直近のサンフランシスコ連銀のレポートが、ケネディ政権下の1961年のツイストオペはQE2の先例であった、と述べている。
同レポートではまず、ツイストオペが実施された背景について説明している。それによると、ケネディ新政権下で景気後退に陥っていた米国は金利を下げたかったが、欧州は好景気で高金利だったため、単純に金利を下げるとブレトンウッズ体制下の固定相場制では金が欧州に流出してしまう。そこで、企業の設備投資や住宅投資に影響する長期金利を下げる一方で、金の流出入に影響する短期金利を維持するようなオペレーションに踏み切ったのだと言う。当時流行していたダンスに因んで、その操作はツイストオペ(Operation Twist)として後世に知られることになった、との由。
次いで同レポートは、そのケネディ時代のツイストオペと直近のQE2との共通点を3点挙げている。
- 短期金利を下げずに長期金利を下げようとした
- ツイストオペは金流出を防ぐため
- QE2は短期金利が既にゼロ下限に達していたため
- 長期国債の大規模な購入を伴っていた
- その長期国債の購入費用を短期国債の売却もしくは発行で賄った
レポートはさらに、両オペレーションの規模の比較を行っている。名目金額で言えば、ツイストオペが88億ドルに対しQE2が6000億ドルと大きな開きがあるが、GDP比で見ると、それぞれ1.7%と4.1%になる。その数字で見てもツイストオペがQE2の半分程度に過ぎないとは言え、このパーセンテージは情報伝達という点では十分と言える、と著者たちは言う。また、国債発行高に対する比率で見ると、それぞれ4.6%と7.0%となり、差は一層縮まる。さらに、ファニーメイやフレディマックのような政府保証債も分母に含めると、ツイストオペが4.5%に対しQE2が3.7%となり、その差は逆転する。
その上でレポートは、ツイストオペに関する声明がWSJで報じられた6つの日を新聞データベースから拾い出し、それに関するケーススタディを実施している。その6つの日とは、以下の通りである。
- 2月2日、ケネディ大統領が計画を発表。
- 同日の市場引け後、財務省が69億ドルの新規債の発行を発表。それは長期債ではなく、満期がわずか18ヶ月の債券であった。
- 2月9日、FRBの統計データのリリースにより、長期債の購入という異例の市場操作をFRBが実施したことが明らかとなった。それはツイストオペへの支援を示すものであった。
- 2月20日、FRBがツイストオペを明確に認めるという極めて異例の声明を発表し、5年以上の満期の長期国債を購入するという新規の政策を打ち出した。
- 3月15日、財務省は、5年から6年という市場予想よりも満期が長めの債券を用いて資金再調達をすると発表し、ツイストオペを若干後退させた。
- 4月6日、FRBの統計データのリリースにより、より満期が長い国債の公開市場買い付けが急増したことが示された。10年超の長期債も初めて対象となった。
この6つのサンプルについて著者たちが実施したケーススタディは極めてシンプルなもので、声明の前と後の国債利回りの引け値を比較する、というものである*1。その結果は以下の通り。
この表に関する著者たちの分析は次の通りである。
- 2月20日にFRBがツイストオペを公けに認めたことが最も劇的な効果を示し、5年以上の国債利回りが6〜9ベーシスポイント(bp)下がっている。同時に3ヶ月と1年の国債利回りはそれぞれ11と6bp上がっており、まさに利回り曲線のツイストをもたらした。
- 2月2日のケネディ大統領のツイストオペ導入声明も、長期債の3〜4bpという一日にしては大きな低下をもたらしている。
- 3月15日の財務省の政策転換は、長期債の利回り上昇を招いている。特に、新規発行を表明した5年物でその傾向は顕著である。
また、3週間以内という短期間に出された最初の4つの発表と、6つの発表すべて、という2種類の集計データについて、利回りの累積変化を見たのが下の図である。ここでそのような2種類の集計データを用いたのは、4番目と5番目、5番目と6番目の発表(および6番目の発表とそれ以降のツイストオペに関する発表)の間が開いたのと、5番目の発表が政策後退を示唆するものだったためである。
(黒い点は統計的に有意なシフトを示す)
この図は利回り曲線のツイストを綺麗に示しており、その両端の逆方向への変化はそれぞれ統計的に有意である。ただし、変化幅自体は13〜16bpとさほど大きくはない。
また、ツイストオペから政府機関債や企業債への波及効果も統計的に有意かつ小幅なものであり、政府機関債については13bp程度、企業の債券については2〜4bpであった、とレポートでは報告している。