非国民通信

ノーモア・コイズミ

自己犠牲の罠

2010-12-14 23:47:44 | ニュース

「市長給与半減」の公約 山形県新庄市長「反省してる」(朝日新聞)

 「マニフェストで『市長給与50%カットします』としたことは反省しています」。山形県新庄市の山尾順紀市長は6日の市議会本会議で、前回市長選のマニフェストに掲げ、実施した自身の給与カットについて、「反省」を口にした。

 渡部平八市議が一般質問で「市民から『市長も給料を半分にしたんだから、職員も市議も……』の声があり、企業へも影響を与えている」などと市長の考えをただした。

 山尾市長は「当時の市財政は(北海道)夕張の次に悪かった。『どうしたらいいか』の迷いの中で『50%カット』になった」と経緯を説明。そのうえで「私の給与が人(の給与)を動かしているとしたら、あってはならないこと。将来市長になる人を制約してしまう問題も抱えている」との認識を示したが、給与の見直しなど具体的な方策については言及しなかった。

 山尾市長は初当選した3年前の市長選で、市長給与の減額をマニフェストに明記。カット率は当初「30%」だったが、告示後「50%」に変え、当選後実施した。昨年の年間給与は594万円だった。

 かの安倍晋三が首相就任して真っ先にやったのが自らの給与返上だったわけですが、それから4年、安倍晋三に続けとばかりの動きが全国各地で絶えることがありません。こうした流れは各選挙区住民からも概ね好意的に評価されていると見え、さらなる支持拡大に向けて給与のカット率を30%から50%に引き上げた人もいることが伝えられています。結果としてめでたく当選と相成ったからには有権者から大いに歓迎されたものと推測されるのですけれど、自らの給与削減を自慢げにアピールする人も多い中で、例外的に反省の弁を口にした人が出てきたようです。

 何でも「『市長も給料を半分にしたんだから、職員も市議も……』の声があり、企業へも影響を与えている」と議会から指摘されたとのこと。往々にしてこの辺は既定路線でもあるはずですが、良くも悪くもこの市長は「覚悟」が足りなかったのかも知れません。昨今の流行りとしてはまずトップが自らの給与をカットし、しかる後に「上の人間も身を削っているのだから……」と「下」の人間が給与削減に抗いにくい状況を作っていくわけです。総理が/知事が/市長が財政再建のために犠牲を払っているのに、議員や職員が安穏としていられるのはおかしい――こうした世論を煽ることで有権者の支持を取り付けていくのが現代的な政治家というもの、議会から指摘されたような状況は、本当に有権者から支持されるタイプの政治家であればむしろ狙い通りであったと言えるでしょう。

 国民あるいは市民は、議員なり公務員なりの給与削減を求めています。だから首長なりが自らの給与を削って、「自分に続け」と議員や職員に迫ればどこでも喝采を浴びてきました。ただ山形の議会でも指摘されたように、そうした動きは「企業へも影響を与えている」、すなわち民間企業で働く人々の給与にも影響を与えることになるわけです。給与カットの動きが首長だけ、あるいは公務部門だけに止まるなんてことはそれこそ絵空事であって、結局は給与所得者全体へと削減の流れは波及するものですから。それを後になって「反省」というのも考えの足りない話ですが、しかし反省できる分だけ良心的と言わざるを得ないところに、この国の政治的貧困を感じざるを得ません。

 安倍晋三が首相の座を投げ出しても安倍晋三の真似を続ける政治家は後を絶たないように、政権交代がなった後でも「上」が身を削ってみせることで「下」の負担増をも正当化しようという流れは変わっていないわけです。国民、とりわけ低所得層や社会的弱者の負担が増えるような税制を含む法改正がしきりに論議されている中でも、そうした改正の是非が直接的に論議される代わりに「まず先に国会議員が身を削るべきだ」みたいな感情論ばかりが先立ってはいないでしょうか。国会議員の定数を削減するなり議員報酬を減らすなりして為政者自らが「痛み」を受け入れてこそ、国民も負担増に納得できるのだと言わんばかりの論調が世に溢れています(給与収入で暮らしているわけでもない資産家の議員にとっては痛くもかゆくもなかったりするのですが)。とどのつまり、「上」も犠牲を被るなら「下」の犠牲は許されると……

