12音階誕生後の世界 PART2


12音階誕生後の世界(→http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20110513)の続き。



原始人A「おい。これ、木琴で肉声をガイドするだけじゃつまんねーな。」


原始人B「と言うと?」


原始人A「まず音が薄すぎる。細いんだよ。もっと何音も同時に鳴らさないと迫力がないよ。そもそも7本×4オクターブで28本も鍵盤があるのに、ある瞬間に叩いているのがそのうちの1本だけって、すごくもったいないよ。」


原始人B「じゃあ、オクターブ違いの音も叩いておけよ。ドを叩くなら、ひとつ下のドも叩くとかさ。」


原始人A「同じ音をdoublingするのか。それは悪くないアイデアだけどさ、同じような音でなく他にも音が欲しいんだわ。」


原始人B「それならオクターブより狭いスパンで合う音を探すしかねーな。ドを叩くなら3倍音のソも叩いても響きは損ねないんでね?」


そう言いながら原始人Bは低いほうの音から順にド・ド・ソという和音を叩く。


原始人A「いやいやいや。お前、耳がおかしいだろ?いまの一番高い音は、ソだよね?俺にはソのインパクトが強すぎて全体としてもソにしか思えなかったわ。」


原始人Bは、もう一度、同じド・ド・ソを同時に叩く。


原始人B「ああ、そう言われてみるとそうだな。人間はどうやら一番高い音を過敏に聴きとってしまうように出来ているようだな。じゃあ、肉声用のガイドトーン(メロディライン)をトップノート(一番上の音)にして、それより低い音域にそのメロディを損ねない音を配置すると。」


そう言いながら原始人Bは低いほうの音から順にド・ソ・ドという和音を叩く。


原始人A「確かに音は太くなったな。しかしこれはひどい音楽だぞ。」


原始人B「と言うと?」


原始人A「お前は音楽はからっきし駄目だな。これでド→レ→ミというメロディがあると、こうなるんだろ?」


そう言いながら原始人Aが次の音を同時に叩いた。


ド・ソ・ド


レ・ラ・レ


ミ・シ・ミ



原始人A「このひどさがわからないか?」


原始人B「少しせわしない感じはするな。」


原始人A「せわしないなんてもんじゃないぜ、これは。俺たちが歌うときに手拍子入れるじゃん。手拍子って一定間隔で…たいてい、拍ごとに入れるじゃん?手拍子をメロディのほうに合わせて入れてくる奴が居たらぶん殴ってるだろ?これはそんな感じだよ。メロディに合わせて手拍子入れてきてる奴と一緒。俺ならグーパンチしてるわ。」


原始人B「そんなもんか…。」


原始人A「つまりな、メロディの、その1音だけを見て、その音を補強するという考え方自体がおかしいんだよ。せわしない。グーパンチしてやりたい。」


原始人B「もうグーパンチはわかったってば。それじゃあ、メロディの1小節分ぐらいに対して、それと調和する音の集合を探して、その音を使って補強すればいいってことか?『調和する音の集合』だから略して『和音』と呼ぼう。」


原始人A「そうだな…。つまり、例えば、ド→レ→ミというメロディの進行に対してド・ミ・ソという和音が合うと思えば、このド・ミ・ソの音から好きな音を何音か選び出して、それで補強するわけだな。」


原始人B「うん。そう。」


原始人Aが木琴を同時に叩く。


ド・ミ・ド


ソ・レ


ド・ド・ミ




原始人A「うん、いいね。さっきのに比べればずっといい。落ち着きがある。」


原始人B「ああ、確かに。聴き比べれば俺にもわかったわ。」


原始人A「あるいは、手拍子の代わりにこの和音の音をバーンと全部一度に叩いてもいいかも知れん。」


原始人Aはそう言うとドミソを叩いた直後、ド→レ→ミというメロディを叩いた。
原始人Aは、この同時に叩かれたドミソを手拍子の代わりと考えているようだ。



原始人A「お前がどう思っているかは知らないが、俺はこの木琴ってやつは万能な楽器だと思っている。4オクターブだけじゃなく、8オクターブぐらい用意すればいいと思っている。そうすればこの木琴だけで音楽として完結する。」


原始人B「完結って、どういうこと?」


原始人A「いま、俺たちの歌のガイドとして木琴を使うって言ってるが、まずそれがおかしいと思うんだよ。俺たちの歌の音高と同じものが表現できるんだから、これは俺たちの歌の代わりになりえるデバイスなんだよ。いや、“代わり”だなんて過小評価もいいところだ。これは、それ以上のものなんだよ。俺たちが喉をさんざん酷使しても出せないような高音だって出せる。小鳥のさえずりから小川のせせらぎまで表現できる。」


原始人B「そういうものか…。」


原始人A「小川のせせらぎと小鳥のさえずりなら、こうだ。」


小川のせせらぎ


小鳥のさえずり


原始人B「ふーむ、確かに言われてみればそう聴こえなくはない。」


原始人A「低音についても同様だ。お前がかつて虎の腹の皮で作ってくれた太鼓とか言うリズムマシーンあったよな。あれの代わりに木琴の低音を叩いてもいいと俺は思っている。太鼓の代わりに、木琴でリズムを刻んでもいいと思っている。」


原始人B「そうか。そこまで気に入ってくれてるんなら俺はこの木琴を作った甲斐があったわ。でも太鼓の代わりってどうやってそれを表現するんだ?」


原始人A「和音の音をいくつか順番に叩いてもいい。いま演奏している小節に対してド・ミ・ソが調和する音だとわかっていれば、ド→ソ→ミ→ソのように1音ずつばらして叩いてもいいし、もっと単純には、和音の中心となる音、まあ、仮にこの場合、ドだとして、オクターブの違う二つのドを使ってビートパターンを表現してもいい。」


原始人B「最後のところ、意味がちょっとわかんないんだが。」


原始人A「オクターブ違いの二つのドだけでも、太鼓叩いてたときのように音の長さとタイミングを工夫しさえすれば、躍動感やリズム感が得られるってことだよ。例えば、太鼓のダ・タ・ト・ト・ダ・タ・ト・トを俺ならこう表現する。」


原始人Aは低いドとそれより1オクターブ高いドで次のようなリズムパターンを叩き続けた。


高いド:●●○○●●○○
低いド:●○●●●○●●



原始人B「うわー、これはすこぶる気持ちがいいな!お前の言うように木琴は確かに太鼓の代わりになる。木琴は太鼓であり、ヴォーカルであり、小鳥であり小川なんだな。お前の言いたいことがいまハッキリわかったよ!」


原始人A「しかし、残念なことにこのメロディに合う和音とやらをどういう基準で選んでくればいいのか、俺にはまったくわからないんだが…。」


(つづく)


・続き書きました。


12音階誕生後の世界 PART3
http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20110522