プロセスレコード

水商売をしていました。看護師になりました。

男性依存のサキちゃんは風俗嬢へと転身しました

意識高い系女子大生だったとき、やりたいことは沢山あるのにお金が無さすぎて手っ取り早く稼ぎたくてごくごく自然に水商売の道へと進んでいきまして、キャバクラ時代にサキちゃんという嬢がいました。

 

同じ席につくことが多かったので仲良くなるのは早かったのですが、

当時の私は共働きの親やそこそこ進学校な女子校から叩き込まれた「今の時代は女性も自立すべき!」という考え方を一言一句変えずに自分の価値観として採用していたので、

サキちゃんの、適当にキャバクラで働きながら養ってくれる男をはやく見つけて家庭に入ってしまいたいという言葉は全く理解できませんでした。

また私と一緒に遊んでいる時に彼氏に電話してお金を要求する態度も、その彼氏に殴られるようになっても泣きながらも離れられない依存ぶりも、その彼氏に振られて以降私との会話の3言目が常に「男の人紹介して♡」なしたたかさも私にとっては「ダメな女の象徴」として大人たちに髄液レベルで刷り込まれていた姿そのものだったので、

こんな考え方でどうやって生き延びていくつもりだろうと本気で心配になったし、正直「これだからキャバ嬢は」なんていう感じ方もしていたものです。そんな瞬間には私もキャバ嬢だという事実は都合の良いどこかへ置き去りになるのが通例でした。

 

普段は「男の人紹介して♡」というお願いは適当に流してしまうのですが、サキちゃんの「男の人紹介して♡」がピークに達していた時私にとっては彼女の面倒くささがピークに達していたため、つい

「自分でどうにか生きていこうとか考えないわけ?」

と彼女に訊いてしまいました。今でも後悔しています。

 

私の言葉を受け取った彼女が少し考えたうちに発した言葉は

 

「何言ってるのかよくわかんない。お母さんもこうだったから、他の生き方とか知らないし」

 

でした。

 

サキちゃんの言葉を聞いて私が驚いた理由はふたつ。

ひとつは、それまで私は、彼女は馬鹿だから自分の意志でだらしなく生きているものだと固く信じていたのに、そもそも彼女は他の生き方も選択できるのだということすら知らず、男性依存が彼女の意思なのかどうかすら不明だということ。

もうひとつは、そういった狭い思考回路が幸福か不幸かは置いておくとしても、「生き方を考える」という、程度の差はあれど誰でも持っている権利を剥奪されながら生きてきた彼女を、私自身が表面的な部分だけみて簡単に軽蔑していたこと。

 

サキちゃんと出会ってから教育格差や夜の女の子の社会的な状況に興味が湧き、荻上チキや鈴木大介なんかが書いているルポタージュ類を読むようになったのですが、目が眩むくらいに大量に「自己責任で切り捨てるにはあまりに複雑な人々」が書かれていて、自分の浅はかさに泣きそうな勢いでした。

 「知りたい」と思えばすぐに知ることのできる情報なのに、彼女達の置かれている状況は、サキちゃんに出会うまで精神的な部分でとてもとても遠くにありました。


私自身はそこまで他人に厳しい人間でも、自分にしか興味のない人間でも、精神的に追い詰められているわけでもないごくごく普通の女子大生で、そんな私が持っていたものだからこそ、当時考えていた「自己責任論」というものは、相当多くの人の共通認識なのではないかと思うのです。


この前ちょっと良い感じだった東京の本郷らへんにある某国立大学の大学生の男に「俺だって自分が恵まれてるのは分かってるけど、自分が努力したから今大学行ってるんだよ。極端だけど生活保護の人とかさ、自分のせいもちょっとはあるんじゃないのって思うよ。お金ないのにお酒ばっかり飲んでるじゃん」と言われた時に、彼の考えの浅さに呆れてしまったのですが、

そういえば私だってあの時のサキちゃんの言葉が無かったら今でもきっと男にお金に負け続けるキャバ嬢や風俗嬢を軽蔑していたと思うし、「一緒に働いてる子、男にしか興味無いの~」と医学部の女友達と共にキャッキャしていたと思うし、

「自己責任」という思い込みを排除するためには、よっぽどインパクトのある出来事が自分の身に降りかかってくるか、「自己責任」教から脱出できた誰かがゆっくりじっくり周りに刷り込んでいくかしなければ、ものすごく簡単に蔓延してしまうのだなと感じます(キャバ嬢・風俗嬢と生保は関係ないぞと突っ込みたい方はそれこそいろんな本読んでみてね)。

 

他人の立場になって物を考えろ、なんて小学生くらいから言われることだけど、「女性も自立しろ」だの、「水商売や風俗は汚い仕事」だの、誰が言い出したのか分からないような価値観を疑いもせずに採用してしまう私達はそもそも、自分の頭で物を考えることすらしていないのかもしれない。そのせいで1番割を食うのは誰なのか、「努力できる環境を持っていた」人達なんかは改めて考えてみるべきなのかもしれません。


ちなみにサキちゃんはその後店を辞め、「お客さんに営業メールするの面倒くさいから」と五反田のデリバリーヘルスで働くようになりました。稼いだお金の半分は新しい彼氏のために使っているとのことです。