メルカリ小泉文明社長と、ファッション誌編集者・軍地彩弓氏の対談。第三部は、アパレル業界を超えた「メルカリ経済圏」の社会的インパクトと意味について語る。小泉氏がメルカリをさらに成長させていく計画戦略を語る中で、メルカリを通して変えようとしている未来像も見えてきた。
提案しなおしただけなのに
軍地 メルカリがここまで大きくなるイメージはもともと持たれていたのでしょうか?
小泉 想定はしていました。物の売買は、物々交換の時代から、誰でもやっていたことですよね。今でも街の中でフリーマーケットなど盛んに行われています。ですから、根源的にあるものを、インターネットやスマホを使って広げたという感覚なんです。
新しいコンセプトを押し付けているイメージはなく、元々あったニーズを今の時代に合わせて届けただけなんですよね。だから、国内ダウンロード数は5000万を超えてはいますが、もっと使われてもいいなと思っています。
軍地 5000万ダウンロードなんて、日本の人口の約半数ですよ。すごいことなのに、まだまだ、だなんてさすがです。
小泉 家にあるものの6〜7割は非稼動だと環境省のデータで明らかになっています。メルカリでは、これまで捨ててしまっていたり、置いてあるだけの物を引っ張り出して価値を新たに設定して動かしているイメージです。
私たちが成長しているからといって、他の個人売買サービスや店舗さんが落ちているわけではない。実は、ヤフオクさんも伸びていますし、リアルな店舗も伸び悩みはあれど、売上が半減というような危機的状況にあるわけではありません。ただ単に、メルカリが新しい価値を生み出しているだけなんです。
小泉 ネットとリアルの議論がよくされますが、5〜10年後にはその議論はあまり意味をなさなくなると考えています。先ほども(中編にて)言及しましたが、現実的に、メルカリやInstagramの中に女の子たちの精神的なリアルがあるわけですから。
実店舗で欲しいものも、ネットで欲しいものも同じ商品です。表現する場がデジタルに移り、自分が自分らしく生きていける軸の中で、ネットとリアルの垣根はなくなってきていますね。
メルカリのライバルは、バイト?
軍地 SNSで流れる情報は、加工している「嘘情報」ばかりだと指摘する声もありますが、ネットとリアルの垣根を意識しない彼女たちを、私は否定したくない。彼女たちが、やっていることをどう楽しんでいるのかを理解する方が大事です。
働き方改革が叫ばれるなかで、今までは会社に預けていた自分の時間を、今後はある程度自分でコントロールしなくてはいけない時代になります。その流れにおいて、自分にとって大切な時間をどう楽しむか、その楽しむツールの1つとしてメルカリが存在しているのでしょう。
また、「働く」という切り口でいうと、メルカリの対抗が物流ではなくアルバイトであるという意見を伺ったことがあります。
アルバイトで1時間を使って稼ぐ1000円と、メルカリを使って数分で稼ぐ1000円の価値が一緒になっていたりする現状を踏まえて、「労働価値」の中にもメルカリが入り込んでいる。お金の稼ぎ方の概念もメルカリは崩してしまっているわけです。
小泉 それは私も感じていました。
軍地 大きく言うと、メルカリは貨幣経済を価値経済に変えている存在でもあり、個人のエンパワーメントを果たす存在、お金と時間の関係性を崩した存在でもありますよね。
小泉 今までは所持金を消費すれば経済活動が終わっていたものが、メルカリで売買を繰り返すことによって経済活動が循環してきていると感じています。むしろ、最初の所持金を使うことより、売買を繰り返す後半の経済の方が大きくなってきているのではないでしょうか。