99U:締切までに仕事を仕上げられず、さらにはそのあとの仕事にも遅れが出てしまって、最悪な気分を味わったことはありませんか? なんとか仕事を進めるべくがむしゃらにがんばっているのに、どうもうまく進んでいないという感覚、常に仕事が遅れているような感覚にとらわれます。

逆説的ですが、こうした焦りの感覚をもつと、やっつけ仕事になってしまい、長期的な視野で利益を生めるような仕事に取り組む時間が取れなくなります。たとえば、現在取り組んでいるプロジェクトを次のレベルに高めるために計画を練るといった時間です。

目の前の仕事をこなすべく、常にがむしゃらに仕事に取り組むことで、どれだけ大きな心理的負担を受けるかが研究で明らかになっています。経済学者のSendhil Mullainathan氏と心理学者のEldar Shafir氏は、著書『Why Having Too Little Means So Much』において、「時間が足りない」という感覚に陥ると、ある種の視野の狭さが生じると書きます。視野が狭くなり、将来の結果に対する意識が低くなり、自己管理能力も低くなると。つまり、仕事に取り組める時間の長さが同じであっても、焦っているという感覚を抱くだけで、生産性が低下するのです。

ですが、幸いなことに、こうした焦りの感覚は、自分の意識を変えるだけで、手放すことができます。

1.重要な事を口に出すことで、意識する

焦っていると目の前の仕事に意識が集中し、本来優先すべき事を無視してしまいがちです。重要だけれれども、緊急ではない事を放置してしまうのです。健康管理、パートナーとの関係、読書、思索をする時間、運動などがそれらに含まれます。EメールやTo-doリストに並んでいることの方が、ジムに行くことよりも大事ではないかという感覚に襲われてしまいます。「後でやればいいか」と常に言いながら、いつまでもやらずに終わってしまうのです。

こうした状況を変えるのに参考になるのが、『168 Hours: You Have More Time Than You Think』の著者Laura Vanderkam氏が提案する「これをやるための時間がない」という言う代わりに「これは重要ではない」という言葉を使って、緊急度は低いけれど重要な事を明確にする方法です。「小説を書く時間がない」という代わりに「小説を書くことは重要ではない」と大きな声で口に出して、そのとき自分がどのような感情を得るかを確かめてください。「重要な締切が迫っているから、ジムに行く時間をつくれない」という言い訳を口にするのではなく「健康は重要ではない」と言うのです。

こうすることで、真実を直視せざるを得なくなり、よりやるべき事の優先順位をうまくつけられるようになります。このように意識を変えることは同時に、長期的に重要なことに時間をかけ過ぎていて、目の前の締切をおろそかにしているかどうかも明確になりやすくなります。そして、やるべきことが重要ではないと分かった場合には、それを手放すことも検討しましょう。

2.大変な仕事は処理能力が高まっているときに取り組む

骨の折れる、負荷の大きな仕事について考えるだけで、クリエイティブな作業能力に影響が生じます。Mullainathan氏とShafir氏が行った別の研究では、ある単語を探すテストにおいて、ダイエット中の人は「ドーナツ」という単語を見つけるのに、ダイエット中ではない人が「写真」という単語を見つけるのにかかった時間よりも3割も長い時間を要したと言います。何か食べたいと考えているだけで、処理能力が落ちる結果となったのです。

似たような現象が、焦っているときに起こります。何か別のことに取り組んでいても、締切が近づいているプロジェクトに対する不安が常に頭の片隅に存在するような状態になってしまうのです。こうした、心配事を常に抱えている状態では、頭の処理能力が落ち、別のことに取り組んでいてもミスをしやすくなり、より作業に時間がかかってしまいます。

あることについて、それに取り組める時間がいつできるのかを心配するよりも、いつ処理能力をもてるのかを考えましょう。重要であり、緊急ではないことを、処理能力が高まっているときに取り組むことが大切です。そうすれば、適切ではない時間にそれに取り組む事が避けられますし、しっかり自分で管理している感覚を取り戻すことができます。

たとえば、仕事のあとエネルギーが落ちているときに、趣味のプロジェクトを進めることが難しいと分かったら、代わりに早く起きて、仕事の前に取り組むという選択も考えられるでしょう。もしくは、金曜日に会議をすると仕事に対する不安が高まり、週末に家族と過ごす時間の質も落ちてしまうという場合には、「金曜日はノー会議デイ」に設定し、自宅でよりゆっくりした時間が取れるように、金曜日の仕事をゆるめに設定することも可能かもしれません。会議の量を減らす必要はありませんが、ただスケジュールを調整するだけで、オフの時間帯をよりくつろげるものにできるのです。

3.自分の時間を与える

焦りを感じていると、過度に時間に執着するようになり、おかしな行動を取り始めます。コーヒーを待っている時間を数えたり、遅延するバスや電車に悪態をついたり。こうなってしまったら、やるべきことは「自分の時間を与える」ことです。

この事態を受け入れるだけの時間が私にはある」このように自分に言い聞かせ、行動するだけでも、焦りの感覚はかなり消滅します。他人に自分の時間を与えること。たとえそれが10分間だけであっても、「時間をたくさんもっている」という感覚を得ることができます。

イェール大学、ウォートンスクール、ハーバード大学の教授チームによって行われたある実験では、参加者が地元の落ちこぼれの学生が書いた調査レポートの編集を15分間手伝ったところ、参加者は自分はより自由な時間があり、その後に課された作業にもさらに多くの時間をかけて取り組むという結果が示されました。不思議なことに、こうした「時間の提供者」のグループは、より生産的で、かつ自分に多くの時間があると感じていました。

私たちは日々の生活で起きることをコントロールすることはできませんが、起きることに対していかに反応するかはコントロールできます。一般的に、「忙しい」というのは1つの精神状態であり、できるだけ避けるべき、かつ避けることのできる状態です。あなた自身の視点を変えれば、生産性(と心の健康)は改善されるのです。

Escaping the Time-Scarcity Trap|99U

Janet Choi(訳:佐藤ゆき)