 現代日本の政治においては、むしろ無欲を装っている人間ほど危険なのかも知れません。往々にしてその手の政治家は、他人の欲望を抑えつけることに熱心ですから。自らの給与を削っては慎ましい生活に務め、国民にも同じことを求めるような政治家こそ、最も警戒すべき存在と言えます。それよりはまだ、どん欲で贅沢好きな人間の方が安心できるというものです。議員定数なり議員報酬がカットされて、国会議員も痛みを分かち合うのだからと低所得者層にまで負担増を求める政策が受け入れられてしまうくらいなら、むしろ国会議員がリッチな生活を送って、国民の負担増となる政策が総スカンを食らい続けた方が、まだしも健全と言えはしないでしょうかね。

 

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5 コメント

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戦時中の (介護員)
2010-12-15 00:32:09
お米よりうどんを!みたいに!
わざわざお偉方がうどんを昼ご飯に食べる映像見たことあります。うどん以上に旨い物たべてたんでしょうが!何も減らさなくても大事にして、金はカンパしたり、逃げないんだから、貰いに行きませんか?
Unknown (ノエルザブレイヴ)
2010-12-15 00:44:55
まあ、「自分は痛い目を見ているのに他の人は痛い目を見ていない」と思う人が多すぎるのではないでしょうか。お互いそう思いあうことで扱いの低下に歯止めがかからなくなっているのでは。
Unknown (不肖の弟子)
2010-12-15 23:11:51
「自分に厳しくて他人に優しい人」は望むべくもないことですが「自分に厳しいフリをして他人にしわ寄せを強いる人」が拡大再生産されていると言わざるを得ないですね。
「自分に課すことと、他人に求めるそれは全く別物でなければならない」と自戒の念を込めています。

エントリを拝読しました。
お財界様に対して「雇用促進のため」と称して法人税減税を約束しましたが「夏休みの宿題をすぐにやる」と言って8月31日になって慌てて取り組む小学生未満の人々に差し伸べる手はないのに、ということを想起しました。

Unknown (HANAKO)
2010-12-16 00:25:51
自己犠牲を好む社会は、困っている人間を助けない理由探しを好む社会でもある と思います。それでどんどん社会は弱体化していくのですがどうもそれに酔っているのかもしれません。
Unknown (TK)
2010-12-16 01:09:09
自分たちや公務員の人員・給与を率先して削るべきだと唱える政治家たちに新自由主義者が多数を占めるのも問題点の1つだと思います。
例えば、みんなの党や橋下率いる大阪維新の会や名古屋の河村ですとか。

彼らの政策で主要メディアや有権者が取り上げるのも、評価するのも議員と役所の職員の人員・給与削減がほとんどですし。
橋下や河村の行った人件費以外の歳出削減策に評価と批判のどちらもほとんどありません。

彼らの歳出削減策の影響で被害を被った人たちは少なからずいるはずですが、現在の社会不満の矛先はすべて役所の公務員に向かってるのをみると、彼らが批判されることはないでしょう。
小泉新自由主義改革の後で社会不満の矛先として叩かれてるのが、官僚・公務員たちです。

小泉や橋下・みんなの党などの新自由主義者たちはなぜか官界を異常に敵視する風潮にあります。
新自由主義者が貧困・格差などの社会不満を増大させてその不満の矛先が役所の公務員に向かい、そして彼らを敵視する同系路線の政治家たちを当選させる。そしてこれを繰り返す。
政治家・公務員の給与削減という目先のいいエサに釣られてこの負のループにハマるのが危険だと思います。
というか、既になってますかね。
小泉改革の弊害がこれほど表面化してる現在でも小泉と同系路線の政治家たちしか表に出てこないのはこの負のループに陥ってるからではないですか。

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