水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

BBC「QI」の出演者たちは実際に何を言っているのか? これが「被爆を嘲笑」?

2011-01-22 19:50:26 | BBCの「QI」問題
さて、昨年12月に放送されたBBC「QI」で、日本の二重被爆者をとりあげてクイズにしたやりとりから、彼らの会話を聞き取り・訳出してみました。できれば映像と合わせて見てみて下さい(24日追記 ←で貼ったリンク、今日になって映像が削除。BBCサイトでは見られますが、これもいつまでかは不明)。

まずそもそもの話ですが、この番組は司会者のスティーブン・フライが、「こういう人がいるんですが、こういうことがあるんですが、何だと思いますか? どう思います?」とお題を振って、回答者たちがみんなで考えて答えをあてて、そして感想を言い合うというものです。そして出演者はみんなコメディアンです。繰り返しますが、これはコメディ番組なんです。

司会のStephen Fryのほか、回答者にAlan Davies(髪の毛くるくる)、Bill Bailey(髪の毛落ち武者状態)、Rob Brydon(アゴが長い)、Rich Hall(渋いアメリカ人)。

(番組全体の一部とは言え、BBCがクリップとしてネットに挙げた3分強の全部を聞き取り翻訳しているので、もしかすると引用の範囲を超えて著作権侵害にあたるかもしれません。ふだんならこんなことはせず部分引用にとどめるのですが、これについては全体を載せることに意味があるので、あえてこうしています。著作権についてはいま番組に問い合わせ中です)

[2月14日追記。番組の共同制作会社Quite Interesting Ltdより本日付で、番組内容の掲載許可をもらいましたので、このまま掲載を続けます]

SF: Now, what's so lucky about the unluckiest man in the world?
(世界で一番不幸な男の何が幸運なんだと思う?)
(回答者後ろに映し出されているコラージュ映像を指して) That's not him. That's an amusing assemblage of superstitions. (彼のことじゃない。それは色々な迷信を集めた妙なものだね)

RH: He got killed by a horseshoe.(馬の蹄鉄にあたって死んだとか? 訳注・アメリカでは馬の蹄鉄は幸運のお守り)

SF: Well, this man is either the unluckiest or the luckiest, depends on which way you look at it. (えーと、この人は見方によって、最も不運とも最も幸運とも言えるんだ)

AD: Something like he had most accidents or operations or more claims than anyone still alive. (世界の誰より事故にあったとか手術を受けたとか、それで保険の請求が誰よりもできて、とか?)

SF: Well, bear in mind we're after places and countries and things beginning with H. And if I say his name, this may help. His name is Tsutomu Yamaguchi. I say is, he actually died in January 2010, aged 93. He lived a long time, so he wasn't that unlucky. (そうだな、今ここでは「H」で始まる場所や国やモノを探しているんだと、忘れないで。この人の名前を言えば、ヒントになるかも。彼の名前は、ツトム・ヤマグチというんだ。実際には2010年1月に93歳で亡くなっているんだけど。ずいぶん長生きだったから、それほど不運だったとも言えないね)

BB: So where's the .. the H.... (じゃあ、どこが、そのHっていうのは……)

SF: 'Yamaguchi' would suggest he came from...? (「ヤマグチ」というからにはこの人はどこの国の人だと思う?)

BB: H... Holland. (えーと、オランダ? 訳注・見れば分かるように英語でオランダのつづりはHで始まる)

(みんな笑い)

SF: You can do better than that.(もっとマシな答えがあるだろう)

AD: I would have said Japan.(僕だったら日本って言うかな)

SF: Japan! Now think of a place in Japan that starts with H. (そう、日本! では、日本で「H」で始まる場所と言えば?)

AD: Hiroshima.

(誰かがフレーム外で「Hokkaido」と)。

SF: Hiroshima. Right. (広島。正解)

AD: A bomb landed on him and it bounced off. (爆弾がその人の上に落ちて、跳ねとんだとか)

(会場笑い)

SF: He was in Hiroshima on business when the bomb went off. He was badly burnt. (この人は原爆が爆発したときに商用で広島にいて、ひどい火傷を負ったんだ)

AD: He went to hospital in Nagasaki. (それで長崎で病院に行ったとか?)

(会場笑い)

SF: The next day, he got on a train, bizarrely, which shows you even though the bomb fell, the trains were working, so he got on a train to Nagasaki, and the bomb fell again. (次の日、彼は汽車に乗って、ということは驚いたことに、原爆が落ちた翌日なのに鉄道は動いていたわけだよ。なので彼は長崎へ汽車に乗って、そこでまた原爆が落ちたんだ)

(会場笑い。ビル・ベイリーはすごいな……とでも言うような表情で首を振っている。背景には、二つのキノコ雲の写真とその間に山口さんの大きな写真)

SF: He was celebrated, he was treated as sort of a hero, but only in his 90s he was officially recognized as the man who was bombed twice. He claims that there are over a hundred people he met who also had a similar experience, and he had a network of friends. He was a cheerful fellow. (彼は称えられ、ある種の英雄のように扱われて、でも二度被爆した人としてようやく正式に認定されたのは90代になってからだった。自分と同じような経験をした100人以上もの人に会っていると言い、たくさんの友人がいたんだそうだ。とても陽気な人だったんだよ)

BB: (後ろの写真を指して) He doesn't look so cheerful there. (そこではあんまり楽しそうじゃないな)

SF: No, wedged between two mushroom clouds. (そうだね、二つのキノコ雲に挟まれていてね)

BB: What are the chances....(いったいどういう確率で……)

SF: Yes, it's really astonishing. So he's either the luckiest for he survived or the unluckiest because.... (そう、本当にすごいことで。だから彼は生き残ったから最も幸運と言えるか、あるいは最も不運と言えるか……)

BB: Well, he lived to 93, so his life was not ... you know, curtailed. (でも93歳まで生きたんだから、この人の人生は……そのつまり、短く断たれたわけじゃなくて)

SF: No, but the thing is.... (そう。でも、つまりね……)

RB: It's you know, is the glass half empty or half full? Either way, it's radio active. (要はあれだね、杯は半分空だというか半分入ってるというかで。でもどちらにしても、放射能を帯びてるわけだ)

(会場笑い)

RB:So don't drink it. (だから、飲んじゃダメだよ、と)

AD: He never got on a train again, I can tell you. (二度と電車には乗らなかっただろうね)

(会場笑い)

SF: But the astonishing thing to me is that you drop an atom bomb on Hiroshima and the train services are working the next day. I mean in our country....
(でも僕にとって何が驚いたって、広島に原爆を落としたのに次の日には鉄道がもう動いていたっていうのが。だってこの国だったら……)

AD: Keep calm and carry on.(落ち着いて普段通りに行動してください  訳注・これは第二次世界大戦当初に英国政府が導入しようとした戦時スローガン

(会場笑い)

SF: Yes.(そうそう)

BB: A couple of leaves, and that's it. (枯れ葉が何枚か落ちただけで、もう終わりだ。 訳注・イギリスでは英国鉄道が列車遅延の理由として、落葉や「the wrong kind of snow(雪の種類がダメ、違ってる)」と説明して国民に馬鹿にされるので。これに引っ掛けたジョークが以下続く。ちなみにこの「the wrong kind of snow」が何を差すのか教えてくれたのは、在日英国人ブロガーOur Man in Abikoさんです)

SF: Yes. For the rest of the winter. (そう、それだけで冬の間中もう)

(会場笑い)

BB: Ah, it's the wrong kind of bomb. It's the wrong kind of bomb.(爆弾の種類がダメなんですよ、爆弾の種類がダメなんです)

(みんな大笑い、以下ずっと笑いが続く)

SF: (駅アナウンスを真似して)It was clearly the right kind of bomb. It's fine everybody, don't worry, it's the right kind of bomb. (明らかに、爆弾の種類が合ってましたから。大丈夫ですよみなさん、心配しないで、爆弾の種類は合ってますから)

BB: (完全に駅アナウンスを真似して) Yes. The right kind of bomb has landed on the 4.30 from Potters Bar. Please proceed to the nuclear area.(そう。ポッターズバー駅より4時半到着の列車に、正しい種類の爆弾が落ちました。どうぞ被爆区域にお進みください。  訳注・駅名を聴き取ってくださったのは@nofrillsさんです。ありがとうございます! ひどい列車事故が起きたところだと教えていただきました)

AD: I suspect they weren't privately owned.(民営化されてなかったんだろうね)

BB: (アナウンスの真似続けて)The sandwiches have not been affected (サンドイッチに影響はありません。)

(みんな笑い)

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以上、こんな感じです。どうですか? 

自分の感想を言うと、回答者の「爆弾があたって跳ねた」とか、「杯が半分空か半分入ってるか、でもどっちも放射能を帯びてる云々」とか「もう電車には乗らなかっただろうな」とかのくだりが、私は「むむう」と思ったし、山口さんが広島で被爆して長崎まで鉄道で移動するというくだりをスティーブンが説明してるあたりで会場や回答者が笑ってるのが私は不快でしたが(でも彼らはおそらく、イギリスの鉄道と比べて日本はすごいねえ!と驚き笑いをしているわけで)、これが全体として「被爆体験を嘲笑」、「司会者に不適切発言」となるでしょうか?

「the right kind of bomb(正しい種類の爆弾)」という表現は確かに日本人としてドキッとしますが、どういう文脈で使われているのかを読み取れば、どうでしょう? 馬鹿にしているのは、イギリスの鉄道です。

ただ、そもそも被爆者の話題をこういう番組でこういう形で取り上げること自体が、日本人としては「うーむ」と思います。なので、日本人がBBCを怒るというか叱るというのは、当然というか必要なことだと思います。けれどもだからといってこれが、日本の新聞各紙が書いているような「二重被爆者を嘲笑」(時事通信)し、「被爆者を愚弄」(日経新聞)し、「二重被爆者を笑いのタネ」(共同通信読売新聞)にした、「被爆者を笑った放送」(朝日新聞)だったかどうか。そこを各自が判断していただきたいと思います。