尖閣ビデオ流出・もうひとつのナイスな意義

尖閣諸島沖での巡視船と中国漁船の衝突ビデオが youtube に投稿され大騒ぎになっています。

これに関してちきりんが「これは大きな意味があるよね」と思ったのは、下記の話。

まずは 11月 5日の朝日新聞夕刊社会面( 12面)に載った記事の抜粋をご覧ください。

「ユーチューブ」には、無料の会員登録をすれば、誰でも簡単に動画を投稿できる。


会員登録するには、(1) Eメールアドレス (2) 住んでいる国や地域名 (3) 生年月日 (4) 性別-の4項目を入力する必要があるが、免許書やクレジットカードを使った本人確認の手続きはなく、申告した生年月日や性別が本当かどうかも確認されない。


Eメールアドレスも、いまではインターネット上で個人情報なしで簡単に取得できる。


まるで「 youtube の使い方の説明書」みたいな記事でしょ。この文章の後にも、利用規約の内容やサーバーがアメリカにあること、警察や政府機関からの要請があった場合の対応、グーグルについてなど、 youtube の説明にかなりのスペースが割かれています。

もちろん日頃からネットで情報収集している人なら常識的に知っていることばかりです。なぜ新聞は、そんな説明を長々と書くのでしょう?


それは、新聞の購読者の中にはユーチューブなんて聞いたこともない(もちろん見たたこともない)人がたくさんいるからです。家で新聞を購読している人のうち半数以上がユーチューブを見た事がない、くらいの比率かもしれません。


と、「いまどき朝日新聞を購読している人」がどんな人かと想像してみると、この事件のインパクトがわかります。今回の事件で「世の中には youtube とかいうものがあるらしい」と初めて知った人が何十万人、もしかしたら百万人単位で増えた可能性があるのです。

朝日新聞だけではなく読売や毎日や産経など他の新聞も、今回の事件について相当のスペースを割いて報じています。

その中には必然的に「ユーチューブとはなにか」という説明が含まれます。各誌の購読者数はごまかしが多すぎて真偽不明ですが、それでも地方紙まで全部あわせれば日本全体で 2000万人くらいは、自宅に新聞を購読している高齢者がいるはずです。

その中で何人くらいが今回初めて「世の中にはゆーちゅーぶとかいうもんがあるらしい」と知ったのかなーと考えるとちょっとクラクラしちゃいます。

テレビも同じです。NHKのニュースはもちろんお昼のワイドショーまでがユーチューブの画面を写しながら、ハンドルネームとは何か、などと懇切丁寧に解説しています。


つまり、youtubeどころか「動画投稿サイト」という概念を知らなかった層に向け、新聞やテレビなどの既存メディアが、視聴者や購読者らに理解できる言葉で、大量の解説情報を届けてくれているのです。

これにより、将来グーグルTVを売る家電量販店の店員は、高齢者に「このYTと書いてあるボタンがユーチューブチャンネルのボタンです。尖閣諸島の衝突ビデオの件、覚えていらっしゃいますか? あれが見られるチャンネルが付いてるんですよ、このテレビ」という販促トークまで使えるようになりました。


これ、グーグルにとって、めちゃ美味しくない?


日本だけではありません。中国はユーチューブの閲覧を厳しく制限しています。一部の知識階層や都市在住の若年者以外では、その存在を知らない地方在住者も多いのです。でも今回のビデオ流出で、少なくとも彼らの一部は「そういうものがあるらしい」と知ることになったでしょう。

中国政府と確執を続けるグーグルにとって、youtubeに中国関連の価値ある映像が投稿される意義は斯くも重要です。映像が投稿されたメディアが中国のオリジナルサイトや他のSNSなどであったとしたら、それらの宣伝効果は莫大です。


じゃあ、もっとも損をしたのは?

わざわざ紙面の多くを割いて「世の中にはユーチューブと言うものがありまして、そこでは結構すごい映像が見られるんですよ。詳しく説明しますとユーチューブと言うのはですね・・」などと、グーグルの宣伝やネットメディアの使い方説明書みたいな文章を大量に報道させられている既存メディアこそ、今回の騒動の最大のルーザーじゃないの? とちきりんには思えます。

同じタイミングでテレビ取材を断り続ける小沢さんがニコニコ動画でインタビューを受けました。

テレビや新聞はその様子を報じるしかありません。でもこれも一歩進んで、「民主党本部の事務室に保管してあった“小沢さんの独占インタビューテープ”がニコニコ動画に流出!」という事件だったら、新聞やテレビは「ニコニコ動画とは・・・」という説明記事を書くはめに陥ったはず。


そういうことが意図的に仕掛けられるかどうかは別として、こういう遊びはなかなかおもしろいかも。ネットメディアが既存メディアに「無料で宣伝してもらう」ことが可能になるんですから。

また、ひと昔前ならこうした情報は新聞社や雑誌社にもちこまれていたでしょう。

人々が今、どのメディアを「最も影響のあるメディア」として見始めているのかについても明確に示された事件だったと思います。今回は新聞もテレビも「ネットではこんな情報が報道されています!」と“報道”する二次メディアになってしまっているのですから。



まとめると今回のビデオ流出で、
・一番得をしたのはグーグル先生
・一番損をしたのは、既存メディア
・そんなことは関係なくどうせアウトなのは、菅政権
・グーグルも日本もウザイぜ、と思っているのが中国政府


そんじゃーねー。