大規模火災に見舞われているオフィス用品通販大手アスクルの物流センター。同社が2012年に立ち上げた消費者向けネット通販サービス「LOHACO」を支える戦略拠点の一つで、自動のピッキングロボットを試験導入している最新鋭施設だった。記者は2016年9月、取材の一環でこの施設を訪れている。早期の鎮火を祈りつつ、当時、内部からみた倉庫の様子を紹介する。

 火災が起きているのは埼玉県三芳町にある物流センター「ASKUL Logi PARK(アスクルロジパーク)首都圏」。アスクルが土地や建物に160億円、設備や備品などに約40億円を投じ、2013年夏に稼働させた。

ロジパーク首都圏には総延長8.5kmにわたるコンベアが張り巡らされており、各地域に自動で荷物を送り分けていた(2016年9月、埼玉県三芳町。撮影:北山宏一)=以下同
ロジパーク首都圏には総延長8.5kmにわたるコンベアが張り巡らされており、各地域に自動で荷物を送り分けていた(2016年9月、埼玉県三芳町。撮影:北山宏一)=以下同

 ロジパーク首都圏は地上3階建てで、延べ床面積は7万2000平方メートルと東京ドーム1.5個ぶんに相当する巨大物流センター。関越自動車道の所沢インターチェンジまでクルマで10分という好立地にあり、火災の発生直前まで、主に関東一円に出荷する約7万品目の在庫を取りそろえていた。

 周辺は田畑が多く、すぐ近くに民家が多数並ぶような状態ではない。どちらかというとすぐそばに佐川急便の営業所があるなど大型トラックが走り回っているような土地柄だ。記者は取材前に立ち寄った近くのセブンイレブンで、駐車場の広さに驚いた記憶がある。

 今回の火災は2月16日(木)の午前9時ごろ、発生が伝わった。それから4日半にわたって消防が消火活動にあたっているものの、20日(月)夕時点で鎮火のメドは立っていない。負傷者は出火当日の従業員2人にとどまり、死傷者は出ていない。これだけは不幸中の幸いといえるが、埼玉県の危機管理防災部によると19日(日)時点で全体の6割にあたる約4万5000平方メートルが焼損している。

最新鋭のピカピカ倉庫

 記者は2016年10月、日経ビジネスの「企業研究」というコーナーでアスクルを取り上げており(こちらを参照)、同年9月上旬にロジパーク首都圏を訪れた。

 当時、施設内に入って感じたのは、とにかく「最新鋭の機械を備えたピカピカの倉庫である」ということだ。竣工から3年程度とはいえ、全館にわたってLED照明が灯る屋内は明るく、「物流倉庫」と聞いてイメージするような暗さや、重労働に耐えて黙々と働く従業員……というような印象は抱かなかった。

メーカーの工場などからトラックで運びこまれてきた日用品の段ボールが、1階に積み上げられていた。
メーカーの工場などからトラックで運びこまれてきた日用品の段ボールが、1階に積み上げられていた。

 1階にはトラックから運び込まれた段ボールをフォークリフトで積み上げる作業員たちの姿があった。身長178センチメートルの記者を悠に上回る高さまで積み上げられた段ボールの「山」に、最初は「地震が来ても大丈夫なのだろうか」と不安になったが、案内役のアスクル社員は「透明なフィルムで覆うことで、地震が起きても倒れないように工夫しています」。地震と火災とは別モノとはいえ、災害に対する意識は徹底されているように思えた。もちろん、火災時に作動するスプリンクラーについても「法定基準を満たして設置していた」(アスクル広報部)という。

 施設内では、ピッキング作業の一部を自動化するなど最新技術を盛り込んだロボットの数々を目にした。

発送頻度の少ない商品については、天井まで積み上げられた在庫棚からロボットがピッキングする仕組みを採用していた。
発送頻度の少ない商品については、天井まで積み上げられた在庫棚からロボットがピッキングする仕組みを採用していた。
[画像のクリックで拡大表示]

 なかでも存在感を示していたのが、高さが最大5.5メートルある天井ギリギリまで並べられた在庫棚だ。そのあいだをロボットがするすると行き来する様子をみていると、現場の人手不足にあえぐ物流業界から注目を浴びているという事実にも素直にうなずけた。

 今回、消火活動が難航している理由の一つとして窓の少なさがあげられている。外部からの放水が難しいため、消火には壁に穴をあける作業が必要になっているからだ。

 記者は過去に自動車業界を担当したことがあり、特に部品メーカーの工場をよく訪れた。当時、工場の担当者から「天井近くにガラス窓を設けることで太陽光をとりいれ、光熱費の削減につなげています」という話を聞いた記憶がある。

 それを思い出しながら昨年9月に撮影した写真を見返すと、たしかにロジパーク首都圏は窓が少ないように思える。ただし、記者が2016年12月に見学したアマゾンジャパンの物流センター(川崎市)も窓が多いわけではなく、似た雰囲気だった。少なくとも、物流センターとしてはアスクルの拠点だけ特に窓が少ないということはなさそうだ。

発注頻度の高い商品は、従業員が手作業でピッキングする。屋内はLED照明完備で明るいが、窓が多いわけではない。
発注頻度の高い商品は、従業員が手作業でピッキングする。屋内はLED照明完備で明るいが、窓が多いわけではない。

LOHACO事業、正念場

 アスクルは2012年5月にヤフーと資本業務提携した。ヤフーはアスクルがネット通販サイトを立ち上げるうえで強力な援軍となり、半年も経たないうちに消費者向けのネット通販サービス「LOHACO」がオープンした。

 アスクルにとって、LOHACOは創業からの事業であるオフィス用品通販に次ぐ経営の柱に育てたい重要事業だ。だが、これまで利益が出たことはない。同事業の営業損益は2016年5月期で34億円の赤字。2017年5月期も売り上げは480億円まで増えるものの、39億円の営業赤字を見込んでいた。

 岩田彰一郎社長は昨年9月のインタビューで「いまは初期投資をしている段階」と強調。数年後をめどに売り上げを1000億円まで伸ばし、その段階までに黒字転換するという青写真を描いていた。ロジパーク首都圏の新設もLOHACOの使い勝手向上が最大の目玉。「稼働前に比べ、当日配送に対応する品目数を倍増させる」(アスクル)という役割が求められていた。

死傷者が出なかったことだけが不幸中の幸い。早期の消火と、原因究明が急がれる。
死傷者が出なかったことだけが不幸中の幸い。早期の消火と、原因究明が急がれる。

 今回の大規模火災は、そんなさなかで起こった。アスクルはロジパーク首都圏のほかにも、2015年12月には福岡市、2016年5月には横浜市でもロボットを活用して自動化を推進する同様の物流センターを新たに稼働させている。早期の鎮火はもちろんのこと、なぜ出火したのか、なぜ延焼をすぐ止められなかったのかなどの原因を突き止めないと、他の拠点でも同じことが起きかねない。

 趣味で買うものを億単位の品ぞろえから選ぶスタイルが従来の「ネット通販」だったとすれば、アスクルは食料や日用品といった普段使いの商品を気軽に買える「第2世代ネット通販」の普及を掲げてきた。メーカーと二人三脚での商品開発ではすでに成果も得られるなど、アマゾンにも楽天市場にもない新しいサービスを模索する姿に、消費者からも支持が集まり始めている。

 「物流を制するものがネット通販を制する」と社内外に訴え続けてきた岩田社長は、まさにその物流拠点で起きた火災事故をどう収束させるのか。改めて指導力が問われている局面といえるだろう。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中