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日本語Kindleストア開始に備え、電子書籍ビジネスの基本を総まとめ

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8月27日に出荷が開始された第三世代Kindleは、ついに日本語対応になった。
レビューが書かれたブログも登場しはじめ、いよいよKindleによる電子書籍の本格上陸の期待感が高まっている。

【Kindle】日本語表示対応・新型Kindle 3 3G+WiFiモデル到着、ファーストインプレ | をぢの日記

3G回線は米国Amazonで一括契約しており、ウェブサイトの閲覧をしても月額無料なのがうれしい。

で、ここまでくると、残すところは「Kindle日本語ストア」がいつ開店するかが焦点となる。その日が事実上、電子書籍の本格的な日本上陸となるからだ。まだAmazonから正式なアナウンスはないが、電子書籍の企画や代理販売を行っているイーパブス・ドット・ジェーピー出版のサイト(特に原稿募集のお知らせ)に、かなり踏み込んだ情報がいろいろ記載されており、一部で話題になっている。

  • Kindle日本語は11月にオープンする。
  • iBookStore日本語ストアは現時点で未定
  • 日本語印税は35%タイプのみ。(米国では70%タイプがある)

かなり、おおっ、という情報で驚きだ。

ちなみに米国の電子書籍事情をかなり生々しく報じている書籍「ルポ 電子書籍大国アメリカ」(大原ケイ氏) が9月9日は発売され、こちらも一部で話題になりはじめている。



著者である大原ケイ氏はニューヨーク在住の文芸エーシジェント。電子書籍の現在をかなりクールにとらえており、日本の電子書籍事情を占う上でも大変参考になる一冊だ。

では、この中から、実際に電子書籍に関するビジネスや、腕に自信のあるフリーライターの皆様のために、おさえておくべき情報をいくつかピックアップして紹介したい。
 
 
■ 一般的な書籍の売り上げ分配について

日本では著者は複数の出版社と契約しているのが通常、米国では著者に出版社が専属でつくことが一般的で、電子書籍が現実になるかなり前から契約内に印税率25%としているケースが多いとのこと。ここから類推すると、書籍の売上分配は次のようになるようだ。

  1. 米国、通常書籍の場合
    • 著者とエージェント 10%
    • 出版社(編集、印刷製本、販促) 50%
    • 取次業(書店への卸業) 10%
    • 書店 30%
  2. 米国、電子書籍(手数料30%ケース)の場合
    • 著者とエージェント 25%
    • 出版社(編集、販促) 45%
    • KindleないしiBookStore 30%
  3. 米国、電子書籍(手数料65%ケース)の場合
    • 著者とエージェント 25%
    • 出版社(編集、販促) 10%
    • Kindle 65%

ちなみに著者のところにあるエージェントだが、これも日本の風習とは異なり、米国では一般的のようだ。メジャーリーグと同様に、著者サイドにたって出版社と交渉するプロフェッショナルで、玉石混合の中から有望な新人作家を見いだす役目も担っているそうだ。そして著者の印税に対してエージェントの取り分は通常15%、印税が10%だと1.5%ということになる。

また現在、米国の主流となっている手数料30%ケース(上記2のケース)で、エージェントと出版社の激しい攻防が続いているようだ。エージェントの主張は、ハリウッドムービーなどと同じように、実収入の半分、つまり35%を著者サイドにわたせというもの。その場合、著者およびエージェントが35%、出版社が35%となるはずだ。

もちろん、新規書き下ろしや既存出版物が絶版になっている作品で電子書籍のみとする場合、出版社との契約内容にもよるが、「出版社の収入」になっている部分をすべて著者のものとすることも可能だ。電子書籍の場合、特別な手続きや技術など不要で、自ら簡単に書籍化できてしまうからだ。

個人が印税35%の電子書籍を出版できる時代 - Amazon Kindleの衝撃 (12/30) 

つまりエージェントと出版社も不要。すべて自ら行う場合には、印税は35%ないし70%のすべてを手にすることができる。ただし、イーパブス・ドット・ジェーピー出版の情報が正しければ、残念ながら日本では、当面Amazonのみで35%に限定されそうだ。

参考まで、前述のイーパブス・ドット・ジェーピー出版では、次のような配分を明示している。

  • Kindle電子書籍の場合
    • 著者とエージェント 20%
    • 出版社(編集、販促) 15%
    • Kindle 65%

 
■ どんな電子書籍が売れているか?

全書籍売上に対する電子書籍売上(米国の数字だろう)は2009年で8%とのことで、まだ多くの読者は紙メディアを選んでいるようだ。理由は電子書籍向きハードウェア(KindleやiPad)の普及がはじまったばかりだからだ。

ただし全書籍で均等に売れているわけではない。売れ筋としてあげられているのは多読する読者が多いことで知られるハーレクインロマンス系(こちらは女性)とSF系(こちらは男性)だそうだ。ロマンス系は無料お試しから有料に切り替える、いわゆるフリーミアムモデルも効果的とのことだ。
 
 
■ 価格の設定について

一般的に、ノンフィクションは15ドル程度、売れ筋ペーパーバックは12ドル程度と、紙の書籍と大きくはかわらない価格設定が多いようだ。ただし刊行後数年がたっている書籍は数ドル安くするものが多い。

ここでAppleは書籍の価格を完全に供給サイドが決定できる「エージェンシーモデル」をとっているのに対して、Amazonは特定売れ筋を赤字覚悟のロープライス(9.99ドル等)で販売することができる「ホールセラーモデル」をとっている。このAmazonモデルは紙書籍の売れ行きや価格にまで影響を及ぼす可能性があるため、著者/出版サイドは抵抗感が大きく、一部出版会社の販売停止など、問題も発生しているようだ。

余談だが、電子書籍が非常にすぐれている点は、1部から発行できる点。紙書籍だと発売されてしばらくたつと「在庫なし重版予定なし」という宙ぶらりん状態が続き、読者が待てども待てども読めないということがままおこるが、この状態が解消され、1冊単位で著者サイドにも収入が入ることは大きなメリットと言えるだろう。


■ 電子書籍、成功の条件とは?


出版社を頼らず、無名ながら自ら電子書籍を販売し成功した例として、Wall Street Journal が取り上げた主婦の事例がのっている。10年も書きためては出版社に断られていた原稿をKindle向けに出したところ、1年間で3.6万部(ただし販売価格は2ドル弱のようだ)も売れ、ハリウッド・プロデューサーと映画化オプションの話がすすんでいるケースだ。そもそも「ハリーポッター」は全く無名の新人K.ローリング氏の初作であり、当然そういう話はあるだろう。

ただし出版業界に長い著者は、この例を宝くじにあたるようなものとクールに評価している。業界でまことしやかに信じられている数字「何もマーケティングしない本が売れる部数は500冊」はあたらずといえども遠からずではというスタンスだ。

著者が考える、電子書籍で高印税を得られる条件とは、(1)既に本以外の領域でビジネスプラットフォームを持っているタイプ、(2)有名なビジネスリーダー、TVパーソナリティなど知名度があるタイプ だと述べている。

以上、電子書籍大国アメリカより、気になる点を抽出してみた。本書には非常に多くの生々しい事例が掲載されているので、興味のある方はぜひどうぞ。



あわせて、この分野を広く俯瞰するには、大ヒット作「電子書籍の衝撃」(佐々木俊尚氏)がおすすめです。

 

【追記】
当ブログ内に記載してある売上配分などは「ルポ 電子書籍大国アメリカ」内に書いてあるデータから筆者が独自に類推した数値も含まれております。また表現が足りないところもございますので、ぜひ原著でご確認いただくことをおすすめいたします。

 
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