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深尾光洋の金融経済を読み解く

2009年12月28日 長期デフレ下の日本経済

 デフレは一般に「継続的な物価下落の状態」であると定義されている。菅直人副総理は2009年11月20日に、日本経済は緩やかなデフレ状態にあると宣言した。しかし実際には、日本経済は1995年以降15年近くデフレが続いていると見るべきだ。バブル崩壊後の95年以降を見ると、08年まで実質成長率はおおむねプラスを維持していたにもかかわらず、名目国内総生産(GDP)は500兆円前後で横ばいを続けてきた(図1)。




 これは、日本経済全体の物価であるGDPデフレーターが下落してきたからである。95年の超円高をきっかけにデフレーターは下落に転じ、97〜98年の金融危機で下落ペースは加速した(図2)。






 05年ごろからの景気回復で多少下落ペースは減速したが、08年前後の資源価格の乱高下による撹乱的な動きを除いてみれば、GDPデフレーターは今なお継続的に下落してきており、ピークから15%前後も低下したことがわかる。

 日本の金融財政政策の最大の問題点は、デフレに対する危機感が弱すぎたことである。日本経済はデフレが定着するリスクが高まっている。デフレが悪化すると企業は借金返済がどんどん難しくなる。物価が数%下落するだけでも、企業にとっては深刻な影響をもたらすので、デフレが景気をさらに冷やしてしまう可能性がある。このため10年度の経済についても二番底の可能性はあると考えられる。

金融財政政策の運営

 日本の長期的なデフレ傾向のために、日本銀行は95年以来短期市場金利を0.5%以下という超低水準に維持することを余儀なくされてきた。デフレでもインフレでもない物価の安定を目標とすべき日銀の役割から判断すれば、03年からの景気回復期に行われた日銀の量的緩和やゼロ金利の解除についても、本来は解除すべきではなかったと判断される。日銀の「中長期的な物価安定の理解」では、消費者物価上昇率で0〜2%程度を物価安定の目安としている。だが、デフレに対する「のりしろ」等を考えると目標値としては1〜2%、中間をとって1.5%程度が適当だと考えられ、日銀が示す物価安定の数値はやや低すぎると思われる。

 政府によるデフレ宣言を受けて行われた臨時決定会合で決まった10兆円規模の新型資金供給オペに関してはターム物市場金利の押し下げ効果は多少あるだろう。しかし市場金利の下落余地は乏しく、日本経済がデフレによる長期停滞に陥る可能性が高まる中で、金融政策は量的緩和の早期実施が望ましい。実際、09年10月末には、日銀の展望リポートで、11年度まで3年連続の物価マイナス見通しを示しており、もっと早い時点で量的緩和をすべきだったと判断される。

赤字を拡大しない財政刺激策

 しかし、デフレ克服のための政策としては日銀ができることには限りがある。仮に日銀が量的緩和策を行っても、デフレを劇的に改善することは不可能であろう。これは、金融政策のメインチャネルである金利引き下げがほとんどできないからである。

 そこで、財政面からも財政赤字を拡大しない形で税・財政政策を活用することが必要だ。具体的には、雇用に対する直接税の削減と間接税の増税が考えられる。例えば消費税率を毎年2%ずつ3回引き上げ、合計6%引き上げる一方で、国民年金や医療などの社会保険料を大幅に引き下げれば、景気刺激効果を持つ。社会保険料の負担減で企業が正社員を雇用しやすくなるほか、段階的に消費税率が引き上げられていけば物価の先高感が出てくるため、デフレ克服への糸口になりうる。

 また温暖化対策をうまく景気刺激に使うことも有効だろう。二酸化炭素の排出に対して環境税の課税を行うとともに、その税収を使って企業の省エネ投資促進、住宅の断熱対策や太陽光パネル設置への補助金強化などを実施することが考えられる。

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(日本経済研究センター理事長)

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