法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「テキサス親父」は日本国内の公娼も奴隷状態におかれたことを知らないらしい

タブロイド紙サイトとはいえ、まさか「テキサス親父」がメディアに連載コラムを持つようになるとは思わなかった。
【痛快!テキサス親父】「理論」で考える慰安婦問題 “強制された性奴隷”が事実でない証拠 (1/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

 米国の人口(約3億人)で置き換えると、「300万人の米国人女性が強制的に性奴隷にさせられた」っていうのと同じだぜ。この数がどれだけ大きいか分かるだろう。米国なら大問題だ。一体、朝鮮人男性は何をしていたんだ? 俺には理解できない。

従軍慰安婦には日本内地の出身者も多くいた。多くの同胞女性を人道に反する環境においていた軍隊が、植民地出身者の女性を手厚くもてなしたなどと考えられるだろうか。
そもそも軍事国家に支配されている現地人が、宗主国の軍隊制度へ反抗することが困難なことは当然だろう。日本軍が慰安所をつくったのは1930年代と考えられている*1。三一独立運動*2のような大規模な抗議活動が弾圧されてから10年以上も後のことだ。

実は、朝鮮人男性が何をしていたのか、俺は知っている。『太平洋戦争下の朝鮮及び台湾』(友邦協会)という資料によると、彼らは大日本帝国軍に入るために「志願」していたんだ。1938年から43年にかけ、少なくても80万人が「徴兵」ではなく「志願」し、このうち約1万7000人が大日本帝国軍人になることを「許可」された。

兵士にしても、自爆攻撃を強要されても大きな反乱を起こさずに従った。そして同胞の日本人は、少なくとも外面においては喜んで送り出したのだ。
米国にしても、第二次世界大戦時に日系人収容所を作って隔離していたのだが、一方で米軍に志願した日系人もいた。442連隊として知られている。
もちろん軍隊へ志願する動機はさまざまだ。戦場で活躍して発言力を高めれば民族の立場が安定するという理由もあれば、差別による困窮から少しでも生活を楽にするためという目的もあったろう。志願の形式でも、実質的には強要されていたということもある。


児童向けマンガの『ドラえもん』でも、ジャイアンの横暴に苦しめられている子供たちが、対価につられて、あるいは保身のために、のび太への攻撃に加担する場面があったりする。
同じ民族でも、同じように被害を受ける立場でも、個々人で思想や立場は違い、当然のように社会における身ぶりも変わるのだ。それくらいは前提にして歴史にむきあってほしい。
「テキサス親父」の主張は、ユダヤ人が収容所を管理していたということをもってホロコーストを否定するような論者と大差がない。


また、慰安婦と業者から聞き取り調査した報告書を「テキサス親父」は持ち出しているのだが。
【痛快!テキサス親父】「理論」で考える慰安婦問題 “強制された性奴隷”が事実でない証拠 (2/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

俺は昨年、ワシントンの国立公文書館から、太平洋戦争中の1944年、米軍が慰安婦から聞き取り調査した報告書を取り寄せた。

こちらは古臭いデマなので、以前のエントリへリンクするだけで充分だろう。
「テキサス親父」が存在を確認した尋問調書は、たしかに重要だ……ただしそれは慰安所の非人道性の証拠としてであり、そもそも昔から知られていた資料だが - 法華狼の日記
そして「テキサス親父」は制度の合法論をとなえる。しかし合法であったことは奴隷でなかったことを意味しない。

当時、公娼制度は合法だったんだ。感情は横に置いて、理論を使おうぜ。いい加減、慰安婦の像や碑で米国を汚すのはやめてくれ。

公娼が悲惨な状況に置かれていたことを否定できないかぎり、「テキサス親父」の「理論」は破綻する。むしろ悲惨な状況を合法にしていたならば、日本社会の責任はいっそう重くなるはずだ。