はじめまして,森岡謙仁です。私は現在,CIOの裏方とか,家庭教師のような仕事をしています。日経ビジネス・スクールでは10年にわたり,500社以上の情報システム部門の方に,CIOの基本と実務の勘所をお話してきました。

 いままで精密機械の品質管理を振り出しに,ソフトウエア・ベンダーの開発担当を経て,設計からプロジェクト・マネージメントまで,200システム以上のプロジェクトにかかわってきました。すべて順調にいったわけではなく,目に余るトラブルになったものも3件あります。ただシステム開発プロジェクトの経験をお持ちの方であれば,200件以上の中で3件という数字を実現する難しさはわかっていただけると思います。

 この連載では,このような経験から得た,CIOに必要や知識やノウハウをお伝えしていきたいと考えています。

 ところで改めて,CIOって何でしょう?

CIOがいないと困る

 企業,病院や学校,自治体,公益団体,NPO(特定非営利組織)法人,今やいかなる組織の運営にもITは不可欠です。しかしITは複雑で,変化が速く,システム・トラブルは時に組織の存続を揺るがすほどの大問題になります。かといって,組織の長である社長や院長,学長,県知事自らITを使いこなすことなど不可能です。

 彼らを支えて,組織運営にITを使いこなす責任者がどうしても必要です。そのためIT先進国の米国でCIOが生まれました。日本語に訳すと「情報統括責任者」とか「最高情報責任者」という固い言葉になってしまいます。そのまま「シー・アイ・オー」と呼びましょう。この方が,スマートで聞いた感じもいいし,第一カッコイイですね。

CIOとは何をする人なのか

 CIOとは情報システム部門を統括するだけでなく,組織全体の情報戦略を推進する責任者です。企業組織で言えば,執行役員クラス。またその責任は社長に次いで重いといってよいでしょう。財務情報,個人情報,品質情報,営業機密などの情報に関する内部統制をITの面から実現する責任者であることが理想です。

 しかし現実に,これらの条件をすべて満たしている人は稀有です。また,短時間でこの役にふさわしい実力を整えることは,まず,不可能でしょう。

いろいろなCIOがいるが

 私が見るところ,「俺は,CIOに相応しいから任命されたんだ」という人に比べて,「どうして俺がCIOになったんだ,ITは,素人なのに」という人の方が,実は多いのが現実ではないかと思います。

 実際,いろいろアンケートなどを見ていても,CIOを設置している企業は,兼任を含めても3割以下です。多くは,情報システム部門長どまりで,役員の肩書きはありません,逆に,肩書きはあるがITに不案内の役員が,形式上統括しているという企業が大多数を占めています。

 中には,社長直轄の情報システム室や部門などもあり,この長の方が,役職を抜きに考えれば,CIOらしいと言えますね。また,格好だけCIOで実力がないのに,企業が有名だからということで,周りがちやほやするのは,日本のためによくありませんね。そう考えると,CIOを名実ともに設置するほど,CIOは育っていないというのが現実ではないのか,という意見が説得力を持ちますね。

CIOへの道とは

 そこでこの連載は,題名を「CIOへの道」とし,既にそのポジションについている人に向けては,奥深いCIOの役割とそれを担うに必要な知識,ノウハウ,勘所などを現実の話題と結び付けてお伝えしたいと思います。

 また,これからCIOを目指す人には,「CIOになるための自己啓発やキャリア形成の方向性」をご紹介したいと考えています。ベテランCIOでも候補者でも「ヒューマンスキル」や「人脈形成」などは,特に重要な課題と考えています。

 最低でも2週間ごとに更新する予定です。具体的には,以下のコーナーでこれらの情報を発信していきます。

コーナー1.ワンポイントレクチャー

 CIOに必要な知識,ノウハウ,勘所をコンパクトに解説します。例えばSOX法とCIOの役割,エクセレンス・ビジネスモデル,情報戦略の本質,CIOのヒューマン・スキルなどです。

コーナー2.チョット言わせて!

 最新の話題や現場で起こっていることに対して「本当ににそうなのか?」と疑問に感じたことや,「困った」と感じたこと。「このまま放っておくと,CIOはダメになる」,あるいは「企業や組織がダメになる」と感じた出来事を書いてみたいと考えています。

 例えば「初めから分かる失敗プロジェクト」や,「こんなITマネージメントが企業をダメにする」といった話題です。

 毎回コーナー1と2のどちらかを掲載します。

コーナー3.川柳で学ぶCIOの知恵100選

 毎回,教訓,セオリーを川柳(俳句調)にまとめて,「CIOへの道」に役立つ“転ばぬ先の杖”を提供したいと考えています。川柳としたのですが,中には,川柳ともつかないものがあることは,お許し願います。

 さっそく第一句。

 毎回,句の意味は宿題として,次回に解説することにします。読者も各自,考えてみてください。