ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

Adobe CS5.5のセミナーに行ってきました。

Adobe CS5.5が発売されたので、説明セミナー受けてきました!

まず、今回のリリースについての説明から。


■発売サイクルの変更


「以前はCSの発売サイクルは18ヶ月、一年半というサイクルで新バージョンをリリースしていたのだけど、これがちょっと短すぎるのではないか、もうちょっと余裕をもってもよいのではないかということで、今回から開発サイクルを2年間とすることにしました」

うんうん。Adobeの新バージョンリリース間隔については、ユーザーの私たちとしても「ちょっと早すぎるんじゃないの?」と感じていたところ。
なんせ、前のバージョンもろくに使ってないうちに、もう新しいバージョン発表?!って感じのサイクルだったもんなー…。サイクルが半年のびたくらいじゃあまり変わりはないけど、それでもまぁちょっとでも長くなるのは賛成。

「ただし、その2年の間に中間バージョンをリリースします」


えっ?


「中間リリースでは、すべてのコンポーネントが更新されるわけではありません。市場の変換にあわせて、技術革新の多いものや、セキュリティ上のリリースなど更新が必要なもののみがアップデートされます」


えっっ?


「今回のCS5.5が、その中間バージョンにあたります。中間リリースは、2年間の開発期間の間、1年ごとにリリースされます」


えっっっ?



気のせいかな。
今、私の耳には「Adobe税の納税時期が1年半ごとから、1年ごとになったよ!」って聞こえたよ!



ええっとつまり、中間バージョンとかなんとかいうけど、結局、一年半に一回のバージョンアップが毎年一回になったということだよね。
しかも「中間バージョンでは更新されないコンポーネントもある」「技術革新の多いもの、セキュリティ上のリリースなどを中間バージョンで」ってつまり、言い方をかえれば「メジャーバージョンほどの機能追加なんかはないけど、多少の機能追加と、あ、あとセキュリティ上のアップデートも有償アップデートとして金とるから!」って感じ…。
賭けてもいいけど、この中間バージョンには、メジャーバージョンのバグフィックスも含まれるに違いない。

しかもご丁寧にも「InDesignCS5.5は、InDesignCS5との互換性はありません」
つまり、印刷会社のような、ユーザーのデータを受ける側はとにかく全部のバージョンをそろえておく必要があるのだ。そうでないとお客様のデータに対応できない。

すげー金かかるよ!

AdobeはCS5.5の発売にあわせて、サブスクリプションプランという、月額定額プランを発表したけど、これが実は大して安くないという話があってたんなる月賦でしかない。いや、月賦ならいつか終わるけど、終わらないんだから月賦より悪いか。
最近はCLPやらTLPやらのボリュームディスカウントとかいろいろな契約形態で、(特に大きい会社になればなるほど)その中での割引などがあるけど、小さい会社や個人ではそんなのないし、いくら割引されてるといってもこうも頻繁に有償アップデートがでるなんてAdobe税が重すぎですよ!


■アプリケーション開発ツールとしてのCS5.5


さて、ともかく、CS5.5アップデートはAdobeのいうところの「中間アップデート」になる。
市場の変化や技術革新に対応するためのアップデートということで、CS5.5は主に、スマートフォンタブレットバイスといった新しい端末への対応がメイン。具体的には、iPhoneiPadAndroidといった端末への対応。電子書籍、電子出版への対応というのが主なアップデート部分。

すべてのコンポーネントが更新される訳ではないという説明の通り、今回更新されるのはこういった新しいデバイスへの対応が必要なアプリケーションのみ。

DTP的によく使うツールでいうと、InDesignAcrobatは更新されて5.5になるけど、Photoshop、Illustratoは5.1として、今回のバージョンアップでは変更がないらしい。(なんかこの5.5とか5.1とかいう言い方もわかりにくい…。それぞれのアプリケーション固有のバージョンがあるのに、さらにCSとしてのバージョンも分かれてしまったということか?)


