大日本帝国の遺構
- 作者: 西牟田靖
- 出版社/メーカー: 情報センター出版局
- 発売日: 2005/02/01
- メディア: 単行本
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当初歴史についてはそれほど深い知識を持ち合わせていなかったと思われる著者の西牟田氏が、現地で出会った古老や日本語を受け継ぐ人々と交流するうちに日本の近代史に興味を抱いていく姿がなかなかに面白い。彼の旅は特定の思想によるお仕着せではなく、純粋に知的好奇心から発したものなので、それぞれの地域で出会った人々の反応も非常に生々しく興味深い。読み進めていくと、極端に反日的なのは朝鮮半島と支那大陸内のみであって、その他のかつての「植民地」地域の人々は概ね親日的なことがわかる。とくに台湾には日本人としてのアイデンテティを有し、かつて「皇国臣民」であったことに堂々と誇りを持ち続ける人々が多い。同じ朝鮮人の子孫でもサハリンに残った朝鮮人は日本人に親近感を寄せ、日本語を話すことにも躊躇がない、というのも面白い
本題の日本時代の建物については、朝鮮半島ではほぼ徹底的に破壊されたものの、他の地域では使用目的を変えたり、増改築を施すなどして活用されているものも多い。中には北朝鮮の橋のように「共和国政府が造った」と主張しながら、実は日本時代のものをそのまま使用している、というものもある。この事実は歪な反日が自らの歴史をも偽り、国民を欺いていることを端的に教えてくれる。他方台湾の人々による地道な保存努力には日本人として深い感動をおぼえた
著者が撫順の万人抗やソウルの独立記念館などを訪ね、それらの展示にたじろぎ、罪の意識を抱いてしまうさまは少々ナイーブに過ぎるという印象を受ける。その裏にある政治的意図に関しては、疑問という形で糸口は掴んでいるのだが、深く読み取るには至らない。もちろん旅の目的自体が日本の遺構を訪ねることにあるので、とくに問題はないのだがやや残念なところだ
この本の目的からは逸脱するが、旅の途中での各々の出会いを俯瞰しただけでも、戦後の反日が主に政治的目的で「作られた」ものであることが、おぼろげながら見えてくる。同時に朝鮮や支那での反日運動、抗日関連展示などがいかに異常なものかもわかる。「大日本帝国」に対する受け止め方は地域によってさまざまだが、その言語、文化、生活インフラなどの構築の成果は今でも各地で生きている。このことはどうやら確かなようだ