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森友学園への不明瞭な国給付

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
国交省の補助金プロジェクト採択時の校舎の構想図

今回は、昨日の「森友学園の国有地取得の収支」の続編です。

有益費の計算根拠が不明

すでに、定期借地に関連して1億3000万円余の「有益費」が森友学園に「返還」されたことは述べました。この国から森友学園に支給された1億3000万円余の「有益費」の算定根拠自体が現状では不明瞭です。特に、8600万円余の地下埋設物撤去費用はどのような説明がつくのでしょうか。森友学園の代表者は、地下のごみの撤去費用を「1億円くらい」と述べる一方、財務省は「理事長は『撤去費の額は他の工事と一体になっているので分からない』と答えている」と述べています(朝日新聞2017年2月14日「学園「ごみ撤去1億円」 国は8億円見積り 国有地購入」)。理事長は「掘削中に廃材や靴、タイヤといった生活ごみが地下で見つかり、くいを打つ場所のごみは適切に処理したと説明。全てのごみは撤去していないが、子どもの体への影響はない」(同記事)とも述べており、財務省が理事長の発言として述べたように、基礎杭や基礎の打設に伴う建設残土の撤去費用(これは建物の建設費用でしょう)と一体不可分の可能性はないでしょうか。そもそも、森友学園が購入時には異議申立できない可能性が高いものを、なぜ、賃貸の段階だと「有益費」として「返還」して貰えるのでしょうか。「有益費」は国の基準で検証することになっています(「国有財産有償貸付合意書」第6条)。国は「検証」結果の詳細を公表し、その正当性を証明すべきでしょう。

また、「有益費」の額について合意した2016年3月30日の「合意書」は、国と森友学園の間のものなのに、甲(国・大阪財務局(=財務省))、乙(森友学園)に加えて丙(国・大阪航空局(=国交省))が登場する不思議なものになっています。国が右手と左手で森友学園と握手(合意)している、とでも例えられます。なにやら国交省-財務省間のせめぎ合いないし責任の押し付け合いのようなものを感じざるを得ません。

本物件代金の約8億2200万円の減額根拠の不可解さ

2月15日の衆議院財務金融委員会における宮本たけし議員(共産党)の質問からは、さらに不可解な事情が浮かび上がります。上記のように1億3000万円余の「有益費」の「返還」が「合意」された2016年3月30日(青い四角でマーク)をまたぐ前後1ヶ月ほどの間に、さらに、国が本物件の時価を査定した9億5600万円から8億2200万円の減額を行い、1億3400万円という廉価な土地代金が決定され、同年6月20日に森友学園に売却(代金は賃貸借の保証金をほぼ満額充当した頭金を除き10年分割)されたことです。

8億2200万円の減額の経緯
8億2200万円の減額の経緯

8億2200万円の内訳は約8億1900万円強の「地下埋設物撤去及び処理費用」と、撤去尾する際の事業の長期化による土地の価格の2%減額約200万円の合計です。

前者については、消費税分を除くと、撤去する土の47.1%が「埋設物」(ごみ)とされ、その処理費用(掘削、積み込み、運搬、埋め戻しは除く処理のみの費用)が1立方メートル当たり2万2500円と非常に高額です。この埋設物の処理費だけで4億3920万円。そして、共通仮設費、現場管理費、一般管理費で2億4400万円強を計上しています。これらだけで工事費用の85%にものぼります。

これだけ巨額のごみの撤去・処理費用が計上されているのに、国は実際に撤去がされたか確認していない、と答弁しています。これは建物基礎部分以外、撤去はしていないという森友学園の理事長の証言とも矛盾はありません。

はたして、これだけの量の埋設物(ごみ)が残留しているのかも不明であり、その算定根拠の妥当性は今後厳しくチェックされる必要があります。

木質化の補助金

本物件に建設中の建物は、国土交通省「平成27年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択され、6194万4000円の補助金支給が決定されています。国交省のホームページには採択時のものとして下記の構想図が公表されています。

画像

しかし、本物件上に建設中の建物は鉄骨造とされるところ、当初の「木質化」(建物の外装や内装の「木質化」をいうそうです)の概略図とは現状が少々異なるようにも思われます。下の写真は2017年2月15日時点での建物の現況です。

実際の校舎(2017.2.15段階)
実際の校舎(2017.2.15段階)

2017年2月15日の時点では、構想図の右側の建物について金属質の部材が軒下から基礎まで貫かれています。体育館の南側と東側の軒下の高窓も設置されていません。なぜか右側建物の北側(高速道路側)には高窓があるのですが、そこから見えた建物の天井は鉄骨がむき出しのよくある普通の学校の体育館のようでした。

また、写真の左側の建物も、出窓の部分が灰色の部材で作成されていますが、これは「木質化」に該当するのか、筆者の素人眼では確認できませんでした。

もちろん、まだ、工事は続行中なので、今後、これらがどうなるか気になるところです。単なる建築確認の問題ではなく、「木質化」の先導事例として補助金を得ている事業なだけに、完成後は、そもそものプロジェクト採択時点の提出書類と現存する建物の異同は問題になり得ると考えます。

政府は襟を正すべき

2月17日の福島議員の国会での追及に対して、安倍首相は「私や妻が関係しているということなれば、間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということは、はっきり申し上げておきたい。全く関係ない」(NHK2月17日「鑑定価格より低く売却の国有地 財務省は適正価格と説明」)と答弁したようです。

しかし、2012年に5億8000万円で取得申出のあった物件を、2016年に1億3400万円の廉価で売ったことは隠しようのない事実です。

また、森友学園の代表者が「安倍晋三記念小学校」の名称使用について安倍首相の内諾を得ていたと証言していること、実際に森友学園がその名義で寄附金を集めていたこと、そして安倍首相の妻(安倍昭恵氏)が「名誉校長」となっていることが判明しています。安倍首相が第二次政権就任前の自民党総裁選の時期に森友学園が経営する「塚本幼稚園」で講演する予定(のちに総裁選の日程でキャンセル)だったとの報道もされています。安倍首相や妻が、直接、廉価売却の指示をしていなければ問題なし、とする姿勢は、それ自体が問題のすり替えに映ります。問題ないというのなら、疑惑に対する追及に応えて情報を徹底的に開示して、国有財産が不当な廉価で処分された疑惑を払拭し、襟を正すべきでしょう。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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