積水ハウスから63億円をだまし取った「地面師」の恐るべき手口

実行犯の「偽装証明書」を入手した

100億円にも達する物件が…

大手住宅メーカー「積水ハウス」が、8月2日、驚愕の発表を行った。70億円の土地取引において事件が発生、捜査当局に刑事告訴するという(支払い済みは63億円)。東京・五反田の一等地約600坪に発生した地面師事件である。以下に詳述しよう。

ここでは、添付コピーのように所有権者の知らない間に、本人確認用の印鑑登録証明証、パスポートなどが偽造され、それを利用した「成りすまし犯」が手付金を受け取っていた。

典型的な地面師事件だが、この種の犯罪の難しさは、なにがしかの報酬を受け取った成りすまし犯以外は、すべて「善意の第三者」を装うことができること。話を持ってきたブローカー、仲介業者、不動産業者、購入者(社)、間に入る司法書士や弁護士などが、「私も騙された」という。

そうなると、どこまでが地面師グループかわからない。確実なのは成りすまし犯だけ。この事件では、偽造印鑑登録証明書と偽造パスポートを持ち、取引の場に現れ、所有権者のSさん(73)に成りすました女が犯人である。過去にもこの種の事件に関係したことがあるということで、事情通の不動産関係者の間で「池袋のK」と呼ばれている。

実際に使用された偽装パスポート。名前はSさんだが、まったくの別人だ

事件は、どのように発生したのか。

JR五反田駅を下り、目黒川の方向に少し歩くと、鬱蒼とした樹木に囲まれた一帯がある。五反田大橋を超えて近づくと、それが旅館であることがわかる。外周は古びた薄茶色のモルタルで一部は崩壊。玄関には、「日本観光旅館連盟 冷暖房バス付旅館 海喜館」という看板が出されているが、もう何年も営業しておらず、その朽ちた印象から「怪奇館」と呼ばれることもある。

海喜館

山手線徒歩3分という絶好地に、約600坪が「一団の土地」としてまとまっており、不動産業界ではかねて注目の案件だった。所有権者はSさんである。不動産登記簿謄本によれば、昭和35年12月の相続。抵当関係を示す乙区には何も記載されておらず「まっさらな土地」で、権利関係が複雑でない分、「Sさんの承諾さえあればこの土地が手に入る」ということで、多くの業者が群がった。

しかし、「私は、売るつもりはありませんから!」と、Sさんはビシッと断り、板長と仲居を置き、営業を続けてきたという。体調不良を理由に、東京都環境衛生協会に「会員を辞めます」と連絡してきたのは、4~5年前のことである。

謄本が移動するのは、今年4月24日のこと。売買予約で千代田区永田町のIKUTAホールディングスに移り、同日、大阪市北区に本社を持つ積水ハウスに売買予約はさらに移っている。IKUTA社は窓口で、購入するのは積水ハウスということになる。坪単価は1000万円以上、「一団の土地」であることと、東京五輪を見越した都心一等地の値上がりで100億円にも達する物件の売買が成立目前だった。

 

ところが、売買は成立しなかった。2ヵ月後の6月24日、「相続」を原因に都内大田区の2人の男性が所有権を移転。Sさんが亡くなったということだろう。7月4日に登記している。2人の男性はSさんの実弟だとされるが、売買予約がついた土地の所有権が、なぜ移転できたのか。

「要は、トラブル案件であることを登記所が認めたということ。2人の男性の訴えを認めて相続登記したということは、売買予約で所有権移転の仮登記を打った2社の申請が、正規のものかどうかを確認するということでしょう。今後、訴訟になるのは避けられません」(不動産業界事情通)

となると、「売買予約」は無効。カネを支払った積水ハウスは、Sさんの成りすまし女とそのグループに騙されたことになる。

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