ホラー映画としてかなりまっとう『ムカデ人間』

ムカデ人間』をDVDにて鑑賞。id:doyさんのご好意により観ることが出来ました。本当にありがとうございます。

荒木飛呂彦先生によるところの「田舎に行ったら襲われたホラー」の系譜。ドイツの田舎に行った旅行者二人(しかも女の子)の車がパンクして、あたふたしてたところ、マッドサイエンティストにとっつかまってしまい、彼がかねてからやってみたかった「ムカデ人間」の実験台になってしまうというのがあらすじ。

映画の見所はなんといっても肛門と口を手術によってくっつけられ、ムカデ人間にさせられてしまうという部分なのだが(上記の画像参照)、その人を喰ったようなタイトルとティーザーからは想像もつかないほど実はまっとうな作りで、田舎で立ち往生してからの流れは完全に『悪魔のいけにえ』であり、一瞬だけ助かるかもしれないというプロット上のツイストは『ミザリー』を彷彿させ、ラストの展開も含め、映画はクラシカルなホラー映画の雰囲気が漂う。

これが人を喰ったようなティーザーだ!

低予算なのは作品を観れば明らかだが、いかにも「ホラー映画大好きでいろんな映画観まくって勉強しました!」という『キャピン・フィーバー』的な姿勢が画面の隅々から漂っており、下地がしっかりしているからこその「ムカデ人間」なんだなと素直に感動した。カメラワークも画の捉え方も説明の省きかたも凡百のTV屋映画とは一線を画しており、演出がうまい低予算のぶっ飛んだ映画という意味では『片腕マシンガール』にも通ずるものがあったし、「狂ってやがる!」という部分に重点を置いたことも勝利した要因だろう。

展開はアメリカンなホラー映画だが、個人的にドイツが舞台で、そこに日本人(しかもヤクザ)と英語圏の女性が絡むというのがとても新鮮に感じた。

ドイツ語と英語と日本語が飛び交うということからも分かるように、全員言葉が通じないため、基本的な意志の疎通が出来ず、この場所から逃げ出さなければならないというプロット上の仕掛けのうまい足かせになっているのだ。というかぼく自身ホラー映画にあまり詳しくないので、他にもそういう設定はあるのかもしれないし、実際『ホステル』にもそういうのがあったが、それがより顕著になったと言える(詳しくないならそれ書くなって話なんだけど)。

さらにムカデ人間にされてからは口まで封じられてしまい、その先頭にヤクザがいることで、余計に意思の疎通が計れない。そして日本人特有の「侍精神(サムライソウル)」みたいなものがラストに効いて来て、キャスティングも奇を衒ったものではないことがよく分かる。

そのヤクザを演じたのは映画監督である北村昭博氏。中盤、そのヤクザがギャーギャーわめき散らすわけだが、マッドサイエンティストの狂った計画を知ってからは戦慄を覚え、その後は女々しく「やめてー!やめてー!」と泣きわめくという演出がステレオタイプながら、説得力のある演技のおかげで陳腐にならずにすんだ。むしろたいへんすばらしい。

というわけで、『精武風雲』や『ピラニア3D』同様、こちらもめでたく日本公開が決定したわけだが、個人的にはホラー映画の一本として普通におすすめ。レイトショーで、ビール片手にわーわー言いながら観たい感じ。あういぇ。

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