最近になってボードゲームにハマり出したという友人から、面白いゲームがあるからやってみようと誘われた。
ほうほう、筆者もゲームに関しては一家言ありますよ。
やってやろうじゃないか。
ところでゲーム盤は? カードは? え、いらないの?

そのゲームの名は「たほいや」。
簡単にいえば、「耳慣れない単語に、それっぽい嘘の意味をつけてだまし合うゲーム」。
辞書から単語を選び、辞書にある本来の説明文と、参加者が考えた偽の説明文を混ぜて、そこから本来の説明文を当てる、というのが基本ルールだ。
人数分の紙とペン、そして国語辞書を用意すれば誰でも簡単に始められるゲームだという。(なお、収録語数の関係から「広辞苑」を使うことが多いが、ほかの国語辞書でも問題なく遊べる)

このゲーム、実はフジテレビ系列でテレビ放送されたこともある。
番組名はそのものズバリ『たほいや』。1993年の春から秋まで放送された、深夜枠のバラエティ番組だ。山田五郎氏や松尾貴史氏など、個性的な知識人たちがしのぎを削ったこの番組。昨年には「キング・オブ・たほいや」として名高い俳優、大高洋夫氏がツイッター上でたほいやについて言及し、番組の復活も噂された。

今後再燃するかもしれない、『たほいや』ブームに乗り遅れないためにも、ゲームの流れを押さえておこう。

1:プレイヤー全員が点数を10点持った状態でスタート。
まずはジャンケンなどで親を決める
  点数はチップなどを使って管理するとわかりやすい。人数は最低でも4人はほしい

2:親は広辞苑から、子のプレイヤーが誰も知らないような言葉を見つけて出題する

3:子は、紙に自分の名前と、嘘の答えを書き込む。親は紙に正解を書き込む
  正解の文章は、最後まで記述する必要はない

4:全員が書き終えたら、親は回答の紙を回収してシャッフル。それぞれに番号をつけて、書いてある答えを読み上げていく
(間違えて書かれた名前を読んだり、他のプレイヤーに用紙を見せたりしないように注意!)

5:すべての回答が読み上げられたら、子は一斉に、正解だと思った番号と、それに賭ける点数(1〜3点)を発表する
  このとき自分の回答を選んではいけない

6:全員の選択が発表されたら、親は順番に回答と、それを誰が書いたかを発表する

7:正解を当てた人は、親から賭けた点数分をもらう
  外した子は、親に1点を払う。また、賭けた点数は、自分が選んだ相手のものになる

8:順番に親を交代しながらゲームを進めていき、一周したところで一番多く点数を持っていたプレイヤーの勝利

たとえば「いのりのく」というお題(単語)を出されたとき、
親を含めて5人のプレイヤーから、こんな答えが出揃ったとしよう。

1:ユダヤ人の歴史家。

2:悪霊などを祈祷の力で追い払うこと。
3:女性から男性に贈る恋文。和歌。
4:すぐれた才能をもつ人。
5:イノシシの背に置く小さな鞍。猿まわしに用いる。


この中に、広辞苑に載っている実際の単語の意味はひとつだけ。子となったプレイヤーは、本当の答えを推理しないといけないのだ。
最初の数回は戸惑うかもしれないが、遊んでいるうちに、出題側の「クセ」が読めてくる。どうしても答えが思い浮かばないときに、「○○教の祭具」だとか、「××の哲学者」だとか、お決まりのパターンが出てくるのはありがちなケース。それを見越して出題をするのもテクニカルで楽しいが、そのためには広辞苑で「これは!」と思う単語を調べておかなければならない。

それにしても、広辞苑がこんなに楽しいゲームの道具になるなんて、思いもよらなかった。

もっとうまくなって、それっぽい嘘でだましたい! だまされたい!
それならもう、『たほいや』の専門家にその魅力、遊び方のコツを教えてもらうしかない!

というわけで、「たほいや」のルール考案者であり大阪商業大学アミューズメント産業研究所研究員、高橋浩徳さんにお話をうかがった。
高橋さんは古今東西のゲームについて研究する専門家。前述のフジテレビ「たほいや」では、監修者として番組に参加されている。

――はじめに、「たほいや」を遊び始めたきっかけを教えてください。
「1986年から東京で『ボードウォーク・コミュニティー』というゲームの会をやっていますが、87年にとある会員が海外で、このゲームの元となった辞書ゲーム『Dictionary』の本を買ってきたのがはじまりです」
「日本語でやるならとんでもない単語が載っている広辞苑を使おうという事で、実際にやってみたら、とても面白く、会の定番ゲームになりました」

――これから『たほいや』を遊んでみたいという方に向けて、何かアドバイスがあればお願いします。
「まずは親の場合。
同音異義語がある単語は避けましょう。それから、各自の解答を集めた後は、一度ゆっくり黙読することです。読めない字や複数の読み方が可能な字があれば書いた人に確認した方がトラブルを避けられます」
「子の場合は、知っている単語が出題されたら正直に申告しましょう。書くとき簡単な漢字でもルビを振ると読み誤りが防げます。『かっこ』や『かっことじ』なども読み方として入れると良いです。何よりコミュニケーションのゲームですので、勝ち負けより、ゲームそのものを楽しむことに重点を置くこと楽しむコツだと思います」

――ところで、どうしてゲーム名が「たほいや」に?
「当初は『広辞苑』とかいろいろな呼び方をしていましたが、あるとき私の出題した『たほいや』という単語がとてもウケて、それ以後このゲームのことは自然に『たほいや』と呼ばれるようになりました。ちなみに、『たほいや』とは静岡県でいう、イノシシを追うための小屋のことなんです」

複数人で対決するゲームでは、勝者と敗者が分かれるのが常だ。その点たほいやは、たとえ負けても面白さを味わうことができる稀有なゲームだろう。もちろん、知恵を振り絞って勝ったときの嬉しさは格別! さぁ、広辞苑を持って友達と遊びに行こう!

……とはいえ、分厚い広辞苑を持ち歩くのはさすがにハード。そんなニーズを知ってか知らずか(多分知らない)、iPhoneやAndroidスマートフォン向けに、広辞苑のアプリもリリースされている。たとえばiPadにインストールしておけば、見やすいうえに持ち運びもしやすいはず。普通のゲームをインストールするより、大勢で楽しめる分お得かも!?
(EL_NAMEKATA/プロップ・アイ)