全盲の76歳、“Androidアプリで文字入力”への挑戦 タッチパネルでも軽快に(1/2 ページ)

点字を打つ要領で文字入力できるAndroidアプリがある。企画したのは、全盲の長谷川貞夫さん(76歳)。物理的な文字入力キーを備えていないタッチパネル式スマートフォンが増えるなか「世の中にある便利なものを健常者と同じように使いたい」という思いで開発を続けている。

» 2011年10月06日 14時07分 公開
[笹山美波ITmedia]
画像 長谷川貞夫さんは2010年、社会で活躍する障害者として埼玉県の「塙保己一賞」の大賞も受賞している

 画面の数字を指でなぞると、点字を打つ要領で文字入力できる――こんなAndroidアプリがある。企画したのは、全盲の長谷川貞夫さん(76歳)。タッチパネルを採用し、物理的な文字入力キーを備えていないスマートフォンが増えるなか、「世の中にある便利なものを健常者と同じように使いたい」という思いで開発を続けている。

画面をなぞって入力 その名も「IPPITSU」(いっぴつ)

画像 IPPITSUの使用画面

 点字・録音図書を出版する社会福祉法人桜雲会の理事を務めている長谷川さんは取材の冒頭、スマートフォンを取り出した。1文字当たり2〜3秒のペースで「あ」「い」「う」と次々に入力していく。目が見えていないとは思えないほど軽快で、記者はあっけにとられてしまった。

 長谷川さんが文字入力に使っているのは、自身が企画した試作段階のAndroidアプリ「IPPITSU」。縦3列・横2列の6つの丸印が並ぶシンプルな画面だ。点字は縦3列・横2列の6つの点で表現されるが、アプリの丸印はまさにこれに当たるもの。点字を打つ要領で丸印を指でなぞると文字入力できる仕組みになっている。

 丸印を指でなぞる軌跡が一筆書きに似ているため、IPPITSU(いっぴつ)と名付けた。文字入力に成功すると、スマートフォンが振動し、入力した文字を音声で読み上げてくれるため、画面が見えなくても入力した文字を確認できる。

 長谷川さんはスマートフォンの画面上にセロハンテープで印を付け、おおまかに丸印の位置が分かるようにした上で、IPPITSUを使っている。もちろん画面に凹凸はないが、視覚障害者にとってなじみある点字配列のため、「(指先で丸印の位置を)“探る”のが簡単」と語る。

 例えばiPhoneにも、画面を見なくても操作を可能にする音声読み上げ機能「VoiceOver」が備わっているが、全盲の人が入力キーだと思われる場所をタッチしては確認する――を繰り返して入力するのは根気のいる作業だったという。IPPITSUには、そんな苦労を経てきた長谷川さんの意見が生きている。

 記者もIPPITSUを試してみた。点字の仕組みを理解した上で、目を閉じて使ってみる。丸印が表示されているエリアを頭の中で想像しながら、指をすべらす。点字の仕組みに慣れていないため時間はかかったが、通常のスマートフォンで目を閉じたまま文字入力するのと比べれば、はるかに楽ちんだ。

 IPPITSUは、群馬工業高等専門学校の牛田啓太講師(33歳)の協力を得て開発され、今年5月には「ワイヤレスジャパン」でも展示した。まだ実用には至っていないが、「早く実用化して欲しい」といった声が寄せられるなど「ある程度評価を得られた」とうれしそうに語る。

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