オバマはビンラディン容疑者の遺体の写真の開示を強制される可能性もある(元司法省高官)

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オバマはビンラディン容疑者の遺体の写真の開示を強制される可能性もある(元司法省高官)

オバマ大統領は「オサマ・ビンラディンの遺体の写真は公開しない」と決め、一部議員にだけ公開する方向ですが、大統領には公開しないという選択の余地すらないのでは...と、米司法省情報プライバシー局元チーフのダニエル・メトカーフ(Daniel Metcalfe)氏が編集部の取材で話してくれました。

大統領の決定が報じられるまでは、いずれ公開されるだろうとレオン・パンネッタCIA長官は言うし、ロバート・ゲイツ国防長官とヒラリー・クリントン国務長官は反対の立場と報じられるし、ホワイトハウスのジェイ・カーニー報道官は「微妙な問題がある」とコメントするなど政府内部でも意見は割れていましたよね。

ですが、政府の意見がどうあれ、FOIAに基づいて市民が情報開示請求したら、認められる可能性の方が高いとメトカーフ氏は言うんですね。

「誰かがFOIAに基づき写真の開示を請求し、政府の機密扱いが不正だった場合、政府は負けると思うね」

メトカーフ氏は情報自由法(FOIA)を総括するトップだった人で、米国政府を相手どって出されたFOIAおよびプライバシー法に基づく訴訟を500件以上も監督してきたベテラン。現在はアメリカン大学ワシントン法科大学院政府機密共同研究会事務局長を務めています。そう思う根拠とは? 詳しく見てみましょ~。

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FOIAでは政府機関(ホワイトハウスは除く)に非開示にする法的理由がない場合、文書・写真・動画・その他なんでも開示を迫ることができると定めているんですね。

オバマ大統領がビンラディンの写真を非公開にする上で妨げとなるのはふたつ

1)撮影したのはSEAL。CIAと国防省統合特殊作戦司令部(JSOC)の共同作戦で撮った写真と思われる...つまりFOIA適用範囲内の連邦政府機関が撮ったものだということ。

2)FOIAの定める非開示理由がこれと言ってないこと。

機密問題の訴訟を専門に扱う法律事務所National Security Counselors常務のKel McClanahan氏も、「ことこの遺体の写真に関して言うなら、開示を回避できる要素は特に思いつかないですね、機密扱いにでもしない限りは」と言います。政府はFOIAに基づく情報開示請求をプライバシーを理由に拒否するかもしれませんが、そうなると政府が法廷に出て、オサマ・ビンラディンの遺族のプライバシーのために戦わなきゃならないという、これまた妙な立場になってしまうんですね...。

従って一番あり得るのは、政府がこれを機密扱いにしちゃうこと。

なのですが問題は、非開示にしたくないものは何でもかんでも機密扱いにできるかというとそんなことはなく、やっぱりしかるべき理由が必要なんですね...で、これが結構大変で、メトカーフ氏もビンラディンの遺体の写真を機密扱いにできる理由なんてそう簡単に見つからないって言ってるんですよ。

「こんな風に写真1枚を機密指定にできる法的根拠は何ひとつ知らない」「『超機密任務で国防省やCIAのデジカメに収まった一連の写真を全部機密指定にする』ならわかるが、オサマ・ビンラディンの写真1枚を機密指定にできるような根拠は想像もつかないのだよ」(メトカーフ氏)

機密指定を司る大統領命令を見てみると、機密扱いにできるのは「それを公開すると国家の安全保障に特定可能・説明可能なダメージ」が与えられる場合とあります。それは「軍事プラン、外国政府、核兵器など取り扱い要注意な問題(リストあり)に関するもの」でなくてはならない、とも。オバマが写真を公開すると中東の怒りの油に火を注ぐと考えるなら、それで国家の安全が脅かされると主張することも可能ですよね。さらに大統領命令では「情報活動(隠密工作含む)」を機密指定にすることも認めているので、こ~れだけの超機密作戦なら大丈夫! そう思いますよね?

ところが問題は連邦法で定める隠密工作の定義...「海外の政治、経済、軍事情勢に影響を与えるため米国政府が行う活動で、米国政府の役割が明白になったり公に認知されることがないよう意図されたもの」[pdf]とあるんですよ...。オサマ・ビンラディン殺害で果たした米国の役割は明白なんてもんじゃないし、世界中に公に認知されており、ずっと一貫して認知を前提に動いてますから、ここで言うところの隠密工作ではないんですね。

FOIAで開示を拒否できるのは正当な手続きを踏んで機密指定された記録だけ。「機密指定になっていても指定の仕方が正当でないと、法廷で覆される可能性も高まる」とメトカーフ氏は言います。「FOIAの訴訟人が、いったん決まった機密指定の判断を覆すのはひと難儀だが、裁判所が見直す判例も過去にある。先月もD.C.地裁で米通商代表部相手の訴訟でそれが起こったばかりだ。こういう事例では裁判所の判断にかなり開きが出るが、それでも機密指定が拒否される可能性はとても高いと私は思うね」

一方のMcClanahan氏はそこまで確信はない様子で、FOIAで写真開示請求訴訟となれば裁判所が「疑わしきは罰せず」ということにしてオバマに味方する可能性が高いと言ってますよ。「機密は機密。機密指定の仕方が正当でなかったと判断された判例は数えるぐらいしか知らないですよ」

前回オバマが問題孕みの写真開示の問題に直面した際には、FOIAが強制力を発揮しました。2009年、米国自由人権協会(ACLU)がアブグレイブ刑務所の捕虜虐待を撮った写真数十枚と動画4本の開示をFOIAに基づき請求し、国防省が開示を拒んだ時の話です。あのとき米政府は「こんな写真が開示されたら中東で暴動・米兵への報復が起こる恐れもある」と主張したのですが、第2巡回区連邦控訴裁判所はこの主張を退け、国防省に開示を言い渡しました。最高裁の審議にかけられる前に国会が開示を禁止する特別法を通過させましたが。あれはアブグレイブ刑務所の写真だけに適用される法なので、オサマ容疑者の遺体まではカバーできないはず...。また今回の急襲には捜査の要素はなかったので、あのとき裁判所が却下した政府の主張をここでまた蒸し返して最高裁の判断を仰いでも、結果は見えてるんですね。

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FOIAを回避するひとつの抜け道は、メトカルフェ氏曰く、「オバマかホワイトハウスが画像唯一の所有者だということにする」ことです。

「ホワイトハウスには頭の切れる弁護士がついてることだし、こういう写真を機密指定にするとそれなりの真っ当な批判が出ることも既に考え済みではないかと思うよ。機密にする以外の非開示にする根拠を探す方が無難だろう。例えば『これはもう政府機関の手を離れた記録だ』とかね。この写真を『sui generis』なものとして扱う方がホワイトハウスも随分有利になるだろう。国防省かCIAの手中に過去あったとしても行政機関の手を離れ、ホワイトハウスの中に入ってしまえば、ホワイトハウスの中はFOIAの適用外。オバマの机の上に遺体の写真があって、コピーが他に1枚もなければ、国防省もFOIAの開示請求者に『我々が持っていたんだが、あいにく今は大統領の手元にある。せいぜいがんばってゲットしてくれ』と言える、というわけだ」

言われてみればカーニー報道官の記者会見の発言には、もうその方向で考えてるような節も...。記者が「その写真は見たんですか」と聞いたら回答を拒み、「写真の在り処も教えられない」って言ってますからね、聞かれもしないのに。「写真を誰が見たか、今どこにあるかは、教えられない」―。

でも問題は、デジタル画像は通った通りに跡が残っちゃうことなんですよね。パキスタンやアフガニスタンからバージニア州ラングレー(国防省)やワシントン D.C.にデジタル送信していたなら、政府のサーバーやデバイスにはいくらでもコピーが残ってます。国防省やCIAで足並み揃えてそういう画像の痕跡を全部残らず破壊するのは違法行為となる可能性も。そういう痕跡が残っていればそれも全部、FOIAで開示請求できるんですよ。

しかも遺体の写真だけじゃない。ホワイトハウスはビンラディンの水葬の映像があることも認めています。屋敷の写真、急襲後の写真も沢山あると思われますが、それも開示請求の対象になり得ます。開示請求者がその気になれば、ホワイトハウスで急襲中見ていたとかいうリアルタイムのビデオストリームのコピーを請求することも可能です。まあ、McClanahan氏によると軍のビデオは機密指定が比較的容易らしいですけどね。「今回のような作戦の映像は通常、機密指定になりますよね。見る人が見れば戦略・戦術が分析できてしまうので」(McClanahan氏)

もちろんFOIAを盾に誰かが写真を請求し裁判所に開示を強制されそうな雲行きになったら、オバマはまた国会の力を借りてビンラディンの写真だけ保護する特別法をこしらえればセーフです。ただしビンラディンの写真を見せろコラと騒いでる議員もいるのでアブグレイブ刑務所の時みたいな満場一致になるかどうかは...何とも言えないんですね。

[Photos via The White House/Flickr]

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John Cook(原文/satomi)