昨年の小野寺正前社長に引き続き登壇した田中孝司社長

KDDIの田中孝司社長は、11月16~17日にかけて香港で開催された「Mobile Asia Congress 2011」の基調講演に登壇。「持続可能性を維持したまま、顧客のエクスペリエンスをどのように改善するか」というタイトルで、急増するトラフィック対策と新たな収益源について解説した。

まず、田中社長はKDDIについて、売上高413億500万米ドル、利益が56億7,500万米ドルで日本第2位の通信会社と紹介。携帯電話では加入者が3,370万のシェア28%、光回線が200万加入で9%だが、「アグレッシブにビジネスを展開している」と説明した。CDMA2000方式の3G、2012年12月スタート予定のLTE、FTTHの「auひかり」、WiMAXの「UQ WiMAX」、公衆無線LANサービスの「au Wi-Fi」という通信サービスを提供し、CATVのジャパンケーブルネットとJ:COMなどで国内シェア66%を確保。さらにモバイルバンキングの「じぶん銀行」、モバイル損保サービスの「au損保」という幅広いサービスを提供する「ユニークな会社」と述べた。

これに加え、さまざまな企業との強力なパートナーシップも重視しており、こうした連携で、「非通信事業からの収益の獲得を目指している」と説明。続いて田中社長は、「日本では急激なスマートフォンの成長がある」と述べ、2011年10月には販売した携帯電話の半数以上がスマートフォンになり、初めてスマートフォン比率が5割を超えたことを紹介した。

現在のKDDIのシェア

さまざまなサービスを提供する

多くのパートナーとの協業を重視している

急激なスマートフォンへの移行が進む日本市場で、とうとう販売比率が50%を超えた

スマートフォンのデータ通信は定額制だがフィーチャーフォンよりデータARPUが高く、11年第3四半期にはデータARPUが前年同期比6.5%・150円増の2,460円になっており、増加率は右肩上がり。これにともない、「スマートフォンへの移行で収益は向上している」との見解を示した。ただ、こういった現状に対し、「いいことばかりではない」と田中社長。2011年9月には、全体のトラフィックのうち60%がスマートフォンによるものだったとのことで、10%のスマートフォンユーザーがフィーチャーフォンユーザー全体のトラフィックに匹敵するそうだ。

田中社長は「スマートフォンがネットワークのキャパシティを食らい尽くしてしまう」と危機感を示し、現在、日々のトラフィック量に応じて規制をかける方法を採用しているが、「これは長期間の対策ではない」と続ける。データトラフィックの急増に対して、顧客のエクスペリエンスを下げないような対策の必要性を強調した。

スマートフォン比率の上昇にともない、データARPU模造化している

スマートフォンはネットワークの利用率が高く、トラフィックの多くを占めている

その1つがLTEの採用で、2012年末からスタートさせる。田中社長は3Gネットワークは2012年には オーバーフローすると予測しているが、LTEの採用によりキャパシティに余裕ができ、新たなデータの急増をカバーできるとしている。しかし、この余裕も2014年にはオーバーフローするとの見解だ。

来年にも3Gのキャパシティを超え、LTEを導入しても14年には帯域が足りなくなるとの予測

この対策として、田中社長は寓話をもとにした「北風と太陽」という2つの方法を紹介。「北風」は、ポリシーベースの帯域制限と定額制ではない料金プランで、こちらは顧客に負担を強いる。「太陽」は、トラフィックのオフロードでネットワークを拡張し、接続制御、そして手ごろな料金プランの設定で、より良い顧客のエクスペリエンスが提供できる。「KDDIは、"太陽"のアプローチを選択している」と田中社長は強調する。

「北風と太陽」の2つの方法のいずれを採用するか。KDDIでは「太陽」を選ぶ

この「太陽」アプローチが、「3M戦略」だ。3Mは、マルチデバイス、マルチネットワーク、マルチユースの頭文字をそれぞれ取ったもので、「3Mの世界に向けて、サービスと料金プランを再構築し、効果的で顧客フレンドリーなデータオフロードを提供することで、より良い顧客のエクスペリエンスが提供できる」と田中社長は説明する。

KDDIのある日のネットワーク利用率では、トラフィックのピークはターミナル駅周辺では16~21時にかけてと7~9時にかけての2回、住宅街では21時以降にピークがあったという。そのため、これらのピークに対しては自宅での利用にはFTTHによるオフロードが、屋外では公衆無線LANでのオフロードが必要との考えだ。

さまざまなデバイスをさまざまなネットワークで、さまざまな利用をしてもらうのが3M戦略

通信動向を見ると、駅周辺と住宅街ではピークが少しずれている

公衆無線LANでは、au Wi-Fi SPOTを2012年3月末までに10万スポットまで展開。WiMAX内蔵スマートフォンによる+WiMAXも活用する。屋内では、FTTHに加えて66%のシェアを誇るCATVを活用。Android搭載STBを開発中で、ユーザーの無線LAN利用を推進していく。

マルチユースでは、インターネットサービスの各プレイヤーとの強力なパートナーシップに加え、シングルサインオン、ワンストップペイメントを実現するau one-IDを提供する。クラウドベースのサービスを提供することで、顧客は固定・携帯の回線を気にせず、顧客フレンドリーだと指摘。KDDIでは仲介料を得ることで、「非通信事業からの収益を目指す」と田中社長は述べる。

それぞれに対策するためのマルチネットワークを提供。その上で、使ってもらえるような利便性も追求する

パートナーシップによる非通信事業からの収益を高めていく

日本では、デジタルコンテンツのうち、ビデオの34.8%、音楽の96.4%、ゲームの62%、本や写真集などで86.1%が携帯キャリア経由の支払いで購入されているとのこと。KDDIでは、この携帯支払いの収益をさらに向上させていく考えだ。

デジタルコンテンツ販売におけるキャリア経由の支払い

田中社長は最後に、「持続可能性を維持したまま、顧客のエクスペリエンスをどのように改善するか」という講演タイトルの答えについて、「顧客により良いエクスペリエンスを提供する"3M戦略"がKDDIの答え」と語った。

講演後には、LTEだけでなくWiMAXも推進していくことを改めて明言し、WiMAX2へと進化させていく。スマートフォンはLTEをベースにして、WiMAXはPCの通信をオフロードするといった役割になっていくという考えを示した。また、「端末の進化にネットワークの進化が追いついていない」との認識を示し、「使いやすい端末が出れば、ユーザーはネットワークを多く使う」ことから、スマートフォンの増加で個々のユーザーの利用率が上がっている現状において、さまざまな対策を考えているとコメントした。

このほかiPhone 4Sの販売も順調で、「現在は品薄状態」と説明。Android端末も引き続き順調で、iPhone 4Sを取り扱ってもほかのスマートフォンへ大きな影響はなかったという認識だ。

(提供:AndroWire編集部)

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