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phasonの日記: 恐竜の体温を推定する

日記 by phason

"Dinosaur Body Temperatures Determined from Isotopic (13C-18O) Ordering in Fossile Biominerals"
R.A. Eagle et al., Science, 333, 443-445 (2011).

恐竜が恒温動物だったのか変温動物だったのか,という事は古くからの議論の的である.初期には爬虫類からの類推で単純に変温動物と考えられていた(と言うか哺乳類と鳥類以外は全て変温動物と信じられていた)が,そもそも現存している生物であってもそう簡単ではないことが判明した(*)り,恐竜が鳥類の祖先であることが判明してきたため議論が起こる.

*例えば,マグロはその筋肉による発熱で体温を維持する恒温動物であるし,ナマケモノは哺乳類であるにもかかわらず外気温によって体温が大きく変動する.また大型爬虫類であれば,表面積(=表面から逃げる熱)が小さいため通常の代謝による微量の発熱だけでも内部にかなり熱を溜め込む事が出来,準恒温状態を作ることが出来る.このため,現在では恒温動物・変温動物という区分けの代わりに,内温動物(Endthermy,体温の多くが内部の代謝に由来する)と外温動物(Ectothermy,体温の多くが外界の熱に由来する)という区分が用いられている,らしい.

さて,恐竜の体温であるが,小型の恐竜に関してはほぼ恒温動物であったと考えられるようになってきている.例えば当時の南極圏には小型恐竜(Polar Dinosaur)が生息していたことがわかっているが,いくら当時は今より気温が高いと言っても変温動物ではそんなところで生存することは出来ない.また,化石からの骨の成長速度の分析結果はかなり急速な成長を示唆しており,こちらもやはり代謝の多い恒温動物であったことが示唆されている.このようなことから,現在では恐竜は基本的に恒温動物であったのではないか,と言う考えが主流である.
その一方,議論が残っているのが巨大な竜脚類(Sauropod)である.これはまあ,スーパーサウルスのような長い首とでかい図体を持つ草食恐竜達を指す.こいつらは体がでかいために,恒温動物のように内部の代謝が活発であったとしたら放熱が間に合わないのではないか?とか,それだけの代謝を維持しようと思えば餌が足りないのではないか?という点が問題視されている.そのため現在では,(現存するオサガメ類のように)体表面からの放熱を減らし,内部の少ない代謝のエネルギーを逃がさないことで体温を維持している準恒温動物,と言う見方が徐々に広まりつつある(が,議論が多い).

さて,こういった体温が問題になってくると,何とか恐竜の当時の体温を直接測定する方法はないものか?と思うのが研究者の性である.そして広く利用されているのが,化石中(骨格中)の酸素の安定同位体18Oの比率で温度を調べる手法だ.18Oは通常の酸素(16O)よりやや重いので飛びにくく,固定化されやすい.このため骨や歯などが作られる際には,周囲の18O/16Oの比よりやや濃縮された形となる.しかしその場の温度(自然界なら気温,生体中なら体温)が上がると,熱による攪乱が大きくなり,18Oは16Oとほぼ同じ確率で取り込まれるようになり,環境中の18O/16O比に近づいていく.これを利用し,恐竜の体温の推計がなされてきた.
しかしこの手法には一つ大きな問題点がある.それは,体温による18O/16Oの変化がわかっても,そもそもの周辺環境中での18O/16O比がわからなければ体温が確定できないのだ.つまり,18Oが多いのが,体温が低かったからなのか,そもそも環境中の18Oが多かったのかの区別がつかないわけだ.

さて,今回の論文は,この問題を解決する手法を使って恐竜の体温をもっとちゃんと決めましたよ,というものだ.使われている手法は著者らが昨年開発(別の論文として発表)したもので,18Oと13Cとが結合した炭酸塩の量を用いる.18Oの量そのものや,13Cの量そのものは周囲の環境と温度の影響を受けて変動する.しかし,「それら取り込まれた18Oと13Cのうち,18O-13Cの結合を作っているものの比率」は,周辺温度だけで規定される量となる.
つまり,これまでの手法では,

元々の18Oの量(不明) →周辺温度(不明)→ 取り込まれた18Oの量(測定可)

となって測定可能量1つに対し不明な量が2つあって困っていたのが,

取り込まれた13Cの量(測定可)+取り込まれた18Oの量(測定可) →周辺温度(不明)→ 18O-13C結合を作っている量(測定可)

と,不明な量を1つに減らして確定できるようにしたわけだ.

炭酸塩は歯に多く,一応骨にも入っているのでこういったサンプルから測定が可能になる.今回は歯の化石を用いて測定している.
測定された体温は,Camarasaurusで36.9±1.0 ℃,Brachiosaurusで38.2±1.0 ℃程度になるようだ.
この値はなかなか微妙な温度で,鳥類などの40℃よりは低いが,ワニ類などよりは高い.前述の準恒温動物と言われればそうかもなあ,という値であると共に,恒温動物としてもまああり得ない範囲ではない.
しかし,過去に行われた,「成長速度から見積もった代謝量と,体格から見積もった放熱量から推定される体温」よりは両恐竜ともに数度低く,著者らは「(active,passiveは別として)何らかの冷却機構があったと考えられるのではないか?」と述べている.実際,竜脚類の長い首は放熱のためだったのではないか?という説もあるらしい.

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