「SSD」について思うこと萩原栄幸が斬る! IT時事刻々

最近のPCの記録装置ではSSDが大人気だ。そのSSDにはいろいろと興味深い“ウワサ”がささやかれている。あの時代を知っているからこそ、事実を伝えたい。

» 2011年07月16日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

本コラムは、情報セキュリティの専門家・萩原栄幸氏がITとビジネスの世界で見落とされがちな、“目からウロコ”のポイントに鋭く切り込みます。


 最近、ノートPCにSSDが搭載されていることが多い。読者もご存じの通り、機械的な部品を搭載し、円盤を高速回転させて磁気に記録させているHDDに比べ、SSDは可動部がなく騒音は皆無である。故障もほとんどなく、衝撃にもHDDに比べ非常に強い。発熱が低く、何よりシーク動作がないので高速という長所ばかりだ。一番の欠点である「高額」の壁もだんだんと低くなり、最近ではさらに人気が高まっている。今回はこのSSDにおける最近の雑感というか、「事実」について述べたい。

1.「SSDの価格変動は激しい?」――ホントです。

 毎週HDDやSSDの最新価格情報を掲載している「AKIBA PC Hotline!」をみると、SSDの価格情報が初めて掲載されたのが2008年3月1日である。一般的な「パソコン人間」がSDDを認知するようになったのは、このころだと思っても差し支えないだろう。

 つまり、SSDはまだ認知されてから3年程度しか経っていないのだが、その価格は驚くほどに下がっている。2008年3月ごろの2.5型 32GバイトのSSDの価格は、メーカーによってばらつきがあるが、10万円以上していた。それがたった1年後にはあまり市場に出回らなくなり、新品でも7000円台となったのだ。2011年7月10日号(調査日7月7日)では2.5型のIntel製600Gバイトモデルで9万円となっている。最近ではメーカーの価格差が大きくなっているのも1つの特徴である。3年半ほどの間に容量は20倍弱となったが、価格は逆に下がっている。

 なおHDDでは標準サイズの3.5型 1テラバイトモデルでみると、2008年3月1日には約3万円程度だが、2011年7月10日の情報では5000円弱である。最高容量の3テラバイトモデルが1万2000円程度なので、その価格差がSSDの方から急接近していることが分かるだろう。

2.「SSDはHDDに比べ容量が小さい?」――ウソです。

 というより、HDD(2.5型)の最大容量よりも、大容量のSSD(2.5型HDDの換装タイプ)の容量が大きかったという事実が一時期あった。われわれの“常識”が崩れて、「へえ〜、そうなるか!」と驚いた当時を思い出す。現状は、その容量についてはほぼ接近し、わずかにHDDの方が大きい(とはいっても、気になるほどではないが)程度である。しかし、少ない容量でもまだ販売の中心がSSDであり、その品ぞろえをショップなどでみると、いかにも「SSDは容量が少ない」と勘違いされてしまうのかもしれない。なお、7月10日情報は、

  • 2.5型HDDの最大容量 1テラバイト――7000円前後
  • 2.5型SDDの最大容量 600Gバイト――9万円程度

 価格が接近しているとはいえ、まだけたが違うので将来はより接近してくるだろう。市場にはまだ出回っていないが世間は気が早いもので、既に「価格.com」にはSOLIDATA製の960GバイトのSSDが掲載されている。金額表示こそ明示されてはいないが……。これで2.5型クラスのSSDでも最大1テラバイト容量がほぼ実現されることになる。たった3年半ほどで1テラバイトになるとは、「凄い」の一言に尽きる。

3.「SSDならデフラグは不要?」――ウソです。

 インターネット上に間違って記載されている情報で、特に多いのが「SSDはデフラグが不要」というものだ。もう結論は明らかなので、掲載した人は持論を撤回して変更すればいいと思うのだが、そのままにしているところが散見されるのはどうしてだろうか。

 SSDだからこそデフラグが必要である。SSDは製造時に書き換え回数の上限が決まっている。その数はあまり多いものではない。そこで、情報の格納場所を変更するというデフラグ処理はできるだけしない――という論理が一番多いようだ。

 しかしデフラグを行わないと、SSDでは急速にパフォーマンスが悪化する。これはSSDが書き込みをする場合に、周辺の磁気情報を含めた物理的な場所に対して一度データを退避させた後に消去を行い、該当箇所を含めて新たに情報を格納していくためである。そのため某社の固有SSDは、HDDに比べて数倍もの時間がかかるという事実が出てきた。

 これらの理屈を考慮したデフラグを行うことで、SSDは新しく使い始めたころのパフォーマンスを取り戻す。一つ注意をしなければならないのが、OSに添付しているデフラグ機能では、その効果が現れないということである。これはSSDの特性を考慮していない昔ながらのHDDに適したデフラグ機能だからであり、今ではSSD専用デフラグとうたったさまざまなソフトが出回っている。SSDは、ぜひ専用ソフトでデフラグを行っていただきたい。

4.SSDの完全消去は困難?――ホントです。

 これは以前に論文で読んだ記憶があるのだが。簡単にいえば、HDDとは違ってSSDでのファイルの完全消去は困難であるということだ。理由については、Wikipediaの「データの完全消去」にもフラッシュメモリー(構造は違うが理論的には同じようなもの)の項目に次の記載がある。

OSまたはデバイスのウェアレベリング機能により、同一のファイル(またはブロック番号)を上書き処理しても、フラッシュメモリー上の同一のブロックに書き込まれる保証はない。この機能が働く場合、単一のファイルへの上書き処理は、古いブロックにデータ痕跡が残ったまま新しいブロックに上書きされることになり、データ消去の意味を成さない。


 また「Flash SSD」として、

Flash SSDの場合は、前述の状況に加えて、ブロックが書き換え寿命に達すると自動的に代替ブロック処理を行うので、ハードディスクの場合と同様な問題が生じる。完全消去のためには、BIOSやOSのAPIではなく、ATAインターフェイス経由でFlash SSDコントローラーと直接やり取りする必要がある。


 最後に、どちらでも「消去後の残留情報不存在の完全性は十分に研究されていない」としており、この見解は筆者の情報と完全に一致する。

 基本的には「SSD全体の使用前の暗号化が有効」と一部のインターネットにある情報の通りで、SSD全体の完全消去を行えないものの、情報が持ち出せないという意味では極めて有効な対応方法である。再利用しなくてもいいなら、やはり“物理破壊”が一番確かだろう。「もったいない」という点はごもっともなのだが……。

 SSDの思想は実は30年以上も前から存在し、近年になって実現しつつある。筆者は昭和60年代の初頭から当時の都市銀行などが競って開発した「第三次オンライン」時代にシステムエンジニアをしていた。そのシステムの中には高価ではあったのが、既に「シリコンディスク」とか「半導体ディスク」と呼ばれた大きな筺体が並んでいた。今のSSDの最大容量よりもけた違いに少なく、大きさは大型コピー機程度であり、1台1台にバッテリーが内蔵されていた。

 また、高価(確か1台2000万円ほどだったと記憶している)なこの構造であり、米IBMのメインフレームと超高速処理を目的に、この筺体の中に「MSDB(Main Storage Databases)」を構築したのであった。メインメモリが外付されているような感じだから、「極めて高速だ」とメーカーの社員が話していた。

 こういう時代を経験しているからこそ、今の動きはとても興味深い。PCが「化石」となり、スマホなどが台頭している状況だ。PCは10年後も生き延びるが、そのころも主役であり続けるかは微妙になった。そう思う今日このごろである。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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