は、ちょうど意思決定を求められる場面が増える時期である。この時期にぶら下がっていると、何かにつけ上に相談する伝言係のような存在になってしまうだろう。企業はいつまでたっても自律できない子どもを育てているようなものである。

新・ぶら下がり病が伝染する 

 恐ろしいことに、新・ぶら下がり社員は伝染病のような威力を持っている。

 50代・60代のベテラン社員がぶら下がっているのを見ても、その下の世代は「自分はああなりたくない」とむしろ反感を抱くだろう。会社人生の終着点でくすぶっている姿を見ても、それは自分にとって20年後、30年後の遠い未来の話であり、それほど影響は受けない。

 ところが、組織の中堅である30歳前後がぶら下がり、くすぶっていると、20代にとっては数年後自分もそうなるかもしれないと「近い現実」になってしまう。高速で渋滞が発生したときのように、前が停まっているからと次々とスピードをゆるめ、新入社員も70%の力しか出さなくなるかもしれない。

 40代より上の世代も、褒めて励まし、叱咤(しった)してもやる気の出ない部下と対峙していれば、のれんに腕押し状態で空しくなるだろう。いつまでたっても新・ぶら下がりx社員が自律しないので、仕事が一向に減らずにモチベーションが落ちる恐れがある。

 かくして、組織にはやる気のなさが蔓延し、トップがいくら号令をかけても全力では動かない新・ぶら下がり社員ばかりになる。

 一度このような状況になってしまったら、そこから脱するのは難しい。腐ったみかんの話は有名だが、箱の中のみかんは1つ腐ると、次々に腐っていく。腐ったみかんは早めに取り除かないと、全滅してしまうのである。

 だから新・ぶら下がり社員の根絶は、企業にとって死活問題なのである。

 これは決して大げさな話ではない。1人や2人の社員がぶら下がっているのならまだいいが、数十人いる30歳前後の社員がみなこの調子で、新・ぶら下がり社員の兆候が見られる企業のほうが圧倒的に多いのである。今やぶら下がっていない社員を見つけるほうが難しい。

 当社のクライアントである不動産会社の総務部長は、「もっとも育成したいのは新入社員と30歳前後」と話していた。

 「30歳前後は、ビジネス社会の中でも非常に重要な時期だ。新卒として入社して5〜6年もすれば、ある程度の仕事の基礎力はついてくる。そのうえで、自分はどの方向に向かうのか、どの山を登るのかを決める必要性が出てくるのがこの年代となる。これからのビジネス人生の方向性を決める重要なポイントとなる時期なのである」

 彼の言葉のとおり、むしろ育成が必要な世代なのである。この世代の育成こそ最重要課題であり、どう育成するかによって企業の将来は決まるのである。

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