CS5.5アップデートを一言でいうと、CS5.5は「アプリケーション開発ツールとしての機能が追加されたアップデート」

スマートフォンタブレットバイスへの対応って結局「CSのアプリケーションから、新しいデバイス対応のファイルが書き出せる」ってことらしい。新しいデバイス対応のファイルって結局、スマートフォン用のアプリだったりするから、ある程度アプリケーション形式のファイルも書き出せるようになったというわけだ。

他にも、Adobeはいままで、Flashに力をいれてきたのだけど、FlashAppleに嫌われ(?)iPodiPhoneといったデバイスで再生することができない(正確にはWebサイトのコンテンツとしての.swfファイルの再生ができない)なので、Adobeとしても今後はFlashに変わる技術に積極的に取り組んでいくとして、HTML5への対応強化。

HTML5は2014年勧告予定で今制定が進んでいる。
まだ決定されたものではないが、その使用環境(対応ブラウザ)はどんどん増えており、注目される。
現在の課題はブラウザごとの実装の違い(による互換性の問題)だが、将来的には解消されていくだろう。

また、電子出版への取り組み。電子出版と一言で言っても、雑誌系と書籍系にわけられる。大まかな区別としてリフロー前提の書籍系と、レイアウト重視の雑誌系。
このうち、書籍系について、Adobeはこういった(出力などの)フォーマットについては常に世界標準に照準をあわせていく。書籍系で今後標準となりそうなのはEPUBであり、そこをサポートしていく。

EPUBについてはまだ3.0の仕様が固まっていないが、3.0では日本語がサポートされるということもあり、固まり次第随時対応していく予定。

電子出版の分野についてはInDesignが印刷から電子出版まで、そのオーサリングハブとなる。

AdobeInDesignで(というか、CS5.5で)目指すのは、プログラムを作ったことがない人のためのデジタルパブリッシングツール、らしい。
コードをかかずに(プログラミングなしで)開発ができる、今までのコンテンツ制作の延長上で(新しいデバイス用の)アプリケーション開発ができるツール、ということ。

InDesign5.5で今回追加された機能は、デジタルパプリッシング対応の機能が中心。
まずEPUB対応。EPUBの書き出しの際、画像に対する処理などを一括して設定できるなど、細かい設定ができるようになった。ただしEPUB3.0については仕様が固まっていないので、暫定対応。

段落スタイルでは"タグを書き出す"機能が追加。(HTMLやEPUBなどへの)書き出しの際、そのテキストにどのようなタグをあてるか、段落スタイルで指定できる。
アーティクルパネルでは、そのコンテンツの読ませ順などを設定できるようになった。印刷物を作るだけなら必要ない機能だけど、電子書籍データなどでは、どのコンテンツから順番に読ませるかという設定が必要、その設定を行う。

段落スタイルもアーティクルパネルも、データ作成途中の段階から、きちんと気を使って設定していく必要がある。

いままで、印刷用データを作る場合なら、とにかく見た目さえ整っていればこと足りた。多少データの作りがめちゃくちゃでも、見た目さえ整っていれば(そして出力さえできれば)問題なかった。
しかし、電子書籍を作る場合、印刷用データとちがって、見た目だけではなくそのデータ構造まで考慮が必要になる。
段落スタイルを利用してタグを書き出すのであれば、前提としてすべての段落に正しい段落スタイルが設定されていなければならない。
これはデータが出来上がった後から設定しようというのは大変すぎる。アーティクルパネルでの設定も同様。データを作成する段階から、最終的に書き出されるデータのことを考えて設定を付加していかなければならない。

データ作成者がより、データのことを考えてデータを作っていかなければならないということだ。

もう一つ、Adobeが開始を予定しているサービスDigital Publishing Suiteへの対応。

Digital Publishing Suiteについては以前からセミナーで説明があっていたけど、Adobeの提供するクラウドサービスの事。
電子書籍の配信、課金、効果測定という一連のサービスをAdobeが提供する。
今回InDesignCS5.5には、このDigital Publishing Suiteで配信するためのファイルを書き出す機能というのもついた。
データにインタラクティブな機能をつけるAdobe Interactive Overlay Creator、そのデータを電子書籍データ(folio)としてまとめるFolio Builder(以前はAdobe Digital Content Bundlerって名前だった?)
InDesignにアプリケーション開発機能がついた、という話は主にこのfolioの書き出し部分をさすのだと思う。


問題はそのお値段。

以前のセミナーではお値段について、月額$699と、アメリカでの値段しか提示されてなかった。
いつまでたってもドル表示なんで、日本でやる気ないのかーとか思ってたんだけど、さすがに本格的にサービス開始となって、ようやく日本円での値段が決まったらしい。



Digital Publishing Suiteには、プロフェッショナル版とエンタープライズ版がある。エンタープライズ版については値段は要相談の個別見積もり。これは通常のサービスプラス、カスタマイズされたサービスを求める顧客のためのもので、プロフェッショナル版で提供されないサービスを求める場合のみこちらの契約となる。
一般的に使われるのはプロフェッショナル版。では気になるそのお値段は。

「年額 600,000円」

ああ、まぁアメリカでの値段が月額$699だったから、そこから計算すると妥当な値段。いや、むしろがんばった値段か?


「プラス、サービス費 年額625,000円〜」


えっ?


「プラス、サービス費 年額625,000円〜」


えっっ?
サービス費ってなに?しかも「625,000円〜」ってその後ろについてる「〜」はなに。


「サービス費とは、従量制の使用料金です。配信部数2万5千部を1単位として、625,000円ずつ配信部数に応じてお支払いいただきます」


えっっっ?


ってことは、「年額600,000円+サービス費625,000円〜」で、「最低年額 1,225,000円から」って事???



  。 。
 / / ポーン!
( Д )




「ちなみに、InDesignFolio Producerツールで作成されるfolioファイルはこのDigital Publishing Suiteのサービスを通してしか配信できません。InDesignFolio Builderをつかって作成したfolioファイルを配信したければ必ずこのサービスを契約する必要があります」


ってことは、最低でも年間120万を払えなきゃ、このツールは使えないという事?
せっかく「プログラミングをしたことがない人でも簡単にデジタルパブリッシングができる」ツールなのに、それを使って作ったデータを配信するのに年間120万〜かかるの?

だとしたら、日本でこのツールを使える人ってとっても限られてくるんじゃないだろうか。

いや、もちろんこの額を払うのは別にツールを使う一個人じゃなくて、たとえば会社がこのDigital Publishing Suiteサービスの契約をして、そこで配信するためのデータを作成する、そこにはお金はかからないという事なのはわかるんだけど、

でも、そもそもこのサービスを契約するところが日本で何社あるんだ?あんまり数は多くないような気がするなぁ…。自分の仕事でその契約しているところがなければ、使う事ができない。

InDesignからインタラクティブ電子書籍データを簡単に作れる!って期待した人も多かったと思うんだけどな。せっかくいいツールでも、そのツールで作ったファイルを配信する手段がないんじゃ、使えないなぁ。
特定の会社が特定の業務用としてDigital Publishing Suiteサービスの契約をして特定データを配信するとかじゃ、その特定業務に関わる極々一部の人しか使えない。

このツールをみんなが使うようになるには、例えば電子書籍ストアでの配信ファイル形式の一つとしてこのfolioファイルがサポートされるとかそういう事でもないと難しそう。
でもそうなると今度はDigital Publishing Suiteのサービスが邪魔になるんだよなー。電子書籍ストアとかなら当然配信、課金、分析の仕組みは持ってるだろうし、自社のシステムにこれを組み込むとなるとエンタープライズの契約になって、プロフェッショナルより高い契約になる。そこまでしてこのツールを使うかな?うーん。


と、いうことで、CS5.5の説明セミナーだったんだけど、なんか全体的にお金の話しか印象に残らなかったよ!

結局、CS5.5は電子書籍関連機能が強化されてるけど、それを業務で使える人は多分そんなに多くない。そもそも電子書籍の業務自体がそんなにない(東京ならともかく、地方では0に近い)し。

多分使い込むまえに次のバージョン(CS6)がでるだろうしな!
お金もかかることだし、みんな、無理にアップデートする必要ないかもよ!