日本と海外で感じる“原発”の温度差同情が非難に変わるとき(2/2 ページ)

» 2011年06月16日 10時00分 公開
[登丸しのぶ/Shinobu T. Taylor,ITmedia]
前のページへ 1|2       

「フライジン」たちの行動は過剰反応か

 日本では震災後、原発への不安から日本を離れる外国人が相次いだ。外資系企業の中には管理職クラスの外国人が突然出社しなくなり、機能不全に陥ったケースもあった。多くの日本人は彼らに批判的で、「日本から逃げ出すガイジン」を意味する「フライジン」という新語も登場した。

 批判をしている日本人の多くは、このような外国人の避難行動を“過剰反応”と考えている。しかし、彼らは母国の報道と大使館からの情報を自分なりに解釈して結論を出して行動している。フライジンの出現は、彼らが入手する「海外で報道されている内容」と、日本の報道内容にギャップがあることを示しているともいえる。米国在住歴が長くて英語の情報収集に問題がなく、米国のニュースにも目を通している在米日本人の中には、日本に住む“日本人”の落ち着き払った態度に疑問を感じている人も多い。

 原子力発電所の事故が発生した当初、日本政府は原発の国際的な事故評価尺度(INES)において、レベル4との見解を示していたが、CNNでは当時からこれに疑問を示し、複数の専門家の意見を引用してレベル6か7(チェルノブイリと同等)が妥当と伝えていた。結局、日本政府の見解もレベル5、さらにレベル7へと修正されていった。

 米国人の中には、ニュースも見ずに勝手な思い込みで、「被災地から来た人と接すると放射能がうつる」などと迷信的な認識を持っている人も確かにいるが、情報収集能力に長けた人たちも全体的に日本人より事態を重く見ている。

是と否をはっきりさせる米国

 米国では福島第一原子力発電所の放射能拡散問題が発覚した直後にオバマ大統領が演説し、「ハワイ、アラスカを含む米国の領土には健康に害を及ぼすほどの放射線の影響はない」と“明言”した上で、米国合衆国原子力委員会(NRC)をはじめとする専門家の意見を慎重に検討した結果、日本政府が出した20キロ圏内退避勧告を「不十分」と“断言”し、4倍の80キロ圏内の米国人に避難勧告を出している。

 米国でこのような国家的な危機や事件が起こったときには、必ず大統領が演説をして、是か否か、白か黒か、YESかNOか、国としての意見を決めて国民にはっきりと示す。一方、日本の政府は、大規模は災害や広範囲に影響を及ぼす可能性のある深刻な事故に対して、「国はこの事態をどう見ているのか」「今後どのように対処するのか」という明確な方向を報道を通して伝えていない。政府の発表やそれに対する報道のはっきりしない評価と態度に、日本では原発事故に対して報道規制が敷かれているような印象さえ受けた。

 今回の震災で、日本の危機管理の甘さが海外で懸念事項して評価されているが、この問題は、原発事故への対応だけでなく、情報公開の方法と内容、そして、それを伝える報道の姿勢も含めて、海外の人々や企業、そして政府が日本の危機管理対策や発信する情報に不安や不信を想起する危険性をはらんでいる。日本政府と報道当事者は、このような事態を全力で回避することが求められているだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー