グーグルがiPhoneを助けた理由

地図アプリが不評だったiPhoneに、グーグルが「Google Maps」アプリの提供を開始した。AndroidフォンがiPhoneと競合するはずのグーグルが、アップルに協力した理由を解説。

グーグルは、「iOS」向けに新ヴァージョンの「GoogleMaps」と「Gmail」をリリースしたことで、iPhoneが世界最高のスマートフォンになる手助けをした。問題が多い地図アプリが理由で最新iPhoneに乗り換えるのを控えていた人々もいるため、この動きはより多くのiPhone販売につながりそうだ。

「Android」OSと、スマートフォンを作るモトローラ部門を持つグーグルが、ライヴァルと見なされるアップルを助けたのはなぜだろうか。

その答えは、簡単にいえば広告だ。 グーグルでは広告ビジネスが実質的に収益源のすべてを占めている。同社にとってAndroidは、中心ビジネスにとっての付随物だ。携帯電話部門のモトローラも、現在は同様の「余興」のようなものだ。

グーグルにとっては、ユーザーがどのOSで広告を見たりサイトを使ったりするのかは大きな関心対象ではない。とにかく人を集められればいいからだ。グーグルがAndroidに資金を投入するのは、アップルやマイクロソフトといった会社が、スマートフォン市場からグーグルを排除できないようにするのが主な目的だ。

「グーグルのAndroidはオープンソースで、同社の利益になるわけではない。グーグルのサーヴィスが使われて初めて、同社にお金が入るのだ」 と語るのは、ウェブの新興企業Stack Overflow社のジョエル・スポルスキー最高経営責任者(CEO)だ。同氏は、テクノロジー企業が補助的製品の価格を下げる理由に関する小論を書き、広く引用されている。「Androidの目的は、スマートフォン市場に競争を生み出し、スマートフォンの価格を下げることだ。スマートフォンはグーグルによるウェブサーヴィスを補完するものだから」。

モバイル向けGoogle Mapsの責任者であるグーグルのダニエル・グラフは、OS競争を「行う理由はない」として、こうした見方に同意する。「グーグルはすべてのプラットフォームに存在したい。そして可能な限り最高の体験を提供したいと考えている」と同氏は語る。

アップルやグーグルばかりか、フェイスブックやツイッターなど幅広い企業が、ソフトウェアの投入や提供のあり方を慎重に管理している現在、グーグルの戦略を理解することは特に重要だ

Google Mapsは、広告を売る場所としては素晴らしいところだ。Mapsでは、利用者の現在地ばかりでなく、目的地や探している店の種類など、広告会社が切望するユーザーの「意向」のデータまで把握できる。iOS版のMapsには現在のところ広告はないが、Android版では広告が付いており、iOS版でも今後は付くかもしれない。

「Gmail」も同様に広告の強力な潜在的駆動力であり、ウェブ版には以前から、電子メールの内容に基づくターゲティング広告がある。

グーグルの広告への関心は、方向指示のナビでも見ることができる。グーグルは以前、アップル独自の地図アプリに提供していたデータから、トップ機能であるナビゲーションを除外したと伝えられている。アップルの地図アプリは、フロントエンドをアップルが押さえており、グーグルは単なるバックエンドのサプライヤーだったので、広告販売のチャンスがなかったのだ。これに対して、Google Mapsにはナビゲーションが追加されている。スタンドアロンの製品で、広告が可能だからだ。

自社の利益のために、ライヴァルのプラットフォームをサポートする企業はグーグルが初めてというわけではない。マイクロソフトが数十年間、アップルの「Mac」を強力に支援していたのは、マイクロソフトの中核事業はアプリケーションの販売であり、競合するOS「Windows」の販売ではなかったからだ。

「1990年代の初めには、Windows機が売れるよりも、Macが売れるほうがマイクロソフトの儲けが大きい時期があった」 と説明するのは、先述のスポルスキー氏だ。同氏は以前、マイクロソフトの製品マネージャーだった。「当時、Mac所有者はほぼ全員が『Word』と『Excel』を購入しており、実質的には競争がほとんどなかった。一方、Windowsだと『WordPerfect』と『Lotus 123』という選択肢があり、WordとExcelが購入される割合が低かったのだ」。

グーグルは地図や電子メールだけではなく、クラウドのすべてにおいてアップルを完全に負かしている。グーグルのソーシャルネットワーク、検索エンジン、そして高度に最適化されたデータセンターによって、グーグルのiOSアプリでの優位性は、今後数年間でいっそう強まる可能性がある。マップにさまざまな機能が統合されてさらに使いやすくなり、恒常的に利用されるアプリになるかもしれない、と指摘するのは、Felicis Ventures社のエイディン・センクットだ。同氏は以前、グーグル初の製品マネージャーだった。

「ラリー・ペイジCEOは非常に賢明な人物だ。彼は、すでに検索ボックスだけが問題ではないということを心得ている。彼はいま、文脈と位置、企業といったものを推進しようとしている。Google Mapsを武器にする方法は10通りもあるが、それが武器になるためにはiOSに存在しないといけないのだ

TEXT BY RYAN TATE AND MICHEAL COPELAND

TRANSLATION BY RYO OGATA, HIROKO GOHARA/GALILEO