WBCトリプルタイトルマッチin神戸 観戦記


 『ザ・ファイター』の熱も冷めやらぬままに、やってきましたWBCのトリプルタイトルマッチ! 長谷川穂積西岡利晃粟生隆寛の三人が、それぞれに防衛戦を行うということで、東京が会場のはずが震災でまさかの神戸開催に変更。これは行かないわけにはいかんだろう、ということで、行ってきましたワールド記念ホール。TOUITSU(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20081225/1230135247)観に行った時以来だなあ。ダフ屋さんがいっぱい来てましたが、チケットを持ってる人はいなさそうで、みんな「余り券ない?」という感じ。こりゃあ今日は満員かな。


 『Krush』に行くはずだったのが、震災で延期で行けなくなったので、その予算一万円をこのボクシングに投入。二階席の中段あたりをゲット。わりと見やすい会場だし、なかなかいいね。
 さて、本日は格闘技観戦の大先輩であるMr.Y氏が、わざわざ東京から来ているので、ご挨拶。マイミクでもあり、そっちではもう二年半ぐらいの付き合いなので、初対面だがあまり初めて会ったような気がしない……顔も写真で見てるしな。ところで氏は長年の観戦マニアであるだけあって、自らの観戦に対する「嗅覚」についてかつて日記で語っていた。つまり、「観なくてはならない、歴史に残るような大会」には「自分はちゃんと居合わせている」。なぜそうなるかというと、それはその長年観ているが故の、マニアとしての嗅覚が働くからだ、と……。うーむ、額面通りに受け取るなら、わざわざ東京から神戸に来た今回も、とんでもないことが起きるということになるが……。


 16時50分に開始し、前座の四回戦。1ラウンドは赤コーナーの選手が優勢だったのだが、2ラウンド開始早々、青の選手のけれん味のない右ストレートをまともに浴びてKO! おおおおお、すげえ。
 続いてもメキシコ人選手が、タイ人を滅多打ちにしてKO勝利! このタイ人、かなり打たれてるけど頑張るな、タフだな、と思ったが、それはなんとなくK-1の感覚で観ていたからで、よく考えたらまだ2ラウンド目だった。こりゃお仕事だな。


 粟生戦の前後ぐらいで、二階席上段以外はほぼいっぱいに! さすがの入りですな。ボクシングファンはやや柄が悪いが、やっぱり好きで来てる感じだなあ。外国人選手にもきっちり拍手するし、一発ごとに盛り上がる。


粟生VSグチェレス

 パンフに採点表がついてたので、自分で採点しながら見てましたよ。3Rまで全部、粟生につけている。左右のボディが面白いように当たり、グチェレスは返しも空振りが目立つ。こりゃあ大したこたあないのかな……。
 果たして4ラウンド、カウンターの右ボディが鳩尾にどんぴしゃ! 悶絶! おおおおお、『ザ・ファイター』ばりのボディでのKOだぜ!
 粟生って、確かテレビで一回ぐらい見たことあるだけだが、今日は良かったですなあ。相手の計量失敗を皮肉ってましたが、まあそういう相手もいるわね。次にまた真価を見せて欲しい。


 時間調整で入った次の試合も、またKO! 四回戦なのにこの大会場、満員の観客。役得ですな。しかしこの日は……時間調整が長い! K-1とかのさくさく進む(後々放送時に詰め込むためにガンガン試合をやってる)のに比べると、進行が遅すぎ! まあKO続きで時間が余ったのもわからないでもないが……。


西岡VSムニョス

 サウスポーの西岡が、伸びる左ボディを当ててリードを保ち続ける。タイミングが抜群で、当たる度に会場から声が漏れる。しかし相手もこれはいい選手じゃないか? うまくかわされ有効打を取られながらも、執拗に食い下がる。2ラウンドにはフックを当て込んで西岡をぐらつかせるシーンも。その後もじわじわ削られてたが、時折相打ちに近いヒットを奪って粘った。当たると「まだいける!」と思えるもんだが、それにしても気持ちの強い選手だったな。
 しかし流れとしては、たまにひやりとする場面はあったものの西岡ペース。アッパー三連打でぐらつかせたシーンは圧巻。かならず見せ場を作って会場を沸かせて来るし、すごいね。オレより年上だから、ボクサーとしてはすごい歳なんですけど……。
 8ラウンド終わって、2Rと7Rはややムニョス、8Rも厳し目に見たら取られたかも? と採点。隣のメガネの兄ちゃんが同じく採点してたのでチラ見したら、全ラウンド西岡が取っていた……。いや、さすがにそれはひいき目が強いっしょ!
 しかし9R終盤! 出た〜! モンスターレフト! ついに力尽き、コーナーへ崩れ落ちるムニョス! すげえええ! 
 場内も大盛り上がり! 会場が大爆発し、西岡が敗れたムニョスの健闘を称え共に手を挙げるシーンにも、暖かい拍手が送られる。さすがですな、これこそチャンピオン。本当に会場は盛り上がっていた。そう、この日最高の盛り上がりだった……。


長谷川VSゴンサレス

 またねえ、放送の時間調整で間が空き過ぎたねえ。放送では、ちょうどこの時間に粟生の試合をやってたんですな。とにかくこの日の日テレの段取りは悪かった! もっとさくさくやってくれよ〜。実はUFCなんかも、こういううだうだモードが結構あるらしく、やたらとがっちり詰め込まれてパッケージングされたK-1やらPRIDEやらの方が珍しいのかもしれないが……。メインのみ国歌演奏があったのだが、それも「ご起立下さい」つってから延々と始まらない! もういいや、座っとこう。オレ、サヨクだし……(都合いい時だけ左翼になるw 黙祷は立ちましたよ)


 右隣の二人連れは、ボクシングに詳しい方とそうでもない方という組み合わせで、粟生と西岡はそうでもない方の人が割と騒いでたのだが、長谷川戦を前に詳しい方が「やばい、ドキドキしてきた」「まともに見られへん」と急に興奮し出した。このコントラストが面白い。さっきまで騒いでた方に「もう帰る?」と、からかわれたりして……。


 いよいよ試合開始……ほんとにゴンサレスって身長2センチしか変わらないの? もっと上に見えるが……。そしてそれ以上にリーチ差は歴然……! これは入れないんじゃないの? 早くも1Rから左フックを当てられ、グラリと……。
 また採点しながら見てたが、このラウンドはゴンサレスにつけざるを得ないよね。また左隣をチラ見すると……ゴンサレスにつけてる! さすがに! 
 2R〜3R、距離の差に苦しみながらも、じょじょに長谷川のディフェンスが冴えて来る。逆に入ってのヒットも奪うように。中間距離の交錯が危ないが……。しかし、つけるなら長谷川でもいいかと思ったこの辺りだが、たびたび遠めの距離から当ててたボディは正直深い当たりではなかったのか……。


 そして4R。セコンドのこの日の指示で良く聴こえたのは「あたま、あたま!」と言う声と「グローブ合わせんでいいから! 集中!」というものだった。前者はディフェンスの指示だろうが、後者はローブローやバッティングになりかけた時に、仕切り直しでゴンサレスとグローブを合わせる行為に対してのものだった。果たして、このラウンドも開始早々、ボディが低く入り、グローブを合わせて仕切り直す。直後だった。
 その瞬間、「ボスン!」という鈍い衝撃が走ったように感じられた。目の前で、長谷川がロープまで吹っ飛んで尻餅を突く。しんと静まり返る会場。スリップ? いや、右フックが当たったのが見えた。ダウンだ。でも尻餅だ。ダメージはどうか? 背中つけたわけじゃないし、まだいけるだろう? だが、相手に背を向けてロープにしがみついて立ち上がる長谷川を見た時、「ああ、これはダメだ」と思った。カウント8、レフェリーが状態を確認しようとしたその時、ファイティングポーズを取りながらも、まさに二、三歩たたらを踏む……。
 レフェリーは手を上げた。試合終了だ。まさにワンパンKO。僕は大きく拍手した。周囲は静まり返っていた。「え? なんで?」「なんで止めるの?」……そんな声が聞こえる。いやいやいやいや、ムリムリムリムリ! あれは止めるわ。


 長い時間調整の間に、ガッツ石松の昔の試合の映像が流れた。「幻の右」でダウンを奪うガッツさん。相手は何度もダウンしているのに、何度でも再開される。タオルまで入ってるのにまだ続けてるよ……と思ったら、観客の投げ込んだものだった。そんな映像を見ていたので、止めるのが早いように感じられたのだろうか?


 前の客が「なんやねん……こんなん全然おもんないわ……」と呟く。ゴンサレスの戴冠がコールされる中、何割かの客が席を立ち、家路につき始めた。きっと、彼らも見たかったものが見られなかったのだろう。右隣の、入れ込んでいた詳しい方の人がポツリと言った。「薄情やな……」


 リングを去る長谷川に「また戻って来い!」と声が飛ぶ。しばらく立てなかった。立ちたくなかった。結果はどうあれ、この余韻にもう少し浸っていたかった。ゴンサレスにベルトが手渡される。残った観客からは、惜しみない拍手が送られた。僕、左隣の採点マン、右隣の二人連れも拍手した。今夜は彼のもの、初めてWBCのベルトを取った新王者ジョニー・ゴンサレスのものだ……。


 いや〜、やってしまったな長谷川……。これはもう引退かな……一階級下げて禁断の西岡戦とか、バンタムに戻して亀田とかとやるぐらいなら、もうやめてしまうかもな……。帰りの電車でも、Y氏とそんなことをあれこれ喋る。全試合KO決着と言う、まさに神興行だったのだけど、最後の最後で……。いや、これで長谷川が引退するなら、そうした節目の試合に立ち会えたことは、まさに観戦マニアの嗅覚なのかもしれん。
 素晴らしい大会でしたが、どこか物悲しい思いも残る、そんな夜でした。


 さあ、でも次はストライクフォースが控えている! 気持ちを切り替えて応援しよう。


Mr.Y氏
「この長谷川の仇はきっと、メレンデスが川尻をボコボコにして取ってくれますよ!」


 ……あれ?と思った貴方! 別に書き間違いじゃありませんから(笑)。単に川尻が嫌いなだけで。さあ10日の放送では、オレも王者メレンデスの防衛を全力で応援するぜ!

意志道拓

意志道拓